20話
※登場人物の名前を一部変更致します。
新藤 浩之 → 新藤 喜浩
春辺 朱莉 → 春辺 朱音
「ひろゆき あかり」で検索したら理由がわかると思います。
無知は罪なり
各学年で体育祭の選出決めを終えた日の翌日の放課後。
教員棟にある一室。前方にあるホワイトボードを起点に長机と椅子がU字で並べられており、その机には三角に折られた紙に各クラス名が書かれた名札が置かれている。そして今、俺達はある種目の説明を受けるためにその指定された席に座り待機していた。
次第に各クラスの席が埋まり、種目担当の先生達も後方の席に座っていく。そして最後に、素人目からでも分かる、内に秘めてるであろう筋肉質な身体によって制服を縮小させてしまっている男子生徒が入室し、ホワイトボードの前へと立った。そこで座っていた生徒全員で立ち上がり姿勢を正して正面を向いた。
「それでは不肖、この私三年の猪田 昂輝が先生方にお願いを申し出させて頂き、白組の団長を務めます!!宜しく!!」
「「「宜しくお願いします!」」」
ホワイトボードの前で三年生組の猪田先輩が胸を張り覇気のある声で団長宣言をする。そしてその覇気に当てられた全員で声を正して猪田団長に対してお辞儀をする。
挨拶が済み各生徒達が座ったのを確認し『うむ』、と頷く猪田団長。その様子は肩書に見劣りせず、むしろ貫禄が増している。
「それでは応援団の行事内容、今後の練習時間について説明を行う」
今度は先生方が応援団の事が書かれている資料を持って立ち上がり、クラス毎に一つのそれを置いていく。
そして俺と朱音は内容を覗き込んだ。
「頑張ろうね。ヒロくん」
「おう」
ぽしょりと俺の耳元に手を添て声を掛ける朱音に対して俺も返事をする。
―――どうしてこうなった。
口に出せない不満と共に、こうなった経緯が頭をよぎる。
☆☆☆☆☆☆
順調にリレーの選出が済み、借り物競走、騎馬戦といった種目も決まった頃に、前川先生がふとして立ち上がり言葉を発した。
「そういえば応援団も決めなきゃな。新藤、面白そうだからお前やれ」
急な名指しに少し困惑したが、まぁリレーの時に熱い思い(笑)を真に受けたのだろう。そう勝手に解釈した。
「うぇーい。何でも良いすよー」
「さっきの熱い宣言は何だったんだ?まぁ決まりだな」
目的の件が済んで後はどうとでもなると油断していた俺はこの時、応援団?気合い入れときゃ何とでもなる。そんな考えで返事をした。後は男子の誰かが挙手をして決まるだろうと思い込んでいた。
「それじゃ、次は女子。応援団したいやつは手を上げろ」
―――女子!?女子何で!?
思わず目を見開き先生を見る。先生は此方を一切見ることはせず周りの女子達に誰か参加したいやつはいるかという視線を送っていた。
返事をしてしまった俺は今更嫌だと言えない。ならば周りの男子、女子と熱い青春を送るという、夢見る男子ならチャンスじゃないかと、俺が代わりにやります!と言いたげな男子を探す。
―――結果、尽くが視線を合わさず。お前らここでヘタれないで!?
ここは頼みの綱であるあいつに、と思って蔵元を見たが未だチョークで選出の名前を書いている。全員の名前を書いているので疲れで手が震えている。お疲れ様。
腹をくくるしかあるまい。そう思っている俺の耳に女子の『はい!』と高くて元気な、それでいて聞き覚えのある声が聞こえた。
嫌な予感がする。そう思って声の発生源を見た。
「私、応援団頑張ります!!」
「よし春辺で決まりだな」
―――朱音!?朱音何で!?
俺の驚愕など意に介さず、先生の用件はそれだけだったらしく席につく。
恐る恐る朱音の方へ向くと、両手でガッツポーズを取ってふんす、と鼻息を荒くして気合が入った顔をして此方を向いていた。
協力者であるはずの、朱音の隣の席である高垣は我関せずとして外を眺めていた。
―――高垣ぃ!何故朱音を止めなかったんだ!!
高垣は役に立たないと思い次に佑の方へ顔を向ける。佑ならば、俺と代わって朱音と共に応援団員になってくれるかもしれない。そうすればお似合いの二人のパフォーマンスで今までにない盛り上がりを見せてくれる筈だ。参加種目が多くなって佑の負担が増えてしまうが、それでもどうか代わってくれないだろうか!?
アイコンタクトを通して思いを受け取った佑は、微笑みを向けてきた。その表情を見て俺はほっとして肩の荷が下りる。流石は親友。きっと俺の思いを汲んで代わってくれるのだろう。
佑は声に出さす口を開いた。
『応援、楽しみにしてる』
―――神は死んだ……。
☆☆☆☆☆☆
「人生とはままならない物だな」
「そこ!今は私語厳禁だぞ!」
「はい!すいません!」
会議の内容を聞き流しながら過去を振り返り思わず呟いた言葉を耳聡く聞きつけた猪田団長は俺に注意してきた。不意な事にビクっと体が跳ねてしまったがどう見ても今の状況では俺が悪いため素早く謝罪を行った。『よろしい』、と頷く様子を見るからに許されたらしい。
隣の朱音はジトっとした目で俺を見てきたが俺は気にしない。
「今回の白組は、インパクトのあるものを出したいと思っている。学ランを使ってな」
ある程度話が進み、今は応援内容、要はどんなパフォーマンスをするかという議題になっている。今の制服はブレザーの為、中学時代に使っていた学ランを各々が準備するという事になっていた筈だが、はてさて、猪田団長からは学ランを使ってどんな内容を提示されるのやら。
「俺は、男子が女子の制服を、女子が男子の制服を着て応援合戦に挑もうと思う」
インパクトの使い方間違ってませんか猪田団長?いや、確かに生徒にも観客にも色んな意味でインパクトが襲ってくるが、それでいいのか。それに猪田団長、貴方が女子の制服着たら百パーセントはち切れますよ。公然わいせつ罪で捕まりますよ!
「どうだろうか?」
真面目な顔をして頓珍漢な事を問うてきた猪田団長。コンプライアンス的にもまずいし、まず女子勢がいい顔をしないだろう。
しかし俺の考えとは裏腹に、誰かが言葉を発した。
「何それ面白そう」
2-Bの名札が置かれた、見た目がギャルの様な女先輩からだった。男ならまだしも、女子がそう言ってしまった。そこからは次第に賑やかになり始める。見れば女子勢の七割が面白そう、三割が仕方無い、といった呆れた表情を浮かべている。反対意見を言わないのは嫌と言うほど満更でもないといった所だろうか。逆に男子勢は焦っている俺を除いて全員が乗り気である。
『制服借りても大丈夫?』、『やっべ、学ラン従弟にあげちゃったよ』、『サイズ合うかな』と肯定的な意見が回り始めている。俺達以外の一年組もお互い照れながら制服の話をし始めた。
―――おかしいのは俺だけ?
そう言いたいが現代社会に基づいた民主主義の思想によって少数派である俺の意見は流れるだろう。くっ俺の反逆精神がもっと強ければ!
「私の制服貸したげるね!ヒロくんも宜しく!」
「……うっす」
顔を少し赤くして照れながら交換の約束をしてきた朱音。お前もそれでいいのか。
困惑していた俺だったが、ふと気付いた事があった。
俺がこの場に居なかったら、優しい朱音は俺以外の男子に制服を貸していたかもしれない。そうだ、逆に考えるんだ。この場に居たのが親友である俺で良かったのだと。佑じゃなかったのはとても残念だが……。
ちなみに、猪田団長は団長であるために、女子の制服ではなく自分の学ランを使うとの事だった。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。




