2話
「あ……あっ浅見君!わたっ私とお話しませんか!?」
「春辺ちゃん!是非サッカー部の見学に来てくれーー!」
思い出に耽る俺の耳に、窓から吹いてきた春風と共に聞き慣れた親友達の名前と過去に何度も聞いてきた誘い文句が聞こえてきた。
急に聞こえてきた声に思わず高垣と目を合わせ、二人して件の光景を見るべく窓から顔を覗かせた。
「いいよ。どこか話しやすい場所でも探そうか」
「はひぃ!ありがとうございます!こちらです!」
「良いよ〜三島君!案内よろしく!」
「あぁ!春辺ちゃんが来てくれれば部活が盛り上がるぜ!」
二階の教室からでも分かるほど顔を赤らめつつも両手で祈る様な形を作りお誘いしている女子に対して無表情ながらも不機嫌さを見せないクール男子こと浅見 佑と、サッカー部であろう男子からの熱烈な観戦願いに対しにぱぁっと人懐っこい笑顔を浮かべるカワイイ女子こと春辺 朱音。
この二人が俺が誇る親友達、そして件の幼馴染み同士の二人である。
「また知らない人から誘われてる。やっぱり二人はモテるわね」
「そりゃそうだろ。あのルックスを前に誘わない人は居ないだろうよ」
一方は端正な顔立ちに程良くクセの入った茶髪。あまり感情を表さず今時の高校生とは思えないほどのクールっぷり。しかし侮ることなかれ、時折見せる笑みにはどんな人間であろうとも顔を赤くさせる魅力がある。ちなみに雨も滴るいい男とはこの男を指すと言っても過言では無いと言えるほどで雨の日の帰りで傘を刺さずに二人して帰った時は男の俺でさえ『おうふっ』と声が出るほどだ。
そしてもう一方はくりっとした目に少しながら幼さを残す顔と、さらさらとした艶のある桜色をサイドポニーにまとめあげている。先程浮かべた笑顔を見てしまえば男子は目を離すこと能わず、見惚れると同時に庇護欲を掻き立てる事になるだろう。ちなみに彼女が集中する時に見せる顔は普段とはまた違った表情を浮かべるのだが、ギャップ萌えとは彼女の事を現しているに違いないと言っても過言では無いほど。
やはりこの二人は中学のみならず高校生へと至っても輝きは健在の様だ。
「落ち着きのある浅見君と人懐っこい朱音。なるほど、こうして見るとあんたが言うようにお似合いなのかもね」
「だろう!なのに何で付き合わねぇんだよ〜。なぁ、何で?」
「さぁ。当人のみぞ知るってところかしらね」
入学当時から朱音の隣の席であり、彼女のマイペースっぷりに呑み込まれた高校生になってからの友達第一号である高垣は、一週間で見慣れてたであろうこの光景を見て再度納得といった顔で呟いた。
それに対し俺は高垣と共感を得られたと同時に疑問を問うてみたが、望んだ答えは返ってこなかった。女子ならではの考えとか聞いてみたかったのだが、たかだか知り合って一週間の間柄なので、とりあえず保留。
二人がそれぞれ相手に着いていったのと同時に茜色に染まりかけた空を見上げる。
―――まだチャンスはある。この高校生活の中で、二人をより一層サポートせねば。
ここ最近は、受験勉強や二人がくっつかない原因を模索していたせいか、今後俺はどういった行動を取ればいいかというシミュレーションをしていなかった。
高校生という新環境。そしてこの3年間の中で最高の場面といえば気が浮かれる修学旅行、早くて文化祭で挽回するとしよう。
二人の今後を想像しどんなシチュエーションが盛り上がるだろうかと妄想してしまい気付けば無意識にほくそ笑んでいた。
「うわキモ……」
「……」
独特の甲高い音を立てながら俺から椅子ごと身を引く高垣。そんなに気持ち悪い顔をしていたのだろうか。あれ、なんだか目が少し湿ってきたような……。
「そういえば、二人にお互いの事好きかどうか聞いたの?」
「いや、聞いた事ないけど?高垣もこの一週間二人を見てれば察しただろう?」
相手の好みなら聞いたことはあるが……好きな人は聞いていない。まぁ聞かなくても、好みのタイプがお互いの性格、顔、仕草とかなので察しというものだ。それを聞いてニヤニヤしてしまったのは今でもはっきりと覚えている。
二人が互いに向ける親愛を込めた表情に手を繋いで歩く姿。まさに相思相愛を表しているのだが、むしろそこまでいって何故彼氏彼女の関係まで踏み込まないのか。コレガワカラナイ。
「成程、あんたの目は節穴ってことね」
「は?何言ってんの?この曇りなき眼を見てみろ」
「いや、そういう意味じゃ……濁ってるわよ」
「え、嘘。マジで?」
「マジ」
新たな新事実。俺の目は濁っているらしい。おかしいな。ドラマ、映画、漫画とかの感動シーンで毎度涙を流す程なのに濁ってるとはこれいかに。むしろ澄んでいるのではなかろうか。それとも案外自分の事は自分では解らないというヤツだろうか?
いや、そんな事より節穴とはどういうことだろうか。
「ん、二人ももう見えなくなったわね。帰りましょうか」
「え、うんそうだな」
何故そう思ったのか理由を聞きたかったが、外を確認した高垣は立ち上がり際に窓を閉め鞄を取って肩に掛けた。気の抜けた返事をしてしまった手前ここであれこれ聞いても鬱陶しがられるかもしれないと考え俺も自分の席へ鞄を取りに行き、二人で教室を後にした。
ちなみに家で目を確認してみたが、普通の真っ黒だったし濁ってもいなかった。これは言葉を返すようになるが、高垣の方が節穴だったようだな。