19話
※1〜19話まで改稿しました。
怠惰を貪る日曜日が過ぎ、何処か気怠げになる月曜日。少しずつ近づく夏の暑さを感じながら、今日も学校が始まる。
何時もの三人で登校し、教室に入ってから俺が二人と離れ自分の席に着いた時の事だった。
「新藤君!おはよう!早速だけど聞きたい事があるの!」
「朝から元気ですねぇ前田さんや」
開幕から怒涛の勢いで質問してきた前田さん。
髪型は耳元で揃えており前髪をヘアクリップでセットしており綺麗なおデコが爛々としている何処かボーイッシュな女の子。
俺と接点はあまり無いが、確か朱音と仲良く話をしている女子の一人だ。
「んで、聞きたい事って何?」
「土曜日に一緒に居た綺麗なお姉さんは誰なの!?」
「「「何だと!?」」」
あの日を見られていた事に驚いた俺の声と、前田さんの大声を拾ったらしい男子達の怨嗟の籠もった声が重なった。
「どういうことだ新藤!説明を要求する!!」
「場合によっては死刑だぞ」
「是非俺に紹介してください。幸せにしますから」
何やら物騒な事と変な事を言い出した蔵元とその他男子達。だが問われた俺はこんな事で焦るほど経験を積んでいない訳ではない。中学時代初期に佑と朱音と一緒に居た時を見られた時も今と似たような事が何度かあったからな!
「ふっお前達知りたいか?」
「教えて新藤君!気になって夜は熟睡しか出来ないの!」
「健康的な生活してんじゃねぇか」
「教えろください!」
「それはお願いか?それとも命令なのか?おん?」
俺の机を勢いよく叩きながら顔を覗きこむ興味津々とした前田と蔵元と男子達。色恋?の事になると朝からでも気分が高くなるのは男女共通故か。
仕方無くあの日一緒に居た人が実は高垣であることを教えようとした。
「あの人はな、何と……」
「「「……っ」」」
ゴクリ、と誰かの固唾を飲む音が聞こえる。というかその音が聞こえるほど教室が静まり返っている。この場にいない他の人は聞き耳を立てているのだろうか。
まぁいい。聞いて驚け皆の衆。彼女は―――。
「たかっ……っ!?」
言葉を発した瞬間、全身に鳥肌が立つほどの悪寒が走った。これは、殺気!?(錯乱)
ビシビシと感じる威圧は、後ろの窓側の席から。場所を推測するに、この発生源は件の高垣!
思わずそちらを見てしまいそうになるのを何とか堪えた。この状況で高垣を見てしまえば皆は高垣の事だと把握し突撃をかますに違いない。そしてその後俺は確実にシメられる。それだけは避けねばなるまい。
「たか?たかで続く人といえば……」
不味い!上手い言い訳を言わなければ芋づる式に名前が判明してしまう!何かを口に出さなければならないのに体が固まり震えも止まらない!それを止めてください高垣さん!!
「「「あ」」」
周りが上を向き誰かを想像している途中、俺にとって幸運が舞い降りた。SHR前の予鈴鳴ったのだ。
皆が渋々と自分の机に戻る中、緊張が緩んだ俺は腕を組んで机に突っ伏した。そしてちらりと周りにバレないよう腕の隙間を使って高垣を盗み見る。
此方を見て、目の合った高垣は声を出さずに口だけを動かし、俺に何かを伝えてきた。
『バレタラオボエテオキナサイ』
読唇術など習ってはいないはずなのに、言葉を理解してしまった。恐怖により視線を切って担任が来るまで突っ伏すとする。
この後また質問責めを食らうことは確実だ。その時は高嶺の花のフジコサンとか適当な事を言おう。混乱してそのうち忘れるだろう。
余談であるが、最後に見えた高垣の表情は、それはそれは綺麗な笑顔をしていた。ひぇっ。
☆☆☆☆☆☆
「お前ら、このLHMでは来月の体育祭の選手決めをするぞ」
「「「押忍!!」」」
「「「は〜い」」」
前川先生の挨拶により男子達は気合の籠もった、女子達は緩い感じで返事を返す。
高校に入ってからの初めての体育祭。クラス一丸となって打ち込む初めての行事。個性を発揮する絶好の機会でもあり各々が様々な活躍、意外性を見せる場だろう。体育祭を終えればこのクラスの絆は今以上に繋がり団結力も高まる事になる。
そして男子達は成長しつつある身体をふんだんに使う機会でもあり、女子に格好いい所を見せたいといった心境だろうか。御眼鏡に掛かれば同級生のみならず先輩からも声が掛かるかもしれないし。
女子は、まぁ俺は男だから詳しく分からん。後で朱音と高垣に心掛けを聞いてみよう。
そして何より、日曜日に思い付いた作戦を開始する時が来た。
「それじゃ今から種目の確認と選手の順番決めを行うぞ。後は体育委員に任せる」
「うっす」
「はーい先生」
主導権を体育委員になっている蔵元と前田さんに移り二人は教壇へ。今思うと朝に突撃してきた面子じゃないか。
「まずは人気の学級対抗リレー。男女混合だけどんな順番にする?」
チョークを持った蔵元が黒板に『学級対抗リレー』と書き、走順については前田さんがクラスメイトに聞いてくる。
前田さんの一言を皮切りにクラス内ではリレーの話で盛り上がり始めた。
『私運動音痴なんだけど……』、『順番なぁ。どうする?男女それぞれで固めたり?』、『バランスよく行かないと駄目でしょ』だったりと思うところは人それぞれだ。
このままズルズルと話が長引いて決まらない可能性もある。俺の計画のためには男女交互ずつの順番でなければならないので勢いよく挙手した。
「はい、新藤君」
「男女交互でバトンを渡す方が良いと思います!」
「その真意は?」
一番初めに意見したからすんなり通ると思ったが、真意か。そんなもの決まってるじゃないか。
「その方が、男は本気以上の本気が出せる」
俺はキメ顔でそう言った。
「何で?」
「え、何で?えー……それはそのぅ。言っていいのかこれ?」
目線を鋭くした前田さんに問われ俺はしどろもどろになってしまった。女子に『お願い!頑張って!』と言われながらバトンを渡されると男子は120パーセントの力が出るんじゃないですかね?だがそんな事はっきり言えばこのクラスの男子達は軽蔑されてしまうかもしれない。
周りの女子達の顔を伺ってみると『あー。成程』と満更でもない顔をしていた。お、もしかして行ける感じですか?
教壇に立って腕を組む前田さんの方に視線を向ける途中、黒板にチョークを当てたままの蔵元と目が合った。
―――言っちまえ新藤。俺が男子代表として許す。
―――良いんだな?蔵元……。
「?どうしたの新藤君?」
何も言わなくなった俺を見て不思議そうな顔をしている前田さんと視線を合わせ俺は決意した。言うぞ!言っちまうぞ!
「女子にバトンを渡されたい。これがこの1-Bクラス男子高校生の総意だ!」
「じゃーそれでいいね。決定」
「……うっす」
すんなり決めた前田さん、ペースを乱され椅子に座る俺、よく言ったと言いたげな輝いた顔をして黒板に『男女交互』と書き始めた蔵元。これまだ走順決まってないんだぞ?もう疲れたよ……。
「じゃぁ一番は言い出しっぺの新藤君で」
「あぁ!良いぜ!元よりその覚悟だ!」
「そんな覚悟であんな事言うなんて矛盾してるね。変な人」
笑顔でそう言い放った前田さんの言葉にぐさっと見えない矢が心に刺さったが、これしきでは滅気ない。これも計画のうちだ。これで俺がアンカーになるという最悪の展開は免れた。
次の段階に進める!
「それで相談何だけど、アンカーは佑に、繋ぎは朱音に任せたい」
「「え?」」
「浅見君に朱音ちゃん?何で?」
突然の指定に驚く声を出した佑と朱音に、ただただ疑問に思っているであろう前田さん。俺は、卑怯ではあるがあの日あの場での言葉を逆手に取る。
「中学で佑に頼まれて俺がアンカーをやって、バトンの繋ぎを佑にして貰ったんだ。なら今年こそは佑にアンカーをしてもらいたいと俺は思ってたし、バトンを渡すのは幼馴染みの朱音こそが相応しいと思っている。俺はハナを務めないといけないしな」
「その真意は?」
「俺から始まるリレーで皆と力を合わせて、最後は佑に飾って貰いたい!!」
無理矢理なこじつけだとは十分理解している。だが今言ったことは真意だ。本音は今まで見れなかった二人がバトンを繋ぐ熱い光景を見たいといったものだけどな。
「出来るか?無理なら、その時は諦めるよ」
「……そこまで期待するなら、いいよ。頑張ろうねヒロ」
「む〜。ヒロくんがそこまで言うなら、頑張ってみるよ」
「よし決定!じゃぁ次は二番手から朱音ちゃんの前まで決めるよ!」
決まった事に嬉々として蔵元に名前を書くように指示し、走順決めを始める前田さん。滅茶苦茶な言い訳になってしまったが何とかここまで来た。後は任せたよ蔵元。
「なら二番手は私でいいわ。男女交互なんだし」
「うぇ?」
「じゃー二番手は高垣さん。さぁ次は男子!誰が行く!?」
どこの誰が二番手を決めたんだ、と思って聞き耳を立てていると高垣だったようだ。まぁ、高垣なら安心して次を任せられるかもな。
☆☆☆☆☆☆
その後、無事?作戦が進み緊張の抜けた俺は気のない返事を返しながら種目決めに参加していたのだが、これがいけなかった。
その日の晩、俺は少し後悔する事になった。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。
次回から体育祭編




