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15話

 高垣に招かれ、自分の格好に羞恥を感じつつ対面の席に移動する。

 店の中から静かなBGMや、迷惑にならない程度の会話が漏れつつあるが、どこか落ち着いた雰囲気で居座りやすい。今居るオープンテラスには上にテントがあるお陰で直接日に当たらず、季節が春なのもあって風が気持ち良い。これがこの店の売りなのだろうか。


「ドーモ、タカガキサン」


「何で棒読み?普段ならもっと馬鹿っぽい話し方するのに」


「のっけからパンチ強すぎん?」


 ヘコヘコしながら座る俺に、訝しげに此方を見るタカガキサン。

 俺はぱっと見で高校生に、高垣は大学生かそれ以上の容姿。客観的に見て、こちらが釣り合わないと感じてしまいどうも落ち着かない。


 既に飲み物を注文していたらしく、手元にあった見るからにカフェオレの入ったカップを持ち上げ音を立てず一口啜っている。

 その動作だけで中々様になっている。俺には真似出来ないだろうな。

 というか、今9時40分だけど何時から来てたんですかね。


「あ、高垣めっちゃ大人っぽいな。全然分からなかった」


「まぁ普段伊達眼鏡掛けてないし、案外気付かないものなんじゃない?」


 違う。そうじゃない。いや、確かに眼鏡を掛けた高垣を見るのは初めてなのだが、同級生の筈なのに私服が決まって大人びて見えるのだ。


「あんたは……まぁ普通ね」


「普通で悪かったな。素晴らしいぞ普通は。誰にも気に留められる事は無いから気が楽なんだ」


「あんたの持論なんて興味無いわ」


「辛辣ぅ」


 俺に手厳しく接する高垣に相変わらずだな、と内心思う。口にはしないが。

 しかしこうして見ると、もしや高垣はもの凄くモテるのでは。もうちょっと愛想良くなれば男子高校生などイチコロだろう。


「高垣って結構モテたりするんじゃないか?」


「しないわ。それに、たいして仲の良くない男子に告白されても心に響かないし」


「はは〜ん。告白はされたことあるんですねぇ」


「……何よ」


「すんません。調子乗りました」


 きっと俺はニヤニヤしてしまっていたのだろう。だが仕方ない事なのだ。他人の色恋に興味があるのは現役高校生である俺だって同じ。だから何も悪くない。


 高垣は今しがた仲の良くない男子に、と言ってはいたがそういえば学校で高垣が男子と仲良くしている所を見たことがないな。事務連絡位の会話で済ます所は高垣らしいなぁと常々思ってはいたが。何か線引きのラインを作っているのだろうか。

 まぁこれはあまりズケズケと踏み込んではいけない気もするし思うだけに留めておこう。


「そうそう、昨日のことなんだけど……」


「忘れなさい」


「作戦のこ……え?忘れろ?相談の事で今日集まったのに?」


「忘れなさい」


「いや、何に対して忘れろと?今日の目的は何だったよ」


「忘れなさい」


「どうしたんだ高垣!?忘れなさいbotになってるぞ!」


 本題を話そうとしたのに高垣は忘れなさいと連呼するばかり。なら今日集まった意味がないでは無かろうか。一体何の事に対して言っているのか、俺は訝しんだ。


 今度は俺が訝しげに高垣を見ていると、高垣はちらりと見える耳を赤くして俯く。その様子を考察するに今の高垣は……恥ずかしい?といったものだろうか。

 ―――恥ずかしいとなると、ふむ。


「あ、もしかして高垣のおかあ」


「あんたシメるわよ」


「怖い」


 思い出した事を口にすると、高垣はゆっくりと顔を上げ真顔で俺をじっと見て物騒な事を言い出した。その瞳には普段の鋭さは無かった。そう、流行りで言うならハイライトの無い目というやつだった。怖い。

 あ、今更だけど俺だけ注文取っていなかった。助けて店員さーん。


 ☆☆☆☆☆☆


「はぁ。あんたはやっぱ馬鹿だわ」


 はい、本日二度目の馬鹿頂きました俺です。

 昨日の事はメッセージで伝えてはいたが今回は心境も交えて説明した返答がこれだった。在学中、何回連続で馬鹿と言われるのか数えてみるのも面白いかもしれないな。


「あんたは、そうね。それ相応の事をするのなら、目立たない様に動けないの?」


「目立ちたいとかじゃない。結果がそうなってしまうだけだ」


「それが馬鹿って言ってんの」


 馬鹿っていう方が馬鹿何だぞ馬鹿!いや、高垣は俺より成績良かったんだった。やはり俺の方が馬鹿だった。


「用事があるからと断って、この辺りの範囲を二人で勉強しておけ、とか他にやりようあったじゃない」


「うっ、確かに。二人を見てたらいつの間にかそんな考えが浮かばなかった」


 高垣の言うとおりだ。今考えればあの場で席を離れられる機会などいくらでもあった筈。だが、そうなると俺はどうして真っ先にそれが思い浮かばなかったんだろうか。


「う〜ん。よくわからんな」


「何が?」


「いや、こう、今は言葉に表せられないからまとまったら高垣に聞くわ」


「ふ〜ん?まぁいいわ。それじゃ今回のアドバイスよ」


「ん、よろしく」


 無意識に顎に手をやって考え込んでいた俺は姿勢を正し、高垣のアドバイスを聞く事にした。

 呆れたような高垣だったが、やはりあの時と同じようにアドバイスの瞬間は此方を見定める視線になった。


「あんたはもうちょっと自分の事を客観的に見なさい。今回はそれに近い?事はしてたと思うからその調子で」


「客観的……」


 周りだけでなく、自分の事も含めてか。確かに今回は周囲の生徒の心を使おうと画策したわけだが、そこに俺を含めてみろ、ということだろうか?客観的といえば先程思った今この状況も恥ずかしいというものと同じ意味だろうか。

 駄目だ。また思考が雁字搦めになる。中々難しいな、恋愛というやつは。


「それじゃ、この話はこれでおしまい。次は体育祭よ」


「ん、オッケー」


 考え込む俺を気遣ってか、それともその話を早く聞きたいのか高垣は話を切り上げた。だが俺にとっては丁度良かった。このままだったら俺は黙り込んでしまい、高垣に暇な時間を与えてしまっていた事だろう。


「6月の体育祭だけどな、学級対抗リレーってあるだろ?」


「校内新聞で見たけど、一年生クラス同士の対抗リレーでしょ?それで何するつもり?」


 そう、体育祭ではどの学校でも定番の学級対抗リレーがある。

 中学時代、佑を学級対抗リレー決めの際に立候補しアンカーを任せようとしたが、嬉しい一言と共にそのまま俺がアンカーになってしまった。雰囲気に当てられたクラスメイト達と一願となって頑張ったのを今でもはっきり覚えている。

 だが、今は高校生へとなり中学時代は帰宅部だった佑は今やテニス部。対して俺は帰宅部。そしてその事を知らないであろうクラスメイト達。アンカー候補を絞る時、俺は真っ先に除外される筈だ。

 男女混合のクラスのため男子女子の順で順番を決めるのが世の常。佑がアンカーになれた暁にはバトンを渡す女子は必然的に幼馴染みの朱音に選ばれる。


 完璧だ。

 これは中学時代に頓挫した計画だったが、まさかここで帰宅部になってて感謝する日が来るとは思わなかった。

 幼馴染みの二人、片やクラス一美男子のアンカーに、片やクラス一美少女がバトンを渡す。上級生にどんな人達が居るのかははっきりしてないが、その光景を見て生徒はおろか観客達にも興奮ものに違いない。

 そしてあわよくば、体育祭という場で滾った熱い気持ちと想いを通して二人は結ばれるかもしれないしな。

 俺がする事といえば、素直に二人がその役目を担えるよう動けばいいだけ。ははは。まさにパーフェクトサポート術。


 この事を高垣に言えばきっと賛同してくれる筈だ。


「実は……」


 ☆☆☆☆☆☆


「良いんじゃない?」


「え、そんなあっさり言う?」


「あの時言ったでしょ。私なりの協力はしてあげるけど、何もかもはしないわ」


 高垣はやはりあの時と同じように、否定も何もせずだった。

 う〜ん。やっぱり高垣が何を考えているのか予想出来ない。取り敢えずはHR中に選手決めの際は積極的に動くとしよう。


「それじゃ出ましょうか」


「おう。俺が支払いするから高垣は先に出ててくれ」


「あら、珍しく気が利くわね。割り勘でいいのよ」


「珍しいは余計だ!今日の感謝の気持ちだよ」


 俺をからかった高垣は肩が凝ったのか両腕を上げ身体を伸ばし始めた。それによって胸を張っている訳なのだが……うん。中々大きいのではないでしょうか。何がとは言いませんが。


 見なかった事にしようと急いで金額の載ったレシートを手に取って支払いを済ませる為に席を立つ。

 レジカウンターで今支払いをしているお客の後ろで店内の時計を見れば11時。気付けば約一時間程居た事になる。


 話をしてると時間が経つのは早いな、と思っていると支払いの番が来た。


 ☆☆☆☆☆☆


 店を出ると、入口の脇で高垣はスマホを弄りながら待っていた。扉のベルが鳴ると同時に、高垣は此方を一瞥してから街方面へ指を指し始めた。


「昼ご飯、その後ゲーセン」


「え?これで終わりじゃなかったの」


「何言ってるの。今日は休日。遊ぶときは遊ばなきゃ」


 今までの高垣とは想像が付かない言葉に俺は目を見開いた。プライベートだとこうも変わるものなのか。その違いに俺は思わず笑ってしまった。

 そんな俺を高垣は変なモノを見る目で見てくるが、誰だってこうなるかもしれないな。


「仰せのままに。女王様」


「は?何言ってんの。馬鹿じゃない?」


 はい、本日3度目の馬鹿を頂きましたー。あれ、合ってるか?


「あぁそれと、女子は視線に敏感なの。覚えておきなさい」


「……」


 ★★★★★★


 今日は休日。

 リビングのソファに飼い猫のみうちゃんを膝に乗せて座りながらテレビを見ていた私の携帯に、メッセージが届いた音が鳴った。休日だし誰かから遊びの誘いかな?と思って相手を見ればクラスメイトの女子の前田さんから。二人以外の男子からじゃなかったのはちょっと安心。


 何だろ〜、と思ってメッセージを開き、私は驚愕した。


『新藤君、年上の美人な人と二人っきりでご飯食べてたよ!どうする!?』


「え……どえええぇぇ!誰と!?何で!?」


 私の大声で、みうちゃんが膝からもの凄く飛び退いていった。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] いいなぁ~。 高垣さん絶対超美人じゃん! もしかして次は修羅場ですか?
[一言] 今後は幼馴染み視点の話も増えるのかな?楽しみだ。リアクションは、やっぱりそうだよねぇ。
[一言] 朱莉ちゃんからしたら気が気じゃないね、、、
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