1話
思いつきで書きました。
俺の両親は共働きで朝は仕事の為に早く家を出て、帰りは遅くまで働いて帰宅する。俺がまだ幼い時は母さんが見送りと出迎えはしてくれていたが、小学生になってからは自分で登下校出来るようになったし、物心付いた時にはそれが俺のためという事に気付いてから我儘は言わないようにしていた。まぁ色々都合があって俺は両親に対して寂しいという感情を抱きながら幼少期を過ごしていた。
親の転勤もあって当時学校で友達が中々作れず、一人で家で過ごしていた時、たまたま母さんが本棚に並べておいたシリーズ物の漫画の一つに興味を持って、それを手にとって中身を見だした。
幼馴染の男女が、学校で様々な出会いを経て、思い出に残るような行事をこなし、夕焼けを背に遂に結ばれる。
俺は寂しさを忘れ、その中身に描かれた物語に目が釘付けになった。
その恋愛漫画を読んだことが始まりだった。
それが綺麗で尊いものだと理解はしていても、恋愛のれの字も知らない俺は何度も何度もその漫画を読み過ごし、いつしか恋愛というものがぼんやりと解るようになった頃。
―――いつかこんな恋愛をしてみたい!!と。
結果としては休日に親に『おれにもおさななじみってこはいるのかな?』と聞いて、『残念ながら、いないんじゃないか』と言われた時点で己の願望は破綻したと理解した。
急に不貞腐れた俺を見て両親は苦笑いしながら俺を落ち着かせるように頭を撫でていた。
物語のようにいかないことに悔しさを感じてまた恋愛漫画を何度も何度も、ページに皺が出来るほど読みふけって、ふと気付いた事があった。
主軸の人物しか興味が無かった為に気付かなかった、幼馴染み達が結ばれるよう裏でサポートに徹し、応援していた親友枠がいた事に。
そしてその二人が結ばれるのをまるで自分の事の様に喜ぶそのキャラクターを見て、これだと感じた。
青天の霹靂だった。
幼馴染みのいない自分ではこの物語の様なことは出来っこない。ましてや今のままではそこかしこのコマに映る学生と同じ。
―――ならば、自分はこの親友枠の人物のようになって、この情景をもたらす存在になればいいのだと。
目標を定めてからの動きは早かった。学校内で幼馴染みの男女二人組を聞き込んで探し出し、奇跡的に同年代に在校していた事に涙が出るほどに感謝し、その二人に頼み込んだんだ。
『おれ、新藤 喜浩って言います!仲良くしてください!』
☆☆☆☆☆☆
「そして二人の親友となった今の俺が生まれたってわけ」
「へぇ」
晴れて高校生へと上がり、入学式から一週間たった今日の放課後。
人気の無くなった教室では自慢気に過去の生い立ちを話す俺と対面の自身の席に座る女子、高垣 詩織の二人のみ。
親友の紹介で高校に入ってからの友達になるのだが、赤茶色のボブカット、デフォでこちらを睨んでいるかの様な吊り目にまるで同い年とは思えないほど大人びた雰囲気を纏わせている。まさにクールビューティーといった所だ。
初対面での真顔でこちらを見る表情は少々気圧されている感覚を味わう事になったが、仲良くなれてしまえば中々話しやすい相手だった。
そんな高垣は俺の過去を聞いて頬杖を突きながら呆れた様な顔をしている。
「頭恋愛漫画かよ。ウケる」
「俺はあいつらが綺麗で美しいカップルになれるようにサポートに徹しているだけだ」
「その結果が花に集る虫とは……可哀そうにね」
「……」
あの回想の後の事。
俺は無事、幼馴染組の二人と友達になることが出来た。いきなり初対面のやつから友達申請された二人は『……何この人?』と思っていそうな顔をしていた。思い返せば当然の話だ。涙ぐんだやつがいきなり話しかけてきたら俺だってそうなる。
訝しんだ二人はすぐに笑顔に戻りよろしくね、と手を差し伸べてそんな俺に握手までしてくれた。感謝しかなくて今度は涙腺が崩壊してしまったが。
その後は高垣が例えたように、二人に引っ付き虫の如く付いて行った。二人の好きな食べ物、なりたい夢、好きな授業など親睦を深める為にとにかく話をする毎日。次第に休日とかに一緒に遊ぼうと誘われた時は嬉しすぎて手を赤くなるまで握り締めてしまった程だった。
そんな毎日を送って中学に上がり、成長していく二人は俺が出会った頃と比べ物にならないほど人気が出てきた。
片方は女子ならば思わず二度見してしまうほどの美男子に。
片方は男子ならば無意識に視線を寄越してしまうほどの美少女に。
ずっと二人を見てきた俺にとってはすぐにその変化を見抜けず、周りが噂をするようになってから二人に格好いい、可愛いという感情を持つようになった。
二次性徴期を迎え、異性という存在を意識してしまう年頃になった為に、両想いであろう二人はお互いを意識しつつ自分磨きをしていった結果、周りの目を惹いてしまう様になったのだと勝手ながら考察し、当時の俺はこう思った。
幼馴染ぱわーすごい、と。(語彙力低下)
そしてお年頃の中学生。そんな二人を周りは放っておく訳も無く。
友達になってと言い寄られる人気者の二人を見てさすが俺の親友達だと後方でニヤニヤする日々を謳歌した。
次第に友達になり二人の内面に好意を寄せた者、一目惚れをした者から次々と二人に告白をする人達が増えてきた。結局二人ともが返事を了承し付き合うという事は一回も無かったが。そしてそんな中、俺は決意した。
漫画で見たあの光景の様に、あの感動のシーンに至るように二人の恋のサポートを開始しようと。
そこからは学園カップルが喜ぶようなシチュエーションの載った雑誌を読み漁り、確実性を求めてネットの情報を読み耽り、ある程度情報が整った所で実行に移した。
街へ遊びに行く時は基本三人でというのが多かった俺達。ここで二人にデートさせる為に街へ遊びに行こうと誘い『家の予定が入っちゃって行けなくなっちゃったぜ!へへ☆今日は二人で楽しんできてくれ!』とドタキャンしてみたり。
体育祭では『あの子に格好良いとこ見せようぜ』、と親友に奮闘させ参加種目の練習中にひたすら激励を送り。
また文化祭では『あいつと手を繋いで色んな所見周っていけよ』、と親友に発破を掛けてみた。
そして修学旅行では自由時間を使って『ここのスポットとか綺麗な場所じゃね』、とどちらかが告白するのに相応しい場所を二人に案内したり。
結果としては失敗は多数あれど自分なりに、出来る限りのサポートはしてきたと胸を張って言えるほどに頑張った。
俺が行動に移してから約一年半。色んな行事を経て二人は結ばれると俺は確信していた。
そしてその際には『お前達の親友として、祝福するぜ』と拍手と共に掛ける言葉を決めていた。
―――その筈だったのだが。
終ぞ……今の今まで二人は付き合う事は無かった。何ならどっちかが告白したという噂も俺の元には回って来なかった。
『何で……何で付き合わない?』
こんな言葉しか思い浮かばない程俺は動揺した。
二人が結ばれるような学校行事は網羅した。なのに何で、と。
俺の何がいけなかったのか、二人がくっつかない原因は何だったのか、それを考えながら三人とも同じ高校に受験し、今に至る。