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15_お姉さんの後をつける影

ストーカー、それはつきまとう人のことを言う。

家を特定したり、写真を撮ったり、メールを送ってきたり。

ストーカーされる人からしたら迷惑な行為だ。


メールを送って来たりしなければ迷惑かというとそこは難しい。

単純に嫌だし、見知らぬ誰かが自分のことを詳しく知っていると考えたら、女性としては危機感を感じるだろう。


その点、お姉さんのストーカーは(たち)が悪い。

いるのかいないのかすら分からない。

つきまとっていることは、映像からわかるのだが、写真を撮ったりしているのかまでは分からない。

とりあえず、部屋に盗聴器はないことは調べた。


メールなども送ってこない。暴力もない。その点は良いけれど、何もしていないので注意も逮捕もされないのだ。ただ、確実につきまとっている。


お姉さんと一緒に出掛けて気づいたことがある。

ストーカーをする日としない日があることだ。

その違いは分からないけれど、同じショッピングモールに行くとしても、尾行している日としていない日がある。


スーパーやコンビニへは来ないみたいだ。



***



今日は、お姉さんとショッピングモールに行くことにしている。

その道の途中では、スマホの録画機能で録画状態のまま手に持って、後ろを撮影してみた。

動画確認のために一度止まって公園で動画内容を確認する。



「あっくん、何見てるの?」


「あ、んん、まあ」


「あー、えっちぃやつ?」


「違うし!」



お姉さんはどうものんきなところがある。

俺が動画をチェックしている間も、お姉さんの周りには地域猫が集まってきていた。


「地域猫」は、元々野良猫。地域の有志が去勢手術をして、地域で飼っている状態だ。ご飯をあげてもいいし、気に入れば連れ帰って飼ってもいいらしい。


手術が終わった猫は片耳の先を切っているという。

少し可哀そうな気もするけれど、それにより1代限りその土地で生きることを許されるのだそうだ。


お姉さんのマンションはペット禁止なので、連れ帰ることはできないけれど、集まってくるので可愛がっているみたいだ。


野良猫は保健所などに回収されてしまうのだけれど、地域猫は大丈夫なのだそうだ。

お姉さんは何故だか地域猫が大好きだ。

そして、猫の方もそれが分かるのかお姉さんに集まってくる。



***



ショッピングモールに着いた。

服屋とか雑貨屋とか特に決めずにつらつらと歩いてみて回る。


平日の昼間のショッピングモールは人も少なく快適だ。

どこに行っても人がほとんどいない。行列もない。

ただ、セールとかもあんまりないかも。


色々な店を回ってみ中の一つが宝石店。

あまり興味はないけれど、宝石店にも入ってみた。



「お姉さん、宝石好きなの?」


「んー、全然。ほとんどお店にも入ったことないけど、あっくんがいっしょなら楽しいかなって」



そんなこと言われたらちょっと嬉しいじゃないか。

店内のほとんどはガラスのショーケースが置かれていて、その中には指輪、ネックレス、ピアス、イヤリング、ブレスレットなど色々なものがあった。



「お姉さん、お金持ちになったんだし、欲しいもの買えるんじゃないの?」


「んー、普段付けないし、付けるようなところに行かないし、そもそも外にあんまり出ないし……」



年ごろの女性の意見とは思えないようなものだった。

「陽の者」と思っていたお姉さんが意外に「陰の者」で面白かった。

むしろ、俺と合うからそっちの方がいいや。



「この店くらいだと、一番高いやつってなんだろうね」



なんとなく思いついて口にしてみた。

そこからは、ちょっとしたゲームだった。



「あっくん、この指輪22万円だって!」


「こっちの指輪はダイヤモンドで30万だって!」


「すごく高いね!」



ショッピングモールだと何千万円もするような宝石は置かれていなかった。

まあ、普通に考えて誰も買わないよな。いや、買えないよね。

お姉さんみたいな人はレアケースだろう。


そんなお姉さんが、ショーケースに食い入るように見ているものがあった。



「なになに?」


「ほら、これ。かわいー!」



そこにあったのは、0.3カラットダイヤモンド・プラチナリング。

一般的に婚約指輪にするような大きめな石が嵌った指輪だ。


結婚指輪の方は日常的に付ける人もいるので石はついていないものが多く、付いていても突起物にならないようなデザインになっていたり、表からは見えないように裏側に埋め込まれていたりするものもある。


ただ、何となく指輪と言えば、大きな石が嵌っているイメージがあり、その点は俺もお姉さんも同じだった。


もしかして、こんな婚約指輪を期待して……値段を見た見たら、税込み19万5千円。

俺の全財産をつぎ込めばギリギリ買えるくらいだけど、もし買ってしまうとコンビニで買うお昼ご飯にも困るレベルに財政が底をついてしまう。


お姉さんのキラキラした瞳を見ると、買ってあげたい気持ちもあるけれど、何せこちらはフリーター兼ヒモなので、お金なんてない。



「ん゛ん゛っ……バイトしていつか買ってあげるから」



咳払いの後、それだけ言った。

お姉さんがびっくりした顔で、こちらを向いてしばらくキラキラした目をしていたけど……



「大丈夫だよ。気持ちだけで。あっくんには家にいて欲しいし♪」



にっこりした顔で言われてしまった。

なんとなく、男として好きな女性に何かしてあげたいという気持ちはあるんだけどなぁ……



***



この日は、ショッピングモール内でも動画撮影をしてみたけど、特に尾行されている様子はなかった。

もしかしたら、前回のアレは気のせいで、ストーカーなんていないのでは、と思い始めていた。


ただ、疑念は晴れないので何か尻尾を掴みたいと考えていた。

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