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ノーブル・チョイス~悔いなき選択~  作者: お芋ぷりん
第1章 歪んだ国、逃げる選択を
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第6話 謎の選択肢

 




「ありがとうございます。助かりました」

「いえ、(たい)した事じゃないですから」


 避難場所となっている防空(ぼうくう)(ごう)のような、大きな洞穴(ほらあな)に辿り着いた葉一は老婆に感謝の言葉を述べられていた。幸いにも先程いた場所から五分程の距離だった為、そこまで焦る必要はなかったのかもしれない。


 葉一の周囲には、老若男女を問わず大勢の人が鳴りを潜めていた。非戦闘員の大人達の顔は緊張してはいるものの恐怖の色はなく、子供達に至ってはヘッチャラとばかりにお喋りをしていた。


(こんなので本当に大丈夫なのか……?)


 前時代的な避難場所を見渡して、葉一がひそかに疑惑を抱く。


 この洞穴は文字通りただの穴なのだ。周囲をコンクリートのような固い物質で囲んでいる訳でもなく、入口を金属製の厚い壁で塞いでいる訳でもない。高威力の爆弾による爆風や衝撃で、いつ生き埋めになってもおかしくないという訳だ。


「どうかされましたか?」


 そんな不安を抱いていると、集団の中から一人の巫女が進み出る。当然ながら夜澄ではない。


「貴方は?」

「巫女の(いのり)と申します」


 茶髪でボブカットの小さな巫女が丁寧にお辞儀する。


「あなたの事は聞き及んでおります。記憶喪失で保護されたとか」

「その通りですが……いや、そんな事はどうでもいいです。巫女である貴方に聞きたい事があります。敵の戦力がどれくらいかは知りませんが、こんな場所で本当に大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫、とは……安全性の事を指しておりますか?」


 葉一は当然とばかりに頷く。


「その点は問題ありません。あなたは来たばかりで知らないと思われますが、この国にはわたし達巫女が()()()()心血を注いで創り上げた【皇国(こうこく)呪装(じゅそう)】という物があります。その一つに防護結界を張る事の出来るものがありますので、ご心配には及びませんよ。それに万一、それが破られた場合の為にわたしがおりますので」

「な、なら良いですが…………」


 にこやかな笑みを浮かべる祈という少女。その顔には、【皇国呪装】に対する絶対の自信がみなぎっている。葉一は避難場所にケチをつけたい訳ではなかったが、有無を言わさない説得力と真実味に、自分が間違った事を言っているように錯覚してしまう。


「となると、気になるのは敵である〈アズグラッド共和国〉の戦力か……」


 夜澄の話では、共和国は途轍もない軍事力を持った国家と認識させられるが、祈という巫女の話を聞いた後では「大した事はないのでは?」と思わざるを得ない。


 葉一はどうにかして戦争を見てみたいと思った。


 その刹那――――、


「ッ――、がぁ⁉ ぁぁあああッ⁉」


 突如として、両目に激痛が走り視界が赤く染まった。


「どうかしましたか!」

「め、目がっ……‼ 潰れそうだッ――⁉」

「これは……すみません! 誰か手を貸して貰えますか!」


 祈や周囲の人達の心配をよそに、葉一はあまりの激痛に地面に倒れのたうち回った。暴れる葉一をどうにかして止めようと、祈や数人の男性達が押さえつけようとする。


(目が焼けるように痛いっ……! 血が出ているのか……⁉ まさか、(やまい)⁉)


 とめどない痛みに葉一は何らかの病気を疑った。しかし、記憶の中にはそんな症例の情報などある訳がない。


 このまま苦しみ続けるのかと葉一が長時間の戦いを覚悟した直後――――、


(な、なんだっ……()()()⁉)


 赤く染まる葉一の視界に何かの文字列が羅列し始めた。徐々に〝文〟として形を成していく、その内容は以下の通り。


①『このまま戦争が終わるまで待ち続ける』→『共和国の戦力を確認できない』

②『皇帝の屋敷に赴き戦況を観測する』→『共和国の戦力と戦争を続けられた訳の確認』


 まるでゲームの選択肢のように、二つの文が浮かび上がっていた。更に不可思議なのは、選択肢の先に〝結果〟ともいうべき文が並んでいる事だ。


「はぁっ、はぁっ……なんなんだ、これは……」


 文が並び終わると同時に両目の痛みも引いていた。元に戻った視界の中、葉一はこの二つの文の意味を冷静に考え始める。


(①番は待機……そうすると戦況を確認する事ができないっていうのか? ②番は戦況と長年戦争を続けてこられた理由がわかる、という事か…………まるで意味が分からない)


 文の意味は分かっても、視界に二つの文が出現した意味が分からないのでは意味がない。


(どちらかの行動を取れば、その通りになるっていう事なら迷わず②番を選ぶな……って、これは……)


 葉一が仮定とはいえ頭の中で②の選択肢を選んだ瞬間、①の選択肢は沈むように消え、②の選択肢が強調されるように浮かび上がった。


「あの……葉一様、大丈夫ですか?」

「あ、ああ…………はい、痛みは引きました」


 視界の中に祈の姿が映る。心配してくれる祈に無事を伝え、一度(まばた)きをした途端、残っていた選択肢も煙のように消えていた。


 葉一の言葉を信じて、葉一を押さえていた者達も離れていくが、呆然とする葉一に祈が疑わしげに安否を確かめてくる。


「? 本当に大丈夫ですか?」

「ほ、本当に大丈夫ですから! それよりも便所はどこですか……⁉」

「べ、便所ですか……それならここの外にありますが…………もしかして。(かわや)に行きたいが為に、あんなに暴れたのですか?」

「そうですか! どうもありがとうございますっ!」

「だとすればかなり(たち)が悪いです、自重して下さいね。なんて、嘘に決まっておりますよね――って、あれ? 葉一様?」


 祈が一度目を離した隙に葉一は忽然と姿を消していた。祈がキョロキョロと辺りを見渡していると、一人の男が葉一の行方について話し出す。


「その男ならさっき此処(ここ)から出て行きましたよ? よほど我慢していたのでしょうか?」

「そんなの嘘に決まっているでしょう⁉ 今は外に出てはいけない事になっているのに……! はぁ……」


 祈の怒声が洞内に反響し、天井から砂ぼこりが舞ってくる。その空しい程の溜息を聞かなければならない当の葉一は既にこの場にはいない。祈はどうなっても知らないとばかりに頬を膨らませた。





第7話は今日(1/17)の19時に投稿します。

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