エピローグ
「――ぅ、こ、ここは……」
私はうめき声を上げながら目を開けた。
どうやら病室の個室らしい。腕に繋がれた計器の管と腹部から来る痛みに、自分が病院に運ばれた事を理解する。
だが、何故病院に運ばれているんだ? 私はリモコン操作でベッドの角度を上げると同時に近くにあるテレビを点けた。
「あれはっ……グレイ!」
記者会見の中継放送なのか、スーツでビシッと決めた親友が登壇していた。内容は『グレイ・アンダーソン臨時大統領が伝える今後の方針』とある。
「ど、どういう事だ……!」
チャンネルを幾ら変えても、どの番組も臨時大統領の話で持ち切りだった。
唯一違う番組があっても、『元大統領・在原葉一』に関する事だけだ。世論では、『臨時と言わず、意味不明な実験をしていた大統領を今すぐ干せ』だの『皇国の間者を連れ込んでいた祖国の敵を処刑しろ』だのと盛り上がっている。
国の為に尽力してきたつもりだったが、まさかここまで酷いとは思わなかった。国を想っての行動を信じてくれたのは、グレイと夜澄だけか…………。
「そうだ……夜澄は⁉ 彼女は無事なのか⁉ ぐっ、うぐっ!」
私はベッドから降りようとした。
が、やはりともいうべきか一歩も動く事はできず、床に無様に倒れてしまう。
でも、段々と思い出してきた。シミュレーションが無事に終わり、それから得られたデータをもとにこれからの方針を考えていた時だ。
私の実験を嗅ぎ付けてきたあの男――ネイサン・クルードが銃を持って部屋に来たのだ。その後、追い詰められる私を見て乱入してきた夜澄がネイサンに取り押さえられ、その後は……。
「くく、なるほど……私は死に損なったのか。どうりで病室で寝ている訳だ」
自分の行動を省みると、おかしな程に笑いがこみ上げてくる。
あの実験は新たな可能を生んだと同時に失敗でもあった。私の人格をコピーしたAIが私と同じ決断をするとは限らない。その事に気付かずにシミュレーションした結果、コピーの私自身は戦争を終わらせ、私の想像を遥かに上回る選択をしていた。
だがあまりに逸脱し過ぎた行動だった為、参考にできる事は少なかった。精々、夜澄がくれた皇国の情報くらいのものだろう。
「まあ…大統領を干されるかもしれない今、それも無駄になったか」
だが、喜ぶべき事もある。
私が倒れている間に臨時の大統領となったグレイが夜澄の存在を上手くひた隠しにしている事が分かったからだ。
記者会見ニュースでは、ネイサンは拳銃が暴発した為に死亡したとある。更に、夜澄はその事件の騒ぎを隠れ蓑にして国外に逃亡した事になっている。ついでに、私の事を虐げる発言こそしているものの、グレイが皇国への侵略行為を止めると宣言していた。
どうやら資源問題を盾に上手く立ち回っているらしい。
「ははは……グレイ、やっぱりお前の方が大統領に向いているよ」
元々私よりもグレイの方が国民から人気は高かった。私は所詮、グレイが大統領選挙を辞退した事で繰り上がり当選した偽り大統領なのだから。
「私の大統領生命もこれでお終いか……この国に私の安らげる場所はもう……」
「――それなら私の国に来ますか?」
病室のドアが急に開き、そこから入ってきた者が私を見下ろした。
「巫女のしがらみさえなければ、良い国ですよ?」
「や、夜澄……⁉ 君は、国外に逃亡した筈じゃ……!」
倒れている私を抱え起こし、ベッドに戻してくれたのは逃亡したとニュースで話題になっていた夜澄本人だった。
「あれは嘘ですよ。そう言った方が周りを信じてくれそうですし」
「な、なんだ……ふぅ、君が無事で本当に良かった」
「自分よりも私の心配ですか? まぁ、貴方の意志はグレイが受け継いでくれていますから、何も心配する必要はないんですけどね」
「……やはりそうか。あいつはやっぱり最高の親友だよ」
夜澄から話が聞けて安心した。
グレイも私を守る為に、思ってもいない事を言っていたのだと分かったからか。それとも、もう重荷を背負わなくも良いと思ったからなのか。
「さっきの話。その怪我もありますし、身体が良くなったら私の国でひっそりと暮らしましょうよ? 私も皇国が抱える闇に向き合わなければいけませんし」
「それも悪くない、かな……――――」
何故だろう? なんだか、目の前が急に暗くなってきた。
眠気も凄いし、身体も重く……ああ、そうか。
長年張り詰めてきた緊張の糸が今ようやく切れたから。大統領としての責任から離れる事が出来てほっとしているんだろう。
だから、こんなにも瞼が重く……。
「それで、ほとぼりが冷めたらまた戻って来ましょう。その時は、グレイと三人で食事を――――」
ああ、それも良いかもしれないな……それは楽しみだ、な――…………。
「その後は私の親友を紹介しますからね? 楽しみにしていて――ね、葉一?」
物事には表と裏がある。
一人の人間が正しいと思い行動した事でも他人にしてみれば、悪意を持った受け取り方をされる。そして、またその逆も然りだ。
それこそ、人の数だけ受け取られ方はごまんとある。
しかし、忘れてはならない。信念に基づいた気高い選択は他者に多大なる影響を及ぼすことを――――。
「ノーブル・チョイス~悔いなき選択~」はこれにて完結です。最後まで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました!
いかがだったでしょうか?
本作品は卒論の代わりに書いた物語であり、〝人間の社会〟や〝人間関係〟に重きを置いた作品でした。文字数的にも普段のお芋ぷりんじゃ有り得ない程少な目でしたが、ご満足頂ける内容だったら嬉しいです。
実は今回の話は興味のあるテーマだったのですが、書き始めた当初は完結まで辿り着けるか不安で仕方ありませんでした。ジャンルも最初は〝ヒューマンドラマ〟ではなく、記憶喪失の主人公が未知の世界で敵と戦う〝ローファンタジー(?)〟だったんですよ。でも、色々と考える内に今に落ち着いたんです。
とはいえ、この話は物語として上手く纏まっていない! 読者の皆様が一番そう感じているのではないかと。色々おかしい部分もあるし、そりゃ電撃文庫も落ちるだろうと。
――大丈夫、私もそう思ってます‼(泣)
今、休載中の「異能学園の斬滅者」や次に大賞に送る作品はそうならないように、教訓として胸に刻み付けております! 頑張ります!
……と、いつまでも自分語りしていると、作品を読了した余韻が吹き飛ぶかと思いますので、この辺にしておきます。では皆様、またいつ始まるとも分からない「異能学園の斬滅者」でお会いしましょう。
失礼仕る‼(シュバッ)




