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ノーブル・チョイス~悔いなき選択~  作者: お芋ぷりん
第4章 己が己である為に、誇れる選択を

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第5話 救出劇

 




 調印式典の会場からそう離れていない位置に、ネイサンは居た。


「あいつは来ると思うか? なぁ、巫女サンよ」

「……」


 薄暗い倉庫の中でネイサンは目隠しだけ外すと祈に拳銃を突き付ける。


「だんまりか? 別に今すぐ剝いでやっても良いんだぜ? 下着は付けてなさそうだしなぁ……くくくっ」


 無言を貫く祈はネイサンから目を離さず睨みつけていた。その威勢の良さが気に入ったのか、ネイサンは下卑(げび)た笑みを浮かべながら拳銃を引っ込めるとナイフを舐めた。


「……はぁ、可哀想に」

「なに?」

「勝手に切れて、国の決定が気に食わないから攻撃を仕掛けるなど……駄々をこねる餓鬼(がき)ですか? 今時、そんな子供いませんよ……あ、あなたは大人でしたね。ただし、心は世間知らずの子供ですが」

「あぁん⁉」


 人質という身分の筈だというのに、相手が激怒する程に愚弄し始める祈。その態度は人質と言うには、あまりにも態度がでか過ぎる。


「わたしがあなたを殺す事など簡単なのですよ? 風の刃で粉微塵にしたり、あなたの血を沸騰させて破裂させたりとかも【呪術】なら可能です。それでもあなたを害しないのは、死んだ親友の夢の成就が目前に迫っている――という理由による、ただの温情です。だから大人しく投降して下さい」

「いや、いやいやいやいやいやいやっ……お前は馬鹿か?」


 強気過ぎる祈は目に余ったのか、ネイサンは真顔になって祈に詰め寄る。


「別にお前を殺すなんていつでも出来るんだよ。何いっちょまえにマウントを取ろうとしてやがる?」

「馬鹿……ですって? それはわたしの専売特許ですよ」

「はぁ?」


 共和国での生活でタガが外れた祈は祈節(いのりぶし)全開でネイサンを煽る。すると、怒る気も失せたようで、今度は祈を観察し始めた。


「……こりゃ本格的に駄目だな。巫女の二重人格は作られた設定だって話は聞いたが、お前は相当イカれてやがるな。ここでお前にトラウマ植え付けて、本当に精神破綻者にしてやっても良いんだぞ?」

「…………」


 流石に相手するのが面倒になったのか、祈が遂に顔を背けだした。


「……じゃあ遠慮なく」


 ネイサンはそれを肯定と取ったのか、手始めに祈の上着をナイフで切り、破き始めた。


「予想はしていたが、貧相な胸だなオイ。触る気も失せてきやがる」

「っ……」


 剝き出しの胸を見られてもなお、祈は毅然としていた。


 否、努めて毅然と振舞おうとしている。本当は途方もない恐怖に駆られていた。だからその気を紛らわそうとつい強気に出てしまった。


 しかし、それは逆効果というものだ。火に油どころかコールタールをぶちまける勢いでネイサンの怒りを煽ってしまっている。


「こんなんじゃ、触るよりもお前を(なぶ)った方が楽しいってもんだぜ。葉一サンが来るまでの暇つぶしとさせてもらうかな」


 膨らみのない祈の慎ましやか胸はネイサンの趣味ではなかったようで、ナイフを逆手に持ち始める。


(……本当に余計な事を言ってしまった。こんな輩でも共和国の人間……共に歩もうとする仲間。だからこそ、手を出せない。争いがなくなるって時にわたしはっ……なんて失敗を――)


「予定とは違うが、葉一サンを出迎えてやろうぜ。お前の血で咲いた花を持ってなァ!」

「――やめろ!」


 ネイサンがナイフを振り下ろそうとした時、彼の後ろから静止の声が掛かった。


「ほう、ようやくお出ましか」

「祈さんから離れろ。用があるのは僕なんだろッ」

「そうだ、物凄く重要な用がある――お前を殺すっていう用がな‼」


 倉庫の入り口付近に現れた葉一に、間髪入れずにネイサンが発砲。しかし、葉一は弾丸に怯む事なく歩みを進め――弾丸が光の壁に弾かれた。


「なっ⁉」

「今まで僕は後にも先にも後悔しないような選択を取ってきた。だけど、後悔しない為だけに終戦の未来を選んだ訳じゃない。恩人である夜澄さんのように気高く誇り高く在りたい、その一生に報いたい……その一心で今の道を歩んできたんだ。それを貴方如きが邪魔をするなッ」

「あっ、あぁっ……⁉ ば、バケモノめ⁉」


 銃弾を容易く払いのける障壁にネイサンが恐慌し拳銃を乱射した。その尽くが葉一の身体に届く前に弾かれ、銃弾の幾つかがネイサンへと反射する。


「ぐぁあああァァァ⁉ あっ、あひぃいいい……⁉」


 被弾したネイサンが子供のように泣き叫び尻餅を突く中、葉一がネイサンの眼前に立ち尽くした。


「僕は神の祝福を受けている。お前のような下賤な者の攻撃が届く訳がないだろう!」

「神の祝福だとぉ……ふざけるな! お、俺達の未来にお前は必要ない! 死ねぇ!」


 不用意に近付いてきた葉一に向かって、ネイサンの凶刃が襲い掛かるが、光の障壁を前に刃は脆くも砕け散った。最後の力を振り絞ったのか、ネイサンの意識はそこで途絶える。


「そうだな。()()()()()()()()()()()()()


 葉一は自分にだけ解る言葉を倒れたネイサンに投げ掛けた。拘束されている祈に近付くと手足のロープを解き、ついでに自分の上着を祈の上半身に被せる。


「すみません、祈さん……僕の所為で」

「いえ……来てくれると思っていました。……やっぱり、葉一様は不思議な力があったのですね」

「気付いていたんですか……いや、今それはどうでもいい。ネイサン以外に仲間はいなかったですか?」

「はい、その筈です」


 葉一は付いて来ていたドローンのカメラに向かって首を横に振った。映像と共に音声もグレイ達に聞えているので念の為の行動だ。


「ならネイサンを拘束して僕達も戻りましょう。調印式もそうですが、今は爆発した街の対応をしないといけませんし」


 祈から解いたロープをそのままそっくりネイサンにお返しし、葉一は足が竦んでいる祈を連れて会場へと戻っていった。


 その後まもなくして、反乱を起こしたネイサンを含む者達は捕縛された。


 街で爆発が起きたのは、別行動していたネイサンの仲間が爆薬を仕掛けていた為だという。そして後日、二度目という事もあって略式での調印式が行われた。


 ネイサンが引き起こした一連の事件による被害は奇跡的にも少なく軽傷で済んだ者がほとんだだった。


 それに対する責任はグレイが(かぶ)り、事件の幕を閉じた。


 今まで紆余曲折(うよきょくせつ)あったが、〈皇御国〉と〈アズグラッド共和国〉の戦争は遂に終焉を迎えたのだった。


 ◆


「――まさか、貴方と〈皇御国〉の精霊が同一の存在だって言うのかっ⁉」

『そうです。そして私は貴方の()()()()()なのですよ』

「あの時思い出した僕の記憶……やっぱりそうだったのか。僕は、いや私は……在原葉一。その言葉から察するに私は私自身のコピーという事か、マザーコンピューター。いや――葉一()。それなら頼みがある! もし、皇国と共和国の関係を取り持ち、互いが互いを尊重し合える間柄になったのなら、これ以上の干渉はやめて欲しい」

『良いでしょう。もとより、そのつもりです。これ以上、このシミュレーションに関わるつもりはありませんから――』


 マザーコンピューターと初めて邂逅したあの日――――。


 葉一はそのような約定を結んでいた。それも自分のオリジナルを相手に。


 調印式が無事終了した後日、葉一はグレイに頼んでマザーコンピューターを訪ねた。約束を果たしてもらう為に、そしてこの世界の平穏を保つ為に。


「――約束だ。もう二度とこの世界に関わらないでくれ」

『ええ、分かっていますとも。シミュレーションとはいえ、まさか私のコピーが終戦まで導くとは思いませんでしたけどね』

「なんで、この世界の真実を気付かせるような事をしたんだ?」

『貴方は私のコピー。つまり同じ意思を持った存在です。そんな貴方がこの世界の真実に気付いた時、どのような決断を下すのかを見たかった』

「そして、現実の私が過去にした選択が正しかったのかを確かめる為、だったか」

『……当時戦争が正しいものか迷っていた私は国を守る為に戦争を続ける事を決断した。しかし、その結果は見るに堪えないものでした。戦争が続く中、共和国と皇国の共存の道を模索する為に始めたのが、この〝仮想シミュレーション〟です。この実験の肝は現実に存在する国を模倣して構成されている事。文化や歴史。その土地に生きる者達の思考をインプットとする事で可能な限り現実と同じ条件で実験できるようにした。ほぼ同じ条件で実験を行えば、シミュレーションの精度は格段に上がる。そして、迷っていた頃の私を現実での記憶を消して送り込み、似た環境に追いやる事で貴方がどのような選択をするのかを見たかった…………』

「だからこそ、私は言葉を理解する事が出来たし、システムでも保護されたという訳か。実験対象に死なれては困るが故に」

『その通りです。ちなみに、現実では〝マザーコンピューター〟という者は存在しない。共和国は昔の人間が今の思想を作り上げ、それを少しずつ周囲に刷り込み続けて出来たに過ぎないのです。また、皇国にも〝精霊〟は存在していますが、意思を持ちません』

「設定は別にそのままでも良かったんじゃないのか?」

『これは、過去の選択が正しかったかを確かめる為のシミュレーションです。とどのつまり、シミュレーションの結果を今後の選択に活かせればそれで良い。少し設定が違う事に、そこまで深い意味はありませんよ……ですがやはり、この実験は失敗かもしれませんね』

「どういう意味だ?」

『この実験では、精霊などの存在以外に現実とは違う事があります。それは共和国人である貴方を本来居る筈のない皇国で生活する事です。その結果、周囲の事柄に感化された貴方は遂に終戦させるまでに至ってしまった』

「私自身が望んでいた事なのに、随分と嬉しくなさそうだ」

『そうですね……現実の私が出来なかった事をやり遂げてしまった貴方に嫉妬しているのかもしれません。コピーとは言っても、所詮は同じ意思を持つだけの存在……故に同じ道を辿るとは限らないか』

「例えコピーだとしても、この世界の異物だとしても。この胸に込み上げてくる気持ちは本物だ。私は私である為に、自分が誇れる選択をしてきた。途中で命尽き果てるとしても、必ず僕の意志は引き継がれる。夜澄の遺志を私が引き継いだように……諦めなければ、無駄になる事なんてないと思うぞ……葉一()!」

『フフ……その答えを聞けただけでも、このシミュレーションにも意味はあったのだと思えますね。さぁ、もう行って下さい。これからは精霊も過ぎた技術も必要ない。互いが手を取り、助け合っていける世界が待っています』

「ああ。そっちも終戦できると良いな……」


 その言葉を最後に、現実の葉一と葉一のコピーが話す機会は永遠になくなったのだった。





次回第4章エピローグ、明日(2/13)の18時に投稿します。

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