第1話 大統領になる前の……
第4章開始です!
大統領になる前の私は幼く無知で甘かったのだと思う。
周囲に流されるまま生き、戦争は正しいものだと言う周囲の言葉を鵜呑みにした。でも心のどこかで、戦争が正しいものかどうかに疑問を持っていた。どちらの国も平和を望んでいる。
良い所もあれば、悪い所もある。それを認め合って、足りない所を補える筈だろう。だから、必ずしも戦争する必要はない。
ある時、親に向かってその疑問を口にした。すると、半殺しになるまで叩きのめされた。歯が何本か折れたりもした。
「正しいに決まっているでしょッ⁉」
「お前は私の息子だというのに、何故こんなにも馬鹿げた考えを持ってしまったのだ! このバカ息子がッ!」
憤怒と失望。実の息子に向かって、拳を振り下ろし、正当性はこちらにあるものだと主張してきたのだ。
「そ、そうだよね。戦争は正しいもの、だよね……?」
そうして、両親が望むであろう言葉を無意識に呟くと、
「そうよ~! 正義は私達にあるの!」
「そうだ、そうでいい。敵国に戦争を仕掛け、国の思想を押し付ける。それでこの国の平和は保たれるのだ」
優しく、私の頭を撫でてきた。先程とは別人と思える笑顔を振りまいてきた。まるで、自分は間違っていないのだと自身と私に再認識させるかのように。
恵まれた家庭ではあった。だが、今にして思えば、そのカタチはかなり歪んでいたのだと思う。
反抗すれば暴力が返ってくる。両親の望む答えを言えば褒められる。生きてはいたけど、それは幸せな日々とは言い難かった。
そして子供の私は、大人の暴力と重苦しい期待の前に屈服した――――。
それから順当に育ち、有名な大学も出て大人になった私はどういう因果か、国の指導者の席に座っていた。親の期待もあったのだろう。
大人になるまで、彼等の望む通りの自分を演じ、大統領を目指すように言われたからそうした。無論、大統領に就任した私を両親は非常に喜んだ。だが、それは実の息子が大統領になった事に対する喜びではなかった。
数百年も続く戦争。
大統領の責務にようやく慣れた頃、私は終戦させずに今より過激に攻める決断を下した。そうすれば、早く戦争を終わらせる事ができる。国民に苦労をかけずに済むと思った。
その選択は間違っていなかったのだと、その時は思っていた。
国の為にした選択だ。それに誇りこそすれ、間違いなどあってはならない。だがその結果、得られたものは私が望んでいたものとは程遠かった。
戦争が激化した事で、侵攻していた国の近隣諸国が同盟を結び抗ってきた。戦いが長引き、勝利を得られなくなった事で国民の不満は爆発し、小さな反乱も起きるようになった。そして、両親と同じような考えを持つ人も激増していった。
「こんな結果は……私の望んでいたものじゃなかったッ」
酷い現状を目の当たりにした事で、私はようやく過去の判断と選択は間違いだったと悟った。
あの時に戦争相手と和解し理解し合えたなら、この結果は変わっていたのだろうか。
いや、今更嘆いたところで意味はない。過ぎ去った時間は戻せないのだから。
ならば、今できる事をしよう――――そう、自分に言い聞かせた。
◆
「……っ、夢か」
椅子に腰かけたまま眠ってしまったのか……。
なんだか、昔を思い出させる内容だった気もするが、良く覚えていない。モニターの周りには誰もいないところを見ると休憩時間といったところか。
「ようやくお目覚めか、ほれ」
「あづッ⁉」
横から声が掛かったかと思えば、頬に激熱の何かが押し付けられる。思わず、椅子から転がり落ちるところだった。
「危ないだろ! グレイ!」
「棍を詰め過ぎのようだからな。あちらのお嬢さんから差し入れだ」
グレイから手渡されたカップからは珈琲の芳醇な香りが漂ってくる。それに恐る恐る口を付けながら、グレイが顎で促した方向を見た。
「夜澄か……ありがとう」
「どういたしまして」
巫女服を着た夜澄は優雅な足取りで、私の斜め後ろに立った。
「実験は順調そうね」
「ああ。まさか、終戦まで持ち込むとは思わなかった」
「周りの助けがあったとはいえ、皆の心を動かしたしね」
しかし、気になる事が一つある。あの投票結果だ。圧倒的な勝利だった故に忘れがちだが、〝反対〟に票を入れていた者がいる。それが気掛かりでならない。
「なんにせよ、この実験が終わってからすぐに動き出さないとな」
「軍の者達もこの実験を嗅ぎ付けてきている。終わるまでボクがキミを支えよう」
「私も今更出来る事は少ないけど、貴方の選択を最後まで見守らせてもらいます」
「グレイ……夜澄……」
なんて頼もしい仲間達なんだろうか。こんなロクでもない私を信じ、支えてくれている。この期待に応えなければならない。
大統領として、そして彼等の友人として――――。
第4章2話は明日(2/9)の18時に投稿します。




