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ノーブル・チョイス~悔いなき選択~  作者: お芋ぷりん
第2章 調和という皮を被った国、回帰の選択を

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エピローグ トラブルと出国

 




 車に揺られる事、約一時間――――。


「見えたよ。あれが」

「国境警備隊基地……」


 葉一にとっては見覚えのない建物が視界に入ってくる。頑強かつ堅牢な外装はまさに最前線前の建物にふさわしいと言える。


 整備された道路の終わりはその基地まで続いており、リムジンは滞りなく建物前に到着した。


「さぁ、ここからは徒歩だ。中でボディチェックを受けて貰った後、建物の向こう側でバギーに乗り込んで貰う事になるだろう」


 グレイがリムジンを降りて葉一を先導し始める。


 その後ろを、リムジンに乗っていた黒服のボディガードが守り付き従っている。亡命してきた余所者が再び戻ろうと言うのだ。葉一をスパイか暗殺者だと仮定して警戒するのも無理はない。


 葉一は物々しい雰囲気を肌身で感じつつも、間隔を空けてグレイの後ろを付いて行く。基地のゲームを潜り、暗くジメジメした通路を歩き、やがて明るい部屋に辿り着く。


「あ……やべっ」


 部屋に入った途端、デスクに座っている茶髪の若い軍人の姿が葉一達の目に入る。その男は大統領が入ってきた事に慌てふためき、いつかのように知恵の輪を床に落とした。


「やぁ、お仕事は順調かな?」

「ア、アンダーソン大統領⁉ は、はっ! 順調であります! って、違う⁉ な、何も異常なしであります! はい!」


 グレイが落とした知恵の輪を見て仕事の経過を尋ねると、その軍人が報告するべき事項を間違えてしまう。グレイは目を細めて彼に近付くと耳元でこうのたまった。


「――次はないからね」

「は、はひぃ⁉」


 男は心の底から震え上がり、直立不動となってしまった。グレイは興味を失ったのか、その者の肩を叩いて葉一を見た。


「さて、葉一君。この者がキミを国境付近まで送る。出発前に彼からボディチェックを受けておいてくれ」

「分かりました」


 グレイが一度部屋の外を出ていく。その後、葉一は言われた通りにボディチェックを受けようと若い軍人の前に立った。


「お願いします」

「……! キサマは、たしか前にオレ達が上からの指示で保護した奴じゃねえか。なんで大統領と一緒に行動している?」

「執拗に構われるからですね。後、僕が今日皇国に戻るので、その見送り兼付き添いではないでしょうか」

「戻る? キサマ、皇国人だったのか!」


 何を勘違いしたのか、その男は拳銃を構えて葉一に向ける。グレイ相手に物怖じせず話していたとはいえ、葉一も人の子。心臓が飛び跳ねる程の恐怖が一瞬で湧き上がってきた。


「まさか、本当にもてなされていたとはな。意図は分からんが、皇国人とあらば生きて帰す訳にはいかん!」

「い、良いんですか? そんな勝手な事をすれば、後でアンダーソンさんに殺されるんじゃないですか? 命令違反をしたからって」

「ぐぬぅ……!」


 痛い所を突かれたのか、軍人の男は渋々拳銃を下ろしてホルスターに戻した。


「……ボディチェックをしてやる。ただし、大統領が戻ってきてからだ。そこで危険物があれば、即刻殺してやるから覚悟しておけ」

「…………お好きにどうぞ。どうせ、何も持ってないですし」


 物凄い形相で脅された葉一は嘆息すると、近くのソファに座ってグレイを待つ事にした。


 彼に抱いていた恐怖は拳銃が仕舞われている事で霧散し、ナイフなどの危険物は持っていない故にそれ以上の恐怖も生まれなかった。


(くくく……見ていろよ。ボディチェックの時に刃物を忍ばせて暴露してやる。文字通り、丁重にもてなしてやるぞ…………)


 余裕を持って待っていた葉一は気付かなかった。その男が狡猾な笑みを浮かべていた事に。


 ◆


「なんだ、まだボディチェックは終わっていなかったのかい?」


 しばらくして帰ってきたグレイが失笑する。その反応に恐さを見出した若い軍人の男は、すぐさま弁明し始める。


「は、はい。急に(もよお)してしまったもので」

「そうだったのか。それは仕方ないね」


 男は苦し気に腹部を押さえるとグレイも肩を竦める。その話が嘘だという事は葉一が一番分かっていたが、わざわざ追及するまでもないと無視した。


「で、ではボディチェックを行います。両手を上げて、力を抜いて下さい~」


 葉一は指示された通りの体勢を取った。


 軍人の男は葉一の身体を上から下まで順に調べていく。その様子をグレイは葉一の顔と男の背中を視界に入れて眺めていた。葉一の正面を軍人の男が意図的に隠している事を知らずに。


「んー……あ! こ、これは!」

(な、なんだ?)


 男がしゃがんで葉一の足をまさぐった時だった。


「大統領! コイツ、ナイフを隠し持っていました!」

「なっ――⁉」


 男は突然わざとらしく声を上げて、自分のズボンの裏からナイフを取り出し掲げたのだ。予想外過ぎる展開に、葉一は頭の中が真っ白になった。


 男が掲げたナイフを見て、グレイは葉一に訝しげな眼差しを向ける。


「葉一君、キミ……」

「いや違う! 違うんです⁉ 僕はナイフなんて持ってなかった!」

「往生際が悪いぞ! この皇国人め! 隙を見て、アンダーソン大統領を刺す気だったんだろ‼」

「適当な事言わないでください‼」


 でたらめな事を言い張る軍人の男。葉一にとっては嘘だとしても、この男にとってはそれが真実となるのだ。今、この瞬間で。


「うるさい! 黙れ皇国人‼」


 軍人の男が拳銃を葉一の脳天に向けた。


 グレイが止める暇もなく、葉一が避ける暇もなく、その引き金は何の躊躇いもなく引き絞られた。


 パン――――ッ‼ カキン‼


 甲高い銃声が響き、弾丸が発射された。が、何故か金属同時がぶつかる音が響き、


「っ、うぇ――?」


 引き金を引いた筈の男の額に風穴が空き、床に温かな鮮血を撒き散らしていた。


「は、はぁ? ど、どういう事……なんだ?」


 死んでいなかった事に目を丸くする葉一を他所に、男はぐりんと白目を剥くとゆっくりと後ろに倒れ込んだ。


「いきなり発砲した事にも驚いたが、これは…………」


 グレイは驚愕していた。


 葉一が撃たれそうになった事にではない。


 撃たれた瞬間に葉一を包み込んだ、()()()を見て目を見開いていたのだ。


 葉一自身、余りの衝撃にその壁に気付いてはおらず。最後まで気付かぬまま、そのバリアとも言うべき光の壁は霧散していった。


「……オホン、災難だったね……まさか銃が暴発するとは」

「え、ええ? 銃が暴発?」


 グレイがおちゃらけた様子で葉一の肩を抱いた。


 普通に考えれば、そんな事は有り得ない。しかし、冷静さを失っていた葉一はそんな言葉の矛盾点にも気付かなかった。


「大丈夫。キミが無実である事はボクが最もよくわかっている。だから、この男の事はもう忘れよう。ね?」

「あ、ああ…………」


 ただでさえ頭の整理が追い付いていない葉一はグレイが捲し立てる言葉を鵜吞みして、背中をグイグイ押されていく。


 途中、先程の銃声に驚き様子を見に来た他の警備隊連中と合流したが、グレイが一人だけに付いて来るように命令すると、そのまま皇国側にあるバギーに乗り込んでいた。


 ◆


 国境ギリギリまでバギーで近付いた後、葉一は車から降ろされていた。その手には食料と水の入った共和国製のリュックサックを持って。


「それじゃあ、少しのお別れだね」

「そうですね。結構驚く事がありましたけど、今のところは何事もなくて良かったですよ。未遂でしたけど」

「あれはボクが指示したものではないよ。さっきもそう言ったじゃないか」

「分かっていますよ。あれは不幸な事故として処理したいならそれで構いません」


 結局のところ、葉一は先程の件ついてグレイを深く追及しなかった。


 つまりは、借し一つという訳だ。グレイはどうあっても誤魔化したいようだったので、葉一はそれが後々になって効いてくると考えた。


「それじゃ、僕はこれで。不本意な事もありましたが、短い間お世話になりました」

「うん。良い報告を待ってるよ」

「白々しい事を言いますね。本当は失敗する事を望んでいるんでしょう?」

「そんな事はないさ。さぁ、行きたまえ」


 葉一はこれまで世話になった事への礼としてグレイに頭を下げた。最後まで貼り付けた笑みのままだったが、グレイは手を振って葉一を手放した。


(待っていろ、グレイ・アンダーソン。次に貴方と会う時、僕は皇国の終戦材料を携えて、必ず共和国の問題点を全て洗い出してみせる)


 皇国までの道のりはそれなり険しい。


 到着するまで自分が生きている事を祈りながらも、葉一は終戦という夢への第一歩を歩み始めたのだった。





第3章1話は明日(1/31)の18時に投稿します。

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