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ノーブル・チョイス~悔いなき選択~  作者: お芋ぷりん
第2章 調和という皮を被った国、回帰の選択を

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第2話 共和国大統領

 




 その後、葉一は身体の状態を見ると称して様々な検査を受けた。


 採血、脳波のチェック、果ては胸部レントゲン(CTR)のような機械。メディカルチェックにして普通以上に時間が掛かっていた為、葉一は暇で仕方がなかった。


「検査は長いわ、食事は味気ないわでストレス溜まりそう……というか既に、か。生活に関しては皇国よりも共和国の方が良さそうだけど、食事は夜澄さんのご飯の方が良かったな…………」


 元いた病室に戻ってきた葉一は国の違いに思わず、今は亡き夜澄の事を思い浮かべる。


「この分だと、思想も皇国とは大きく違うんだろうな……良い意味で」


 皇国に生きる者の考え方が理解できず逃げて来た葉一にとって、思想の合致は共和国で生きる為の重要な要素(ファクター)だ。少し気になる事がない訳ではないが、葉一には共和国での暮らしが快適だと感じていた。


「……ん? どうぞー」


 ベッドの上でくつろいでいると、不意に病室のドアがノックされた。検査は以上だと聞いていた葉一は不思議に思いながらも外にいる人に入室を促した。


「やぁ、元気かい?」


 入ってきたのは、実に爽やかなナイスミドルだった。黒スーツでビシッと決めており、短い金髪と碧眼(へきがん)で体型はややがっしりとしている。


「元気と言えば元気ですが…………貴方、誰ですか?」

「これは失礼した。ボクはグレイ・アンダーソン、この〈アズグラッド共和国〉で大統領なんかを務めている者だ。よろしく」


 そうやって、笑顔で握手を求めてくるグレイという男性。


 その顔は確かに笑顔には違いなかった。が、どうにも噓臭さが拭えない笑顔だった。端的に言えば、そう――貼り付けた笑みである。


 〝大統領〟という肩書の男が尋ねてきたという奇妙さと相まって、葉一は不信感を抱きながら戸惑い気味にその手を握り返した。


「よ、葉一です。大統領という事は、貴方はこの国で一番偉い人、なんですよね? なんで僕みたいな不審人物と会おうと思ったんですか?」

「まぁ、偉いと言えば偉いね。でも一番じゃないな、ボクは二番目にこの国で偉いんだ」

「? 二番目……?」


 葉一は耳を疑った。


 記憶の中では、共和国という城の中で〝大統領〟という存在が最も偉いと認識していたからだ。


「はは、そんな事はどうでも良いじゃないか。それよりも『なんでボクのような人間がキミに会おうと思ったのか』だったね? それは、キミがボク達共和国人と()()()()をしていると思ったからだよ」

「同じ匂い……? どういう事ですか」


 しかし、そんな疑問も更なる疑問に押しつぶされて頭の中から消え失せてしまった。


「どういう事も何も……キミが我が国で保護される前に着ていた服は今私が着ている物に結構似ていたからね……出自の分からないキミを同じ匂いを持つ者と呼称するのは無理ないだろう」

「はぁ…………そうなんですか」


 一応納得した体を取っているが、葉一はこのグレイという男をまだ信用してはいない。もっともらしい事を言って、(けむ)に巻こうとしているように見えていたからに他ならなかったからだ。


(平然としているけど、この人、何かを隠している? 気色悪い笑みといい、大物が僕のような得体の知れない奴に会いに来た事といい、どうにも信用できないな。……しばらくは用心しないと)


 心の中でそう決心すると葉一は次の質問に移った。


「ボクに会いに来た理由はなんとなく分かりました。それで、アンダーソン大統領の用事はこれにて終わりという事ですか?」

「いや、後もう一つ。実は、ボクが直々にこの国を案内しようと思ってね」

「大統領自ら? それは流石におかしいでしょう。公務で忙しい筈の貴方が、僕のような奴の案内を買って出るなんて」


 大統領という身分でありながら、正体不明の人物に一人で対面する事ですら異常なのに、その上時間を割いてくれるなど明らかにおかしい。


 〈皇御国〉で皇帝である凱と話した経験から相手が大統領であっても、葉一は思った事を物怖じせず口にした。


「今日はオフにして貰ったんだ。ボクの代わりに秘書が公務を肩代わりしてくれているから安心してくれていい」

「それはそれで大丈夫なんですか」

「ボクの秘書は優秀でね。それに、大統領にも休暇は必要だと思わないかい?」

「う~~ん…………」


 どうやら是が非でも案内したいらしい。葉一は唸る仕草を見せつつ、その理由を考えた。


(……分からない。そうまでして僕を案内する事に利点なんてない筈。思惑を探ろうにも隙がないし……まぁでも、この国を知るのに大統領以上に適任な人はいないか…………)


 葉一は皇国から逃げ出してきた身、今更帰る所などない。もしこの先、共和国で過ごす事になるならば、早めに情報収集をした方が良いとの決断に達した。


「分かりました、では案内をお願いします」

「任せてくれ。それと今はプライベートだ。ボクの事は〝アンダーソン〟で構わない」

「はい、アンダーソンさん」


 グレイがベッド脇に置いてあった車椅子に座るように促してくる。葉一はその親切に甘えて、車椅子に座り込んだ。


「まずはどこを案内しようか」

「それなら、この病院の外……共和国の街並みを見てみたいです」

「はは、分かった」


 病室を後にすると車椅子に乗った葉一をグレイが押していく。


 窓から外の風景は見られるものの、病院にいると閉塞感を感じてならない。葉一が外に出るように言うとグレイは持ち前の貼り付けた笑みを浮かべて頷いた。





第2章3話は明日(1/24)の18時に投稿します。

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