雨の街
雨の街を進む。
傘もささずに。
ただひたすらに進み続ける。
人々は傘を差し、あるいは自分の荷物を頭上に掲げている。
もし他人にこの姿を見られていれば僕はさぞ頭のおかしいように見えるだろう。
特に気にも留めず歩き続ける。
晴れた日なら夕日がきれいな時間だ。
人々はそれぞれの家へ向かっている。
ある者は徒歩で。
ある者は電車に揺られながら。
ゲームの最新情報や、昨日あった事故や事件のニュースなんかを確認しながら。
僕はただ、進み続ける。
交差点にたどり着いた。
目の前のガードレールには花が手向けられてる。
馬鹿馬鹿しい。こんなもの何の気休めにもなりはしない。
現に僕は、ここにいる。
昨日の少年は無事だろうか。
ただそれだけが気がかりだった。
しかし周囲にそれを確認できるものはない。
これからどうしたものかと考えながら来た道を戻ろうと
振り返ると、手に花を持った女性がこちらに向かって歩いてきた。
目には涙を浮かべている。
なんとなく、少年の母親だろうと察しがついた。
小さな声で呟きながら花を手向ける女性。
どうやら昨日の少年は無事らしい。
立ち上がり、頭を下げる女性。
どうにも少し照れくさい。
雨が止み、雲間から燃えるような夕日が街を照らす。
顔を上げた女性と一瞬目が合った。気がした。
そんなはずは、ないのだけれど。
僕はとても清々しい気分で、目の前の階段を上っていく。
次はより良い生を謳歌できますようにと願いながら。