表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/51

番外編 異類婚姻譚 ー魔族と人ー 10. 共に


 レイがいなくなった世界なのに、セラはまだ生きていた。

 レイが近くにいると考えるようになってから、死ねなくなった。


 そうして長い時間を過ごした。




 ◇  ※ ◇ ※ ◇




「どうしたんだ?」


 楽しそうに顔をニヤかせる同族に首を傾げた。


「……いや……変わったものを見つけたもので……」


 そう話す顔は、舌なめずりをせんばかりに醜悪だったけれど。


「ふうん……」


「……」


 立ち上がり背を向ける相手に声を掛けた。


「どこに行くんだ?」


「少し……ね」


 そういう彼の顔は、珍しい玩具を手に入れた子どものように、無邪気に見えた。




 ◇  ※ ◇ ※ ◇




 やがて長い時間を過ごす中、セラは未来を視る力を手に入れた。


 未来視


 長く生きる魔族が得る力。

 そしてそれが魔族に現れるという事は、近く次期魔王が産まれるという証。



 セラは名乗る事が無くなり、おばばと呼ばれるようになっていた。



 ◇



「やあ、おばば様。この子の世話を頼んでもいいかな?」


 そう言ってある魔族が連れてきたそれは、小さな男の子の姿をしていた。


 セラはしげしげとその子を見て確信した。

 この子がやがて番を見つける事。

 その相手の為に国を滅ぼし、邪魔者を排除する暴君となる事を。


 やがて二人幸せそうに笑い合う未来に苦笑し、そしてその中の、あるものに目を留めセラは息を飲んだ。



「レイ……?」



 レイの顔をはっきりと覚えているかと言われると、そうではないかもしれない。

 でも、珍しい虹彩の瞳と、それが細まり笑う仕草。それに優しくて温かな彼の……


 途端、未来視の中で彼が振り返った。



『ここに来い』



 ────セラ



 もうただの魔物に成り下がった自分。

 人も沢山殺した。

 それでも……


 セラの葛藤に応えるように、レイは目を細め、頷いた。



「……っ」



「どうした? 婆さん?」


 思わず滲んだ涙を誤魔化す為に、目の前の子どもの頭をパシリと叩いた。


「うるさいよ! 誰が婆さんだ!」


 いてえ! と叫ぶ子どもにふん、と息を吐き、セラは腕を組んだ。


「あんたは将来見込みがありそうだからねえ、特別にあたし自ら、しごいてやろうじゃあないか。ありがたく思いな!」


 げえ! という呻き声に口元を歪め、セラは泣き声を必死に噛み殺した。



 レイ……私、あなたに会いに……あなたと生きる場所に行く。





 ◇





「エデリー?」


 ぼんやりとしたまま本を片手に、いつの間にか微睡(まどろ)んでいたらしい。

 長椅子に凭れているところを覗き込まれ、エデリーは頬を抑えた。


「パブロ様? まあ、いらっしゃるなら仰って下さい」


「無理を言って通して貰ったんだ。そしたらとても素敵なものが見れた」


 嬉しそうに目を細めるパブロに、エデリーは、もうと頬を膨らませた。


 エデリーの手を掬い取り、パブロは唇を落とす。


「どんな夢を見ていたんだい? とても幸せそうだったけれど」


 そう言って少しだけ険を孕む眼差しは、彼の嫉妬が混じっているからだと、エデリーは既に慣れていた。


 (こんなに嫉妬深い人だったかしら?)


 くすりと笑みを零す。


「あなたの夢よ。ずっとずっと前の……」


 パブロは眉間に皺を溜めた。


「私はずっとずっと先の、君との時間が欲しい」


 生真面目な顔で膝をつくパブロにエデリーは苦笑した。


「そしたらわたくしは、おばあちゃんになるわ……」


 一人年老いた時間を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになる。


「その時は私もおじいちゃんだ。ずっと一緒だと言っただろう? エデリー・セラ・シャオビーズ、私と結婚してくれかい? ……今度こそ……君と共に……」


 パブロの瞳が思い詰めるように揺らぎ、エデリーはそれを無くしたくてそっと微笑んだ。


「ええ、パブロ・レイディ・ルデル。あなたを愛しているわ。わたくしには、あなたしかいなかった。きっとこれからもずっと……」


 そうして二人手を重ね額を寄せ、永遠を誓った。



 ……つ、続きます。

 でも次回が最終話(。・ω・。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ