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24. 魔王の誕生


 ナタナエルが産まれたのは十五年前だったけれど、彼はそれ以前から長く生きる、いわゆる魔族と言われる生き物だった。

 生まれてから幾星霜の時を経て、やがて彼は魔王と呼ばれる存在になった。


 ある時魔族たちに、お前は魔王と認められたと、妙な役を押し付けられた為だ。


 魔王とは何か。聞けばそれは時空を越える能力を持つものだそうで、それには膨大な魔力が必要で……


 確かに長く生きてきたナタナエルには魔力は余りある。けれど、別にそんな魔族なら他にもいると思うのだ。ナタナエルは面倒事はごめんだった。


 だがそれは精霊による取り決めだと告げられる。

 ナタナエルは眉を顰めた。

 精霊────また厄介なものに目をつけられたものだ。


 彼らはこの世の(ことわり)のようなもの。それを具現化した種族だ。人間には有り難がる者たちもいるが、ナタナエルは胡散臭い彼らが好きでは無かった。


 特に人間は精霊に加護や救いを求めるが、彼らはそんな慈悲深い輩では無い。人間一人が魂ごとその身を捧げたところで、彼らは食指も動かさないだろう。


 稀に精霊が好むと言われる稀有な人間も、人間自身がそうと信じる聖人君子では無い。確かに綺麗なものを好む種族ではあるが、人間は簡単に歪む。そうすると精霊は簡単に人間を捨てるのだから。


「何故僕なんだ?」


「あなたの魂の色が今の精霊王の目に留まったらしいですよ」


 精霊にも王がいるらしい。


「精霊王もまた、その役割に就くべく今人間の世を渡り歩いていますからねえ」


「精霊王の役割って何だったか……」


 そう言って前髪をかき上げるナタナエルの足元には人間の女が何人か転がっていた。好きに食べ好きに捨てる。彼は魔族の本能に従って生きる、ただの一匹の魔物だった。


「人間と番う事ですよ」


 その言葉にナタナエルは顔を顰めた。


「まさか僕に人間と婚姻しろと言うのか?」


 そう言って横たわる女たちを見る。どう見てもエサにしか見えない。魔族には快楽だってただのエサだ。


「僕はごめんだ。他を当たってくれ」


「いえ、あなたがそうなりたいと望むのですよ?」


「何を言っている?」


「未来視のおばばさまをご存知ですよね?」


 ナタナエルは頭を掻いた。


「知ってる」


 それこそナタナエルが生まれた頃から世話を焼かれた。何故か多くの魔族が頭が上がらない、老女の姿をした不思議な魔族だ。


「あなたがどうしても婚姻を結びたいと望む者が現れるのです」


 ナタナエルは胡乱な目を向けた。


「ばあさんがそう言ったのか」


 いい加減耄碌(もうろく)してきたんじゃないのかと思う。人間なんて、この世に生を受けてから飽きるくらい見てきたし、もういい加減興味なんて失せた。


 それこそどの魔族も生まれたばかりの頃は、違う種族である精霊や人間に一定の興味を持つものだが、所詮その程度だ。

 彼らの中にナタナエルの心を捉え続ける者はいかった。こんなに長く生きているのに、人間は皆同じに見える。


「いずれにしても、魔族の総意ですから」


「はあ?」


「あなたが拒むなら消滅して頂き、その魂を使い新たな魔王を作ります」


 ……面倒じゃないか、それ。と思う。


 別に生に執着があるわけでは無いが、他者に勝手をされるのは面白く無い。他の魔族を恐れている訳では無いが、数ある奴らを相手取るのも面倒臭そうだ。


 ナタナエルはため息を吐いた。


「分かった。だけど五百年だ。それで伴侶が見つからなかったら他を当たれよ」


「そうですか。引き受けて頂けて何よりです」


 伝達係の魔族は満足気に頷いた。


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