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20. 衝撃


 シーラは構わずカーテシーをとった。少なくともこちらは礼を失していない。……それにしてもロイツもまた護衛を連れていない。だが木々の影に近衛の制服が見える。護衛は祈りに立ち会えないのだろうか。

 リュフィリエナは困った顔を作った。


「怒らないでお義兄さま。わたくしが呼んだのよ。わたくしの侍女となるなら教育が必要だもの」


「……リュフィリエナ王女。無理をしなくてもいいんだよ。君の清廉な心に万が一にも傷をつけかねないじゃないか。侍女なら教会から派遣して貰おう。魔に魅入られた娘など……」


 そう言ってロイツはシーラに侮蔑の目を向ける。

 この第二王子はシーラが魔族と交接していると思っている。侮辱以外の何物でも無いが、聖女リュフィリエナがそう言い切っている為、全き疑うこともなく信じている。凄い信者だ。


「へえ兄上。聖精祝の会では、精霊に気まぐれに誘われれば誰でも聖女となれるですか?」


「……ナタナエル」


 因みに、リュフィリエナが何度か話している、精霊に愛されたというのは、確か口付けを表していたと思うのだが……

 隣国はその王制からも、下半身の考え方が緩いようなので誤解しそうではあるが。自分たちの正当性を主張するのに長けているようだから、間違いでは無いと思う。

 それにしても、シーラは精霊にも魔族にも会った事は無いが、隣国にはその区別に整合性が取れる程沢山いるのだろうか。


「精霊が愛を与えるのは聖女だけですから」


 はにかむように笑うリュフィリエナの頭の中はどうなっているのだろう。シーラには分からない。


「なるほど、隣国には聖女認定された美姫が百人程いますが、その多くが王侯貴族への祝福者となったのでしたっけ」


 ナタナエルは皮肉げに口元を歪めた。


「ええ。国を納める者たちには精霊の加護が必要ですから。聖女は生まれ持った身分を越えられるのです」


 リュフィリエナは相変わらずふわふわと答える。

 シーラは面食らう。……聖女多いな。

 ロイツが慌ててリュフィリエナを窘めた。

「王女、あまり国内情勢を漏らすのはいかがなものかと」


「あら、けれどナタナエル様はわたくしの夫となるのですから。隠し事など……」


「兄上もご存知でしたか。当然ですよね、あちらに長くお世話になっておられたのですから。そうして現王を筆頭に、聖女の加護を受けるべく多くの貴族たちが妻の他に娼婦……聖女を侍らせているだとか。それで聖女を手配した教会には多額の寄付が送られるのですよね。持ちつ持たれつとはこの事でしょうか」


 ナタナエルの言葉にロイツは顔色を無くした。シーラだって心臓を鷲掴みにされたようで動けない。何よりナタナエルが敢えて口を滑らせた、聖女を娼婦と呼び変えた事に。


 ……隣国では精霊の名の元にそんな暴挙も許されているのか……

 しかしリュフィリエナはそれを聞いて小首を傾げている。


「ナタナエル様。怒らないで下さいませ。わたくしたちが出会えたのは精霊のおかげなのですよ。精霊の訪れが無ければわたくしは聖女になれませんでした。それに、精霊は子を宿していきませんでしたから。わたくしはまだ誰のものでも無いのですよ? どうぞ安心して下さいませ」


 この王女の信心深さはいっそ洗脳されていると言われた方が納得できるほどだ。シーラがポカンとしていると、ナタナエルに伸ばされた手を彼自身が(はた)き落とした。


「僕に触るな! 穢らわしい!!」


 ナタナエルからの拒絶に、リュフィリエナはびくりと身体を震わせた。


「ナタナエル様……」


「名前も呼ぶなと言った筈だ」


 唸るナタナエルに、リュフィリエナの顔からは表情が抜け落ちた。


「……ああ、やはり……」


「ナタナエル! 王女に謝りなさい! リュフィリエナ王女、大丈夫ですか?」


 慌てて駆け寄るロイツの脇をスルリと通り過ぎてリュフィリエナはシーラに向き直った。


「祈りだけでは足りないのだわ。急いでこの娘の魔を滅せねば……このままではナタナエル様のお心まで穢されてしまう!」


 そう言ってリュフィリエナは懐から銀のナイフを取り出しシーラの胸に振り下ろした。


「な!」


 あまりの事に反応出来ずに身体が固まる。シーラは身体に力を込めて目をぎゅっとつぶった。

 そして殴られたような衝撃が身体に走り、シーラは地面に倒れ込んだ。


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