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カツ丼食いたいと言ったがあれは嘘だ!

今回は聖遺物の話。

 ギルドで収穫を換金したオレは、聖卵の解呪のため近くのアルセーヌ教会に来ていた。

 攻略が早すぎる件についてギルド長に説明してほしそうだったが、腹が減っているので後日とした。アンヌちゃんはもう退勤してたし。


 礼拝堂の隅にある小さな個室に入る。仕切りで顔は見えないが、向こうには神官の気配がある。聖遺物の情報は冒険者にとって生命線になり得るので、こうして秘密が守られる。


「解呪を頼む」

「承りました」


 短いやり取りの後、渡した聖卵と神官の手元を見つめる。青白い光が徐々に強くなり、何も見えなくなった直後消えた。自分で解呪に来たのは1年ぶりだが、不思議とこの孵化の光で目がくらむことはない。


「《怪盗シリーズ統合インターフェイス・モノクル》です。効果は私に聞かれてもさっぱりです」


 《塔》にいた当番神官と口調が似てるけど本人じゃないよね?

 受け取ったのは度の入っていないモノクルだった。糸のように細い金鎖が付いておりなかなか格好いい。


「効果不明?」

「ですね。初めて見るものです」


 仕方ない、説明書が付いてくるわけでもないし。古今東西の聖遺物のデータを蓄積した鑑定屋という商売もあるけれど、怪盗シリーズとかあの長い名前を鑑みると厄介な臭いがする。日頃から使ってみるしかないな。


 オレは礼を言って小部屋を出た。解呪の謝礼として祭壇前にある箱に銀貨を一枚入れる。

 謝礼の金額は決まっていないが、神託をもらった時やちょっとした相談事でも支払う慣習なのであまり高額だと懐に響く。貴族や豪商は大枚投入するというけれど、それで加護が付いたという話も聞かない。


 出掛けに9時を知らせる鐘が鳴った。


 夜9時を過ぎても街は街灯に照らされ、人通りは多い。街灯はすべて聖遺物なので形はまちまちだ。聖遺物が大きめの照明だと街が高値で買い取ってくれる。番号を刻印されるので盗んで転売するような奴もいない。


 ちょっと考えて近くの酒場に入った。いつも教会のついでに寄る店だ。ようやく飯にありつける。

 そこそこ混んでいるのでカウンターに座ると、おばちゃんが注文を取りに来た。

 ここはやはり、


「豚ラーメン野菜にんにくマシ油少な目」


 カツ丼食いたいと言ったがあれは嘘だ! だが、


「ごめんねぇ、しばらく麺がないのよぉ。ほら戦争があるとかで値段がねぇ」

「仕方ない、じゃあカツ丼大盛り、それとエール」

「はいよ」


 残念だがカツ丼もうまい。パン粉はあるようだ。

 待つ間にさっきのモノクルを手に乗せて眺める至福の時を過ごそう。

 金縁で繊細な作りだ。聖遺物だから見た目通りの耐久性ということはないだろうけど。さて効果はなんだろう。


 そもそも冒険者にとってレイジの持つ《聖剣》のように有用な聖遺物は少ない。多くはゴミと言っていい。オレが拾っただけでも《夢を見ない枕》、《少し早く歩ける杖》、《よく乾く物干し竿》などなど遺跡に持っていかないようなものばかりで、ほとんどは売り払ってしまった。


 雑貨屋などに行くと聖卵を模した子供向けのくじ引きがある。

 皮のボールをたくさん詰め込んだ機械で、ボールには安物の玩具やアクセサリーが入っている。1つ2つ高価な大当たりを入れておくのがポイントだ。客は金を払って機械のレバーを回し、出てきたボールを開けては一喜一憂する。

 レバーを回す音から《ガチャ》と呼ばれ、王都では一時大流行した。今は規制が入り落ち着いている。入れてもいない大当たりを喧伝する、悪質な業者が横行したためだ。


 ところが聖遺物ガチャに規制はない。大ハズレの《石のように固い石鹸》なんかは道端に捨てる輩がいて、雨の日は注意しないと転ぶ。


 オレは懐からペンダントを取り出した。目がデザインされた奇妙なペンダントで正直オレの趣味じゃない。オレとレイジで初めて手に入れた聖卵から出たものだ。

 当時喜び勇んで鑑定屋に向かったオレたちは、『初めてみた聖遺物だ』という鑑定屋の言葉に興奮し、『まぁ効果は少し幸運になるってとこだな』という結果に落胆した。結局オレが御守り代わりに身に付けている。


 と、思い出に浸っているとオレのカツ丼ちゃんがきた。モノクルはとりあえず装着し、食事にかかる。どんぶりの蓋を開けると湯気が立ち上り、三つ葉と出汁が香った。


「かーっ、うまい……!」


 ひたひたになったカツに甘めの味付け、たまねぎのアクセントを卵が包んでいる。

 腹が減っていたから一気にかきこみ、熱くなった口に冷たいエールを流し込んだ。

 逮捕されたら食べたくなるわけだよなぁ……とジョッキを置いた時、女の声、のようなものが聞こえた。


『所有者のエネルギー充填を確認。怪盗シリーズ・統合インターフェイス・モノクル起動します』

次回はようやく仲間が増える話。

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