オレ、結婚決まったからパーティークビになるんだ
「結婚が決まったのでパーティーをクビになりました」
さっきまでそこで晒し者になってたオレが受付に並ぶなんて、ストレスで口から光線を吐きそうな所業なんだが。脱退届を出すのは早い方がいい。先に並んでいた冒険者5人はオレが並ぶと先を譲ってくれた。皆優しい。いや、ハレモノになっているだけか。
「結婚って……まぁ聞こえてましたけどね。届けを受理します、お疲れ様でした」
「ありがとさん。アンヌちゃんの笑顔マジ癒し、苦笑いだけど」
このアンヌちゃんも例に漏れず、経験上どこのギルドも受付嬢はかわいい。しかも元気になるかわいさ。どこで見つけてくるんだろう? おかげで軽口も調子が出てきた。
冗談に笑ってもらえれば苦くない笑顔も見られる(プライスレス)。
「これからどうするんです? パーティーメンバー募集ならボードに貼ってますけど……」
ボードには依頼や連絡事項、メンバー募集に加え、指名手配された凶悪犯の人相書きまで貼られている。
それを捕まえて賞金を稼ぐ冒険者もいるのだ。
遺跡攻略を生業にしてきたオレはボード自体馴染みが薄かった。
「いや、皆の視線が痛いからもう少し痛みに強くなってから考えようかなぁ」
「変な耐性つけないで、ほとぼりが冷めるまで待ってくださいよ……確かに最近は王都でも、火力に偏ったパーティーが増えてきましたけどね。勇者様の快進撃の影響でしょうけど」
「つっても聖剣の火力に追い付けるもんなの?」
レイジの持つ聖剣は聖遺物だ。効果は『魔に連なるものに抵抗を許さない』、つまり相手が魔物である限り防御は無効化される。なにその最強ムーブ。
アンヌちゃんは困ったように眉を寄せた。かわいい。脱ごうかな。
「それ以前に、遺跡攻略に失敗するパーティーが増えてまして。遺跡の外の魔物討伐や護衛依頼なら火力で解決することもあるんでしょうけど……」
王都周辺では遺跡の外に魔物はいない。発生源となる魔力溜まりが遺跡以外に無いからで、田舎に行くと山や森の奥深くで発生した魔物が人里に出ることはある。そういう討伐依頼を受ける仕事に比べ、遺跡の探索は時間がかかるが、聖卵や財宝があれば実入りがいい。
魔物のいない王都に冒険者が集まるのは遺跡へのアクセスがよく、情報が集まるからだった。
「ま、当分一人でいいや。それよか聞きたいことがあるんだけども、《塔の遺跡》って今日誰か潜ってる? 攻略記録見せておくれ」
「塔ですか? 長らく誰も入ってませんよ、苦労するほどの実入りがありませんからね」
遺跡は大きく分けて2種類あり、地下と地上に分かれる。要は入り口から下るか上るかの違いで、《塔の遺跡》はその名の通り塔――地上80階層あり攻略に時間が掛かる、というか疲れる代名詞だ。
ここに限らず遺跡攻略は地味で地道な、英雄譚とは程遠い仕事だけど。
見た感じの遺跡は明らかに作られた建造物で巨大だ。
魔力溜まりによって維持される異界でもある。異界では物理法則が歪んでいるから屋内なのに空があったり、外の昼夜とずれていたり、盗賊の加護でしか解除できない罠があったりする。
攻略済みの遺跡でも日を置けば魔物が補充され、多少の財宝や聖卵が見つかるのも異界だから、と言われる。たいていのことは異界で説明がつく(確信)。
ふむふむ。いけそうだな。
攻略記録の冊子からニヤリと顔を上げるとアンヌちゃんが首を傾げた。
マジかわいいかよ。
「そりゃ丁度いい。ちょっくら遠足行ってくるから馬貸してくんない?」