プファ伯爵家の庭師
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「庭師という響きがなんかエロいと思っていた時期がオレにもありました……」
あれから1週間。オレはプファの屋敷の客間をもらい住んでいる。というか《塔》からの帰りにそのまま連れていかれ、眠くて仕方なかったので頼ってしまった。目が覚めて知らない天井を見た時は、やっぱり消されるのかと思った。
客間は豪華で落ち着かないが、オレはプファの家人になるつもりはないし、頻繁にリーゼの訪問を受ける都合もあってそこに落ち着いた。
この1週間は《怪盗》の影響で変化(進化?)したり増えたりした加護を検証したり、《塔》で拾った聖卵からまた《怪盗シリーズ》が出たり(オレ呪われてんの?)したが、概ね穏やかな日々だった。
『ちがいますよ、マスター。象という動物はですね、耳が垂れているんです――』
「アミ、その象というものを正確に再現できたとして、一体オレたちの誰がわかるんだ?」
穏やかすぎてこうして庭師の真似事をしている。
西の国のように植え込みを動物の形に剪定できるところまで上達した。
とりたててエロい要素はなかった。
そういえば例の麦の大半はプファ家から軍に格安で納品されたらしい。もちろん袋を詰め替えて。では投資家たちへの補償はどうしたかというと――
「随分と上達されましたな、タイチ様」
「ディー氏のご指導のおかげだな。麦の方は済んだ?」
庭師の師匠ディー氏(どうしてできるの?)は今日も渋かっこいい。
最近王都には、高値を当て込んで続々と遠方の麦が到着している。ざっと20万トンほど。しかし麦投機の仕掛けはとっくに崩壊していたわけで、あっという間に大暴落した。去年の半値、今年の最高値の1/4くらい。
「補償分も完了致しました。皆様渋い顔ではありましたが、問題ないでしょう。当分食べ物には困りますまい」
投資家には同意書に基づき、「奪われたもの」――預けていたのと等量の(安い)麦を支給した。品質も同等以上だから、文句はあってもプファ家には言えなかっただろうな……。
「でもこれ、あのまま放っておいても同じことになったんじゃない?」
「そうとも言えません。遠方の麦まであの倉庫に入るようなことがあれば、それこそ王国の危機でした。それに――」
「渾身の一撃は相手が一番弱った時に打ちこむもの、だっけ? リーゼが言ってた。プファ家怖い」
かくして王都の麦騒動は終わった。巷は《怪盗ロワ》の噂でもちきりで、大立ち回りした甲斐があったというものだ。
すっかり大人しくなったカーボン氏は商会ごとプファ家に忠誠を誓い、下部組織になった。カーボン商会に対する債権はあの日の麦相場(最高値)で計算されたので、現金化できるか不明だがすごい金額だ。それをもって商会の全権はリーゼの手に渡ったのだ。
なんでも「面白そうなホコリが積もっているから出なくなるまで叩く」そうだ。カーボン氏の明日はどっちだ。
「しかしよろしいのですか? お嬢様は儲けの半分をお渡しする用意をされていましたが」
リーゼは軍に割安で売った麦の代金で、投資家たちに補填した麦の代金を差し引いてもかなりの現金を儲けた。カーボン商会の権利もあるし、そもそもプファ家は大金持ちだ。
オレはその分け前をくれると言われた時に、ここの家賃にしてくれるよう頼んだ。
大金すぎて受け取るのが怖かったし、清算してプファ家ときっちり貸し借りなしになるのはもっと怖かった。存在を清算される的な意味で。
リーゼがいいと言っても忠義を尽くす家人はどう思うかわからない。それに、
「オレにそんな金、使い道無いぜ? ディー氏にうまいラーメン屋も教えてもらったしな!」
あれは奇跡の一杯だった。ほんとこの人はなんでもできる人だ。
どうせ自分の欲しい分は(合法的に)稼げるし、そのうち金で手に入らないものにも手が届く――かもしれない(ニヤリ)。
「さて、そろそろリーゼがなんか言ってきそうな気が……」
「あぁんっ、タイチったら、こんなところにいたのね? 次の獲物を見つけたわよ! すごいのっ、夜会でお披露目される聖遺物があってね――」