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ごた~いめ~ん

今回はごた~いめ~んの話。

 追っ手をやり過ごしたオレは倉庫街を離れ、馬車で《盗賊の塔》へ向かっていた。

 御者席から声がかかる。


「そろそろ到着いたします、お嬢様、タイチ様」

「お嬢様はやめて」

「では伯爵閣下」

「それもやめて。今はオフ、盗賊の時間よ」


 向かいに上機嫌のリーゼが座っていた。深い色のドレスが似合っていて、盗賊というか冒険者にすら見えない。

 リーゼ、もといリーゼロッテ・プファは領地なし・役職なし・成り立ち不明の謎の伯爵家の当主、伯爵ご本人だそうだ。自分でも何を言っているのかわからない。


「一言で言うと王国の闇、探ると行方不明になるわよ?」

「関わっちゃいけない貴族第一位じゃねぇか!?」


 オレはそのプファ家の紋章付き高級馬車で運ばれていた。牧場から出荷された子牛の気分だ(泣)。

 リーゼみたいなエロかわいい女の子がそんな怖い伯爵ご本人とか、もう街を歩くのも怖くなる。両親の死後、唯一の子だから相続したわけだが、プファは代々女系伯爵家だそうだ。


「タイチ様、もう一杯お茶をいかがですかな?」

「お、おぅ、ありがとう……御者席でどうやってお茶淹れてんの?」

「執事ですから」


 御者をしている渋かっこいいおじ様は、代々プファ家の筆頭執事を務めるディー氏だ。

 変装道具の準備や予告状の噂を流す工作から、最後の後始末までサポートしてくれた。心強い助っ人だ。

 ディー氏は調停神エルマン信徒で盗賊じゃないが、調停神にも執事の加護はなかったと思う。


 《塔》に着くと例の当番神官が待っていた。代々アルセーヌ信徒であるプファ家は彼と懇意らしく、快く仲間に加わってくれた。

 《塔》に入る冒険者がいたら適当な理由をつけて止めるようお願いしていたが、昨日の今日で訪れたもの好きはオレたちしかいなかった。


「さて、ごた~いめ~ん」


 昨日は使わなかった一階入口の扉を開くと、麦袋がみっしりと積まれ一歩も中に入れなかった。

 今日のお宝だ。リーゼも満足そうに、マッピングで確認している。

 この麦は79階までの吹き抜けと螺旋階段を埋め尽くしているそうだ。


「この目で見ると、えげつない光景ね……」

「オレもここまでうまくいくとは思わなかったけども……《塔》が壊れなくて良かったな」


『当機の計算は完璧ですよ、マスター♪ ほめてほめて!』


 すごいなうちの聖遺物。

 倉庫の麦を消し去ったのは転移魔法ではなく、ここのセーフゾーンで拾った転移罠だ。昨夜のうちに仕掛けておいた。

 罠の効果通り麦は「(塔の)一階に転移」している。さすが神が作った罠だけあって、遺跡のような魔力源もなかったのに凄まじい。「神の力の代行」とはよく言ったものだ。


 実は麦が無くなったのは9時の鐘が鳴った瞬間で、その後オレが指を鳴らして閃光弾を起動したのは使った転移罠の核を回収するためだった。無茶な使い方をしたせいか、核は壊れてしまっていたが。

 結果はアミの計算通り、麦は79階までの吹き抜けと螺旋階段を埋め尽くした。


「しっかしあの広さに《罠設置》できるとは思わなかったけどな。これも《怪盗》加護様様なんだろうけども」


 本来の《罠設置》は探索中にセーフゾーンもどきを作るために使う程度の加護だ。

 本物のセーフゾーンはボス部屋前にしか無いが、長時間遺跡に潜るなら休憩や仮眠が必要だ。だから守りやすい小部屋を見つけたら魔物を遠ざける、または接近を知らせる罠を仕掛け、陣地構築するのも盗賊の仕事なのだ。

 効果範囲を好きに変えられたら、遺跡を魔物レスにできてしまう。お宝も無くなるからやらないけど。


「ねぇタイチ、魔物がいないみたいなんだけど、どうしたのかしら?」


『魔物は麦の出現で圧死したはずですよ~。このまま麦を置いておけば、新たに湧いた魔物も自動的に駆除できます。当機の計算は完璧なのです!』


「えっ、なにそれ怖い……じゃあ今80階は?」


『何もいませんよ』


「何もいないわね」

「………………」


 リーゼもマッピングで確認したようなので、さくっと行ってきてみた。


「……ぜぇ、はぁ……ほ、ほんとにいなかった」


 前回と同じルートで財宝を頂き、セーフゾーンの罠の核もついでに失敬した。

 壁を登っていくのが面白かったのかリーゼが笑いすぎだった。

 じゃあ今あの罠にかかると1階に転送されて圧死するんだろうか。


『これ以上の転移物は80階に出現すると予測してまーす。マスターの身体で試してみます?』


「……ちょっと気になるけどいいや」


 行く前に聞いておけばよかった(反省)。


 「では荷馬車の手配をいたします」


 外壁を登っていくオレに驚いていたディー氏は、馬車に搭載した通話用聖遺物でどこかに連絡を取り始めた。

 便利なものだが大きくて重いので、普通はギルド長室などに据え付けられている。大きな組織なら持っているくらいには普及しているが、それでも高価なものだ。馬車に積んでるのは初めて見た。


「荷馬車って……何百台で何往復すんだろうな?」


『200台で20往復です(キリッ)』


「残念でした、魔物が死んでるなら、そのドロップ品も回収するからもっと必要よ、アミ?」


『…………ムキーッ! 当機はスリープモードに移行しますっ』


 うん、リーゼがご機嫌でなによりだ、オレも行方不明にならなくて済む。


「なぁリーゼ。オレの手口はどうだった? 世界は変わったか?」

「そりゃもう、ぞくぞくしたわよ! これから盗賊の世界が始まると思うと、たまらないわ! でもね――」


 そう言ってオレの腕を引き、耳打ちするように口を寄せた。

 近付くとリーゼはいい匂いがする。


「――こういう時は、先に女を褒めるのよ?」


 ほんとに耳打ちだった……(チーン)。


「コホン。うんうん、リーゼはちょっと嫉妬するくらいの腕だな。魔導士並みの魔力操作がないと、あのマッピングはできないだろ? ほんとに盗賊か?」

「あはっ、褒め言葉は弁えてるわね! それに免じて……伯爵家当主リーゼロッテ・プファが褒美を取らせるわ、跪きなさい」

「その名前、ほんとはもっと長いんだろ?」

「リーゼロッテだって略称よ」

「まじかよ……でもオレ、臣下とかにはならないぜ?」

「いいからじっとしてなさい」


 跪くと、リーゼの柔らかい両手が低くなったオレの顔を包み、ドレスの胸元が眼前に迫った。

 んんっ、なんという絶景! こいつは確かにご褒美だぜっ! ●REC!

 谷間に大興奮しているうちに、額に湿った感触を受けた。

 キスをくれたと気付くが――あっ、と声を上げる間もなく、頭を突き飛ばされて態勢を崩した。


「…………ご褒美だなぁ」


 無様に尻もちをついて、馬車の方へ駆けるリーゼの後ろ姿を見送った。

 馬車の手前では、通話を終えたディー氏の鋭い目がこちらを見ている。

 とりあえず土下座した。


次回は勇者パーティーの最期。

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