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オレとリンクして怪盗になろうぜ

今回は獲物の下見の話。ようやくタイトル回収\(^o^)/

 王都の南端は川幅が広く、多くの商館が倉庫を構えている。オレたちは川沿いの教会、その尖塔に上って、ひときわ広大な倉庫を見下ろしていた。


「はーい、あちらに見えるのがカーボン商会自慢の大倉庫。麦を買い占めて値段を吊り上げてる、悪い商人よ、タイチ君?」

「はーい、2時間かけてどこ連れてくのかと思ったら、倉庫かよ。で、ラーメンとなんの関係があるんだよ、リーゼ先生?」

「あの大倉庫の中にはカーボンが集めた麦2万トンが積まれているの。それがある限り、麦の価格は上がり続けるわね。さすが悪い商人、やることがえげつないわ!」

「おいおい、遺跡くらいあるじゃねぇか、あの倉庫……でもさ、王国中で高騰してるわけじゃないだろ? 安いところから大量に持ってくりゃ、値下がりするもんじゃないの?」


 各地を冒険していた頃に聞いた話だが、ものの相場は産地との距離や取引量でも変わるため、地域ごとに商業ギルドが発表してるらしい。


「ここまで高いのは王都だけね。そこでカーボンは他の商人たちに、格安の保管料で麦をここへ預けるよう呼びかけたの。扉の上を見て――」


 大倉庫の中央の扉、その上には《現在の麦相場》と大きく書かれた張り紙が見えた。銀貨2.86枚/10キロ――明らかに先週より高い。去年の倍近い値段だ。


「商人にしてみれば寝てる間にお金が増えるようなものね。あそこに麦を預けるということは、裏切って売り抜けないという意思表示なのよ。売るつもりのない在庫に倉庫の場所を取られることもないしね」

「2万トンってのはカーボンの麦だけじゃないんだな。お互いの在庫を見せ合って監視しあってるわけだ。まじえげつねぇ、さすが悪い商人だぜ!」

「倉庫にあるカーボン本人の麦は1割程度ね。つまりカーボン商会は資金力の10倍の麦を集めたってことよ。戦争の噂が流れてからたったひと月で、王都はすっかり麦投機ブームなの。もう商人っていうより投資家よね」

「王都の奴らって流行りものに弱すぎね……?」


 ガチャブームとその後の規制が思い浮かんだ……そうだ、規制だ。


「それって国はなんとかしてくんないの? 軍だって糧食高けりゃ困るだろ?」

「あはっ、それね……」


 リーゼの目が据わった。


「本来なら騒乱罪で取り締まりね。でも王国には理念があるじゃない?」

「ああ、『貴賤によらず麦を享受したもう』とかなんとか……」

「そう。それを持ち出して麦の取引の自由を主張する輩がいてね、王宮が割れてるのよ。『畏れ多くも国王陛下の治世に疑念を持つ民が出てくる』だのなんだの……軍は糧食の調達が停まってるし、軍務卿禿げるんじゃないかしら」

「なるほどなぁ、なんでそんなこと知ってんの? ほんとに冒険者?」


 しまった、と口に手を当てて目を丸くしている様子も、なんだか高貴でやんごとのない厄介な香りがする。


「も、もちろん冒険者よっ? さる高貴なお方に雇われてるの、ほんとよっ? いや~ん、そんな目で見ないでよぉ」

「……まぁ、それでいいや。要するに金儲けに一枚かんでる貴族連中が圧力かけてくるわけだ?」

「あら、意外と世慣れてるのね? もっと初心かと思ってたわ」

「……勇者パーティーだったからなぁ(遠い目)」


 ヴィルヌーブのマブダチ・ドゥメール男爵なんか、いかにもやりそうだな。

 まさかリーゼは麦強盗の仲間にオレを誘ったのか?


「わたしはね……見たいのよ。あの中に積み上げられた麦は、この王都の欲望そのものよ。盗まれるなんて考えもせずに、余裕ぶってあそこにあるの。それが一夜にして消えてなくなったら、どうなると思う?」

「どうって、大騒ぎだろ……まさかあそこの麦を全部盗むってのか? 無理だぜ2万トンなんて――」

「世界が、変わるのよ。盗みようのないものが盗まれた――犯人はおろか目的も手段もわからない。ただ一つ確かなことは、どんな欲望も野望も、もう隠して閉じ込めておくことはできない。盗賊が盗んでしまうから――」

「それは……リーゼが望む世界みたいなもんか?」


 『盗賊が盗む』という言葉に、ビクリと血が騒いだ。

 ただの冒険者が言うことじゃない。こんな考え方、世界観――まるで王国の建国史だ。


「そうよ、下手な小細工はなし、上手な小細工には大喝采! 華麗な手口で盗み、煙のように消える盗賊たちの世界。素敵じゃない?

 わたしはそれを見たい。貴族の駆け引きも国王の面子もどうでもいい。貧しい人が飢えて苦しいとか戦争が起きるとか、そういうの何もかもすっ飛ばして、盗賊の力が世界を変革するところを見たいの……!」


 熱っぽい視線と吐息。身を焦がすような憧憬をもって遠くを見つめる、そんな目をしたリーゼはなんだか遠くへ行ってしまいそうで、おかしな気分になった。

 昼間《塔》でお宝をせしめた時の興奮が、しきりに頭をよぎる。血が沸騰するような、居ても立っても居られない気分だ。またあんな「盗み」がしたい。それを誰かに見せつけたい。


 だけど2万トンの麦ってなぁ……毎日500キロずつ盗む……格好悪いよな……?


『へっへっへー、お困りですか? これは怪盗にふさわしい仕事ですよー、マスター。リーゼ嬢もワケアリみたいですし、うまく解決すればマスターの最終目標であるラーメンが手に入りますよ!』


 ラーメンを人生の最終目標にした覚えはないよ?

 盗むにしても手段が無いんだな、これが。


『罠なんてどうですか? 《怪盗》の罠は神の力の代行だって前の所有者が言ってましたよ!』


 罠か……罠、罠。神ってる罠。とにかくでかいものを盗む罠……。


「そっか、罠でいけそうだな……」

「あはっ、タイチならできるって言うと思ってたわ。盗賊の力を、見せてくれるわね?」

「そうだな、いっとう盗賊……いや、怪盗らしいところをリーゼに見せてやるぜ!」


『シナリオと演出は当機にまっかせてください! 衣装も必要ですねっ、忙しくなりますよー!』


 アミが何言ってるかちょっとよくわからないが、悶々とした気分は晴れた。

 「一回盗むと癖になる」とはよく言ったもんだ。きっかけはどうあれオレは今、盗みたくてたまらない。


「助っ人が必要だな、リーゼに当てはあるだろ? あ、とりあえずオレとリンクしようぜ? 大丈夫、痛くしないから(ニヤリ)」


次回は勇者パーティーの話。

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