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勇者パーティーは盗賊がいらない

 神代の終わりにある人の王がいた。王は誰よりも高みに手が届く力を持っていた。まだ人が弱く人ならざる者が強かった時代に、王は空を飛び、海を越え、山を盗んで民に希望を与えた。

 盗賊王と呼ばれた王のもとには優れた盗賊たちが集い、力を尽くした。ついに王は大河流れる豊かな土地を手に入れ、王国を築いた。――王国建国史より



                   ***



 広くて頑丈なだけが取り柄の冒険者ギルド。その隅っこ。

 朝一で呼び出されたオレは4人のパーティーメンバーに囲まれている。険悪な雰囲気だが、相手は勇者レイジのパーティーとあっては誰も近付いてこない。


 小柄な猫獣人の娘は腕を組んで一歩詰め寄ってきた。

 身の丈を超える大剣を背負った獣戦士ラウ。秋も終わりだというのに露出の多い装備、そこからのぞく褐色の肌と、人を軽蔑しきった目つきが不釣り合いで怖い(震え声)。


「――聞いてんのかよ、タイチ! 戦力にならねぇ盗賊はレイジのパーティーにはいらねぇって言ってんだよ! こっちが命張ってる時にちょろちょろ邪魔くさいし、仮眠中でもいっつも起きてるからあたしはレイジと二人っきりになれ……ああもうっ、とにかく邪魔っ!」


 なんだ痴話か。別にオレの目の前でおっぱじめてくれて一向に構わないのに。こんなに露出した痴女が奥手とか、なんかの呪いか?

 ラウは血走った眼でオレの肩と腰に提がった愛用のナイフを指差した。


「大体なんだよそのやる気のないエモノは? レイジみたいにゴーレムを砕いてマンティコアを両断できるようになってから出直してこいよ!」


 盗賊に何求めてんだよ!? あれか? 恋は盲目ってやつか? やっぱ痴話か!


 盗賊という仕事柄、オレは軽装だ。《壁抜け》なんかは背に隠れない大きさの荷物があると失敗するし、身軽に動けないと話にならない。必要な小道具も多い。

 だから上下は黒っぽい革の防護服、2本のナイフの他はあちこちにポーチを提げ、ロープや毒針を仕込んでいる。どこに何入れたか思い出すだけで結構大変。


「まぁまぁラウちゃん、タイチは盗賊?なんだから身の丈に合わない武器?を持っても仕方ないでしょう? それにレイジ様があなたと二人きり?になりたいかどうか、ちゃんと聞いてみましたの?」


 魔女、いや錬金術師ローレイヌ。見た目を一言で言おう、おっぱいだ!

 無意味に挟む疑問符の位置がすごく不安になる。呪われそう……(白目)!

 それとレイジ様の視線は今、お前の胸元をさまよってるからな。厚着の季節になると下乳の辺りにベルト巻くのわざとだろ?


 ローレイヌはいやがるラウの後頭部を自分の胸に埋めるように抱き寄せた。見ちゃいけませんだったこの一画に一瞬衆目が集まる。

 皆好きだなぁ。オレも好きだけど相手を選ぼうぜ。虫を見るような目ってこういうやつだ。いやらしい視線に気付いて薄ら笑ってやがる、つまりこいつは悪意あるおっぱいだ(看破)!


 「でもねぇタイチ、この1年間?あなたが果たした役割はマッピングくらいでしょう? まるでツアーガイド?ではありませんの。遺跡探索は遊びではないのですよ。ましてレイジ様は主神?に認められし勇者。一つでも多くの聖卵を回収するという使命があるのですわ。一日でも早く世界に平和?が訪れるように、わたくしたちは努力?しているというのに」


 主神とか平和とかマズいところに疑問符がついてるように聞こえた件。

 ローレイヌは逃れたラウに悪態を吐かれ、あらら、ととぼける。もうこちらに興味は無いのだろう。


 できの悪い生徒を諭すような口振りで、実はディスってるだけ。お前、絶対教師になるなよ?

 ローレイヌは人の嫌がることをしたいだけなんだと思う。パーティー組んだ頃はオレの沸点探るように嫌がらせされたものだ。レイジに興味がないのにラウとの仲を邪魔しているが、なんだお前も痴話か!


「そして君が先行して罠を解いて戻るまでの時間、それが無駄である」


 オレの頭部をじぃっと見ていた僧侶ヴィルヌーブが口を開いた。

 僧服を着た壮年の、金持ってるけど頭髪が心許ない男だ。冒険者とは思えないほど身だしなみを気にするやつで、ギルドや教会の信頼も厚い勇者パーティーの仕切り。


 罠解除して前進の合図出してもお前らが動かないから、わざわざ呼びに戻ってるんだけどね?

 それはともかくオレはこの男に頭部を見つめられると不安になる。オレの毛髪大丈夫? ヤバい?


「勇者とは私が仕えるところの主神に加護を受けし存在。それに私が聖なる障壁を施せば、罠の何が問題なのか。我々は、聖別された存在なのだよ!」


 あ、これ知ってる、宗教の人(聖職者とは言ってない)の目だ。こっち見るな怖いハゲそう(白目)……!


 ちょうど1年前、勇者に選ばれたレイジを中心にパーティー結成を呼び掛けたのはこの男だ。

 教会での立場もある年長者ということで、勇者を支援する貴族や豪商とのパイプ役でもある。


「ならば神の使徒たる勇者一行がゆくべき道はただ一つ。神が示したる道をただ真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに最奥を目指せばよいっ。それが最善で最短である。それがもっとも支援者の皆様を喜ばせるのだ。

 考えてもみたまえ、我々が何日何週間と王都を空ける間、やんごとなき方々は誰を賞賛すればよい? さらなる支援者を私に紹介せんと待っておられる。裕福な方々は誰に金を渡せばよいのか。今日はいくつの聖卵を持ち帰るか、金貨を積み上げて私を待っているのだ。

 そもそも聖なる一行に卑しき盗賊が紛れ込んでいるというのがおかしい。支援者の中には盗賊対策にも熱心な方が――」


 熱心に金を奉っているのでそろそろ悟りを開くだろう。

 それも悪いことじゃないし、オレはこのおっさんの話が実は嫌いじゃない。説教臭くて話長くて鼻持ちならない奴だけど。パーティーの資金を懐に入れてるのも知ってるけど。


 だが向こうは盗賊を毛嫌いしている節があって、大方この何度目かの吊し上げもこいつが言い出したことだろう。

 盗賊といっても馬車を襲うような強盗と、こっそり盗む泥棒と、盗賊神の加護持つ冒険者との間には一切関係ございません。盗まないし賊でもないんだけど、どうして盗賊なんだろうね?


 しかし真っ直ぐに最短で最奥を目指す、か。誰もやらない方法で、一度も戦わず、財宝に直行直帰――面白そうだな。

 オレ一人ならあるいは……と考えていると、


「そう、僕たちは主神に導かれ使命を果たさなければならない。それにはまだまだ足りないんだ。西国境で戦争が近いと聞いているだろう?」


 オレの正面で黙って聞いていた男、勇者レイジ。疲れているのか顔色が悪い。

 オレも今日は一切反論しなかった。結成以来ギスっている、というかオレがハブられ気味のこのパーティー……あれ、泣きそう……ともかく、他のメンバーとは対話できたことがなかった。

 そろそろ目の前の親友と結論を出したい。

 こいつとは同郷で同い年だ。12歳の年に二人で三日歩いて街の冒険者になった。それからレイジが勇者になるまでの3年間、共にあちらこちらを冒険した。


 オレは村を出る前から、村長の息子レイジなら勇者になれると思っていた。だから勇者にふさわしい盗賊になるべく腕を磨いた。村で爺ちゃんに仕込まれてたってのもある。

 そして今、オレたちは16歳だ。結論を急いでいるとは言われないだろう。


「この1年間、いやその前から、聖卵を集め続けたのは僕らだけじゃない。なのに戦争も飢饉も疫病もなくならない。北の辺境領は麻薬で荒廃し、密売組織が恐れ多くも領主様を暗殺したと聞く」


 いい奴なんだ。金髪を後ろに流したイケメンで、騙されやすく馬鹿で鈍感で、思い込んだら人の話を聞かないけれど。ラウが阿呆になるくらい惚れて、ローレイヌもレイジの言うことは聞くし、ヴィルヌーブは必死に資金を集める。癖の強いこいつらに、そうさせるだけの男ではある。


 なぜなら、野心がないから。

 いつも他人のために心を痛め、命を張る奴だったから。

 オレとちがって勇者にぴったりだと思った。


「――背後には魔王がいるはずだ。世を乱し、民を傷つけようと聖卵を壊してまわっているはずなんだ」


 神代末期、神々は現世を去る前に人の王たちに王権を授け、《遺跡》を作った。その最奥には財宝と聖卵が眠り、強力な魔物がそれを守っている。子供でも知ってる話だ。

 聖卵は教会で解呪すると孵化し、聖遺物と呼ばれる便利グッズを人類にもたらす。

 しかし解呪する前に割られると中の《恐怖》が解放され、それを浴びた人間は魔王になるという。その度にレイジが言う治世の乱れが起こり、王権が揺らぐ。だから王は聖卵の回収と解呪を民に課し、民は豊かな生活のため腕を磨いて回収に精を出す。

 これは人の王たちが神の代理たる資格を示し続けるための、世界の仕組み(システム)だ。


 それに対して魔王は神と王、そしてシステムに抗う者だ。理性を持たず、さらなる恐怖を求めるように聖卵と周囲を破壊するという。

 冒険者の間では恐怖を摂取することを卵の生食(・・)などと呼び、誰それはそれで飛躍的に身体能力が向上しただの、魔王化して行方をくらませただのと噂になる。

 オレは魔王なんて見たことないし、聖卵を割ってみようとも思わない。重罪だし。


 レイジは最近の世の乱れを魔王の破壊活動によるものと考えているようだ。だから魔王から人々を救うために、


「もっと早く、もっと多くの遺跡を攻略して名声(・・)を高めるんだ……そうでなくては、勇者として国王陛下(・・・・)に示しが付かない! 陛下は確固たる成果をお待ちだ。今の僕では謁見(・・)も許されない……!」


 …………。

 うん、オレの目は節穴かな?

 こいつに目を血走らせるほどの野心があったとは……もう両眼をくりぬいて全裸で土下座して帰りたい(赤面)。

 さてはこいつ、ニセ勇者か(白目)!?


()が……僕を待っているんだ。一日も早く陛下に謁見して結婚(・・)の許しを――」

「「「えぇぇっ!?」」」


 お前も痴話かぁぁぁいっ!!!

 どうりで最近付き合い悪いと思ったよっ!

 レイジ以外の奴らと初めて声が揃っちまったよっ! ちょっと嬉しいよ!


「――だからタイチ。僕らは君をパーティーから除名する」


 オレはお前が姫と結婚したいからパーティーをクビになるのか!?

 寿退職かよっ! オレがっ!

 他の奴らは知ってた? 知らないって顔してるね。ラウは灰になっちゃったね。

 

 でもまぁ、オレたち村でハナタレてたガキじゃないもんなぁ。親友の結婚が決まったんなら祝ってやらなきゃな。機会があれば一杯奢ってやろう……これでお別れになるとしても。

 

 腹は決まった。

 最後にこれだけは聞いておこう。祝ってやるのはその後だ。


「レイジ、鍵開けはどうすんだ」

「必要ないさ。僕には過去の勇者が残した遺跡の攻略記録を読む権限がある。そこに勇者が鍵を探し回ったなんて記述はないんだ!

 ギルドの記録ならルートや鍵のありかは、書かれていて当然だ。それがないということは、過去の勇者は鍵を探す必要がなかった、違うか?

 僕らは主神に導かれているんだ、ゆくべき道は必ず開かれる。今まで君が盗人のごとく解錠してしまうから、気付かなかったけどね。僕は本来特別な存在なんだ! 君はずっと不要なことをしていたばかりか、僕の邪魔をしていたんだよ!

 さ、わかったら早く消えてくれないか。今日は火力の高い優秀なメンバーを募集し、て未踏遺跡に挑む。これ以上、邪魔をしないでくれ」


「うん、まぁ結婚おめでとう?」


 ……過去の勇者パーティーにも盗賊がいただけだと思うけども。


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