儀式その1
本当に古いタイプの小説です。
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コストーの都プリアモスは荘厳なムードに包まれていた。今日、リーア旬アルシア月、火の週の三日。ここ千五百年来行われることのなかった儀式が催されることになっているからだ。
二十歳の無名の青年が、コストーの魔法階級の最上位である、実に千五百年来、だれ一人として許されることのなか
った魔道師の階級を授位する試験に通ったのである。ラティヌール王宮魔道師学院の教授団そして院長は、この忘れ去られた儀式を再現すべく、七日の間宝書殿に閉じ籠り式第をみつけだした。かくしてこの儀式は蘇ったのだ。
あと数ディアスで神の恵みであるジャスターの昇る頃、ラケシアス宮殿の北東にある精霊の木々に囲まれた聖なる泉で、その荘厳な儀式は人知れず始まっていた。
人というよりは余りにも神々のそれに近い、美しく整い過ぎたために冷たい人を寄せ付けない空気を醸し出す顔、冷たく光る月の雫で造られたかの青銀の髪の青年が、純白の絹から成るローブを身にまとい静かにその聖なる水に体を沈めていく――――その姿は、まるで神話の一駒のような完璧な美しさを呈していた。小雪がその清らかな水にとけこむ………身も凍るような冷たさである。聖なる泉はその魔力によって決して凍ることがないという……
しかし純度が高いためその水は他のそれよりも温度は低くなっているのだ。
彼は絹のように白くきめこまやかな手で水を掬い静かに肩や髪にかける。青銀の髪は月の光と水とを得てますますあやしげな艶を帯びていた。
このうえなく優雅にほとりに上るとローブを解き、布で体を清め、髪を梳いた。青年は無造作に質素だが品のいい絹のローブに純白のトーガを体に巻き付け、素晴らしい緩やかに波打つ銀の髪をローブからかきだした。すべての儀式が極めて優雅に澱みなく進んでいた。青白い光を放つ月―――リーアが地の向うに消えるのにあと数ディアだった。
月はゆっくりと歩をすすめていく………。ラティヌール王宮学院には貴族の約八割があつまっていた。コストーではすべての貴族男子は魔法を学ぶことを義務ずけられ、十八ある魔法階級にそれぞれ位置ずけられていた。そしてその中で最上の階級の者がコストーの国王になるのだ。満場の者が純白のトーガに自分の階級を表す色―――魔法使いと呼ばれるトーラ・ディーラ・ミセーラは、黄・赤・紅、下級魔術士と呼ばれるテイオ・ラティオ・ナカオ・ダイオは、緑・青・茶・茜、上級魔術士と呼ばれるテイス・ラトス・ミラスは、黒・水色・桃色、下級魔術師と呼ばれるラポア・リテア・ヴァティアは、葦草・蘇芳・香、上級魔術師と呼ばれるミティリアス・ラテュリアス・リテジバルは、鈍色・縹・二藍、魔道士と呼ばれるルシリティーは、薄色、そして聖魔道師と呼ばれるアメジストは、紫とそれぞれ決まっているを織り混ぜた布に、ぞれそれにみあった宝石を縫い付けた物を身に付けて
いた。
祭殿には灯は無く、ただ窓から仄かにもれる月明りで青白く照らされていた。
人々はこの荘厳なムードに声を立てるのも憚ってか、ひそひそと話してはすぐに口をつぐんでしまう。アメジストといえば古き伝説の神々にも連なる最も高貴で神聖な……神に準ずる存在。まさか自分の生の内でアメジストの誕生に立ち会うことになるとは、人々は考えたこともなかったのだった。もっとも、もし日の出までに祭殿の中央にそえられた紫水晶・アメジストに明りを灯せなければ、一つ下の階級・魔道士・ルシリティーに下げられてしまうのだが。
――本当にアメジストが誕生するのだろうか。
――アメジストの階級といえば、神に選ばれし健国王アルファドロス一世と同じほどの力。もっとも神に近い存在とされている。
――アメジスト、アメジストといったところで、二代目アメジストはさほどの偉業を成し遂げた訳ではない。今度のアメジストはわずか二十歳………。
――どちらにしてもあと二ディアスしかない。二代目アメジストは四ディアスかかったというではないか。
――怖じ気付いたのではないか。こんな大舞台で失敗すれば……………。
――確かにわざわざ魔道師アメジストになる必要もなく、国王になれるのだしな。
――この青年の下は、現国王グラティヌス陛下のご子息ディリニス様で、下級魔術師・リテア・の階級。六つも階級が下になるんだからな。わざわざこんな風に刺激しなくても………
―まあ、学院側としても、グラティヌスには多くの人を殺されていますからなあ。このように公にしてしまうことで、グラティヌスの暗殺から彼の身を守ろうという配慮化も知れませんな。
――グラティヌス陛下も、ディリニス様が国王になると油断しておられたのだろう………それがまさかアメジストとは!
――しかしまあ因果なことだ。陛下はヴァティア、その男より五つも下の階級だなんてな……ご自分も前帝より上の階級といっても、たった一つだったがそれでさんざん嘲っただけでなく、ついに暗殺してしまったとの噂
――しい!声が高いぞ。おまえもあのガルジアの塔に送られて、なぶり殺しにされるぞ!それにしても……
人々の小さな囁き声えは、ただ一つの音ー扉の開かれる音によって急に途絶え水をうったように静まり返った。
息をのみ何千もの人が、一人のまるで神の申し子の様な美しい青年を見つめる。その眩い光を放つ月の様に光り輝き艶やかに波打つ青銀の髪、整い過ぎたために女性的といえるほど美しく、そしてどこか冷たく寂しげで人を寄せ付ない様な雰囲気を持つ神々しい顔、抜けるように白い肌、妖しいほど深く、憂いを帯びた紫に輝く瞳、鼻梁は細く高く、口はきゅっと引き締まり厳しい雰囲気を与えているが………紅を引いたように艶やかに赤い、これが他の冷たく暗いイメージを一層して明るく艶やかな感じを与ている青年。なんの位も現さない純白のローブとトーガに覆われているが、明らかに線の細い華奢だがひきしまった体が見て取れた。
青年は人々のくい入る様な視線に全く注意を払わず、無感動に祭壇に歩み寄り、国王と院長に軽い会釈を送るとすぐに巨大な紫水晶―――アメジストに向かい合った。そして優美に両足を着いて跪き両手を胸の前で重ねる、魔道師としての最高礼をする……小さなどよめきが起こるがすぐにまた水をうったように静まり返る。
一点の乱れもなく立ち上がると、そのまま呪文を唱え始める。まだ若々しい張りのある澄んだ声がトール祭殿に響き渡る。けっして大声ではないがよく通るリュートのような声だった。彼は静かに呪文を続け次々と印をきる。その紫の瞳は暗く輝き、妖しげな陶酔が彼をおそう。
彼の口から最後の言葉が洩れると、軽い地響きと供にアメジストから眩い光が放たれた。トール祭殿には、めくるめく紫の光が氾濫する。人々はあまりの光に目を覆っていた。ただ一人、紫の炎の様な瞳を持つ者以外は………。
その者は紫の支配する世界の中で、ただ一人何をみていたのであろうか。あまりにも魔性な紫の色の中で………。
祭殿中の光は次第にアメジストの中に吸収され、それは輝かしい光を帯び
た。アメジストに炎が灯された!まるで地上を照らすかのような眩い光がさん然と輝く!と丁度その瞬間、ジャスターの光の一角が地の果ての闇を打ち払い、閃光のようにきらめく。
人々はあまりの劇的な展開に感動して立ち上がり我を忘れて、口々にアメジスト!聖魔道師アメジストを祝福する声が上げる。学院の鐘が鳴り響く。
第三代聖魔道師アメジストの誕生を祝って!
人々の上げる叫び声は凄まじい音となり、祭殿中を沸き立たせた。この騒ぎは永遠にやむ事がないように思えたが、青年が手を挙げて制すとぴたっと静まり返る。何時の間にか、祭殿にあがっていた学院長は跪いている青年の前に立つと、紫に光る宝剣を掲げて厳かにこの儀式の終りを告げる………
「今ここに、第三代魔道師アメジストの称号を、ジバル・ファールハイト・コンテ・マドリニアに授位するものとし、ここに宝剣と宝衣とアメジストの環を授ける。アメジストの光は、世に喜びと平和をもたらすであろう」
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