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快晴で雲一つない青空の中、私は今騎士になるための一般公募の受付場所へと来た。ヴァルクにはここ数日かなりお世話になり久々に鍛錬を行うこともできた。この試験を受けるにあたり叔母が服を用意してくれたのだが、明らかに貴族の子供ですという感じの雰囲気が出ていた為もう少し出番は後になるだろう。そこらの平民と変わらない格好ではあるが、見た目の小ささや女性である雰囲気は消せないようで周りの同じ受験者からの目線はたえない様子だ。
「試験の受付はこちらです。名前の記入をお願いします」
「はい」
受付には軽装の若い騎士がおり、書類にサインをするよう促された。今日受験をするのだろう名前がずらっと並んでいる。一番下へと”ローズマリア”とサインし、騎士へと返す。
「それでは向こう側の扉に入って呼ばれるまで待っていて下さい。あなたの合格を願っておりますよ」
「ありがとうございます」
そう言って騎士は「次の人どうぞ!」と私の後ろに立つ人間を読んでいった。私は案内された扉を開くと、広い空間がありそこには結構な人数が集まっていた。それもほとんど、いや全て男性で占めており、私の何倍も体格差がある人間も多数いた。平民がほとんどのようで、中には傭兵をしていたのだろう恰幅のいいものもいた。貴族らしい身なりがきちっとされている者も少なからずいるようだったが私と同じ女性は一切いない。貴族のご令嬢にしてはかなり身長が高いと自負していたがやはり男性と並ぶと見劣りしてしまうのはいがめない。少なからず自分の体格にため息をついてしまう。
今一度身を引き締めなおし部屋の奥へと進む。沢山の視線を感じつつも人があまりいない壁際の空間に身を寄せるのだった。
「よう姉ちゃん。こんな所になんのようだい」
視線だけその男に向ける。そいつは大柄な体格で人相も悪い、腕には防御痕があるようで戦闘などの経験があるようだ。見る限り傭兵上がりの可能性が高い。その様に頭の中で算段していると、私の様子にどこか癪に障るところがあったようで先ほどよりも声に圧がかかる。
「おい聞いているだぜ?何とか言ったらどうた」
「”なんとか”」
私の発言に驚いたのだろう、男だけでなく周りの人間も目を丸くしこちらを見ていた。男が言ったのだ、「なんとか」と言えと。それに従うわけではないがこの面倒な会話を終わらせたく適当に口から出てしまったのだ。
言い返された本人は未だに理解が追い付いておらず口をあけっぱなしで呆けているが、周りの数人がクスッと笑ったのを察しようやく理解できたようだ。女の私に馬鹿にされたことを。
「てめぇ!!」
「はいはい、そこまでにしておいた方がいいんじゃない?」
「なんだてめぇは!邪魔すんじゃねえ!」
言い争いになりそうな瞬間、いつの間にか近づいていた青髪の若い男性が私の近くまで来て間に入ってきた。
「これから試験だっていうのにそんなにカッカしてたらさ、無駄な体力使っちゃうでしょ?それに騎士が見てないからって争いを起こしていいというわけでもない。私闘はご法度、それに試験中に何かおきれば失格になるかもしれないしね」
「うっ、そりゃそうだが」
若い男のいう言葉はごもっともである。そんな常識的なことさえわからない人間と同列にされるなんて勘弁してほしい。
「まぁうら若い女性が試験を受けるのもちょっと気になるけどね。そこは試験を受け終わってからでもいいでしょ」
ほらほら散った散った!と手を振り周りの野次馬まで少し遠ざけた手腕はなかなかのものだなと少しだけ関心していると、若い男は私の方へと振り返り口を開いた。
「あぁは言ったけど、女性でここの試験を受けるなんて勇気あるね!なんで受けようと思ったの?」
親切心ではなかった。こいつは興味本位で私への悪意を遠ざけたに過ぎなかったのだろう。目が全然笑っていない。
「騎士になりたい、その一つにつきます」
そう、どんな理由を重ねてもその言葉一つにつきるのだ。婚約破棄の自暴自棄、家から出て行き場のない自分、女として見れないというマイオスの発言。それ全てをひっくるめても自分の”夢”として騎士になるというのがあったのだ。
「ふーん、そうなんだ。案外平凡な夢なんだね」
「はぁ?」
軽い挑発なのだろう、声の抑揚に馬鹿にするような雰囲気が乗っており反応してしまう。バカにするのはいいが私もそこまで気が長い方ではない。そう睨みあっていると丁度良く扉から騎士が入ってきて「試験を始める」と言われた。視線が外れたことにより自然と動くことができ、若い男がこちらに声をかけているようだったが丸っきり無視を決め込んだ。
「それではまず身体検査と魔力検査をはじめます」
何か所か騎士団員がいるようでそこに並んで順々に検査をしていくようだった。様々な経歴の者が試験を受けるからだろう。これまでの戦歴や傷の有無、訓練なども一通り聞いているようだった。そして魔力検査も同時に行っているらしく測定器を操作している。受験者側には魔力の情報に関して全く見えないような仕組みになっているようで、測定が終了すると騎士たちの手元にあるメモにすぐさま書かれ隠されていた。
そして順番が回り私の番となり小さな椅子へと掛ける。私の担当は眼鏡をかけた少し偏屈そうな男である。身体面というより頭が相当切れそうな印象だ。
「名前と出身を」
「ローズマリア、出身は西のグリーン領です」
「グリーン伯爵領か。これまでの経歴は」
「実践の戦闘経験はありません。訓練のみ行っていました」
「訓練ね・・・」
何個か質問しつつ騎士は手元の書類に記入をしていく。
「では魔力の測定を行う。測定器の上に手をかざしなさい」
「はい」
そうして測定器の上に手をかざすと、体を何かが探っている気配を感じつつそれが収まるのを待つ。少しした後、騎士の方を見やると測定器のほうを凝視しそれから私の方を見やった。
「君は・・・これをわかっていて受験するのかね」
意外な反応だった。今までの人生でスクルートと分かった人間は一貫していい表情をしなかった。それなのに初対面のこの騎士は私のことを気遣ってくれた発言をしたのだ。
「えぇ、覚悟の上で来ております」
「・・・・・・わかりました。すべての測定は終了しました。次の試験まで待っていなさい」
「はい」