幕間 1
ローズマリアが部屋から出た後、隣にいる自分の妻に顔を向ける。
「ミシェル、そう泣くんでない。マリア君が罪悪感で死にそうな顔をしていたよ」
「だって、だって~~」
またしてもうわぁ~んと泣き出してしまった妻を抱き寄せる。
「いきなり髪を切っちゃうなんて~~~」
「思い切りがいいよね本当に・・・・・・」
「あんなに綺麗な髪を!!女の宝なのに!!」
「息子も驚きすぎて倒れちゃったしね」
よしよし、とあやしながら別室でいまだに意識を戻していないヴァルクも相当ローズマリアの考えに驚いたのだろう。もちろん私も本当は気絶したいほど驚いている。驚いているというより、これからのことを考えると頭が痛くなる思いだった。
落ち込むミシェルを侍女に任し、持ってきてもらった紅茶を楽しんでいると温かかった紅茶が急速に冷たくなり強い魔力を感じ口元からすぐに離す。すると紅茶の中から自分が揺らしたわけでなく、何かが揺れ動いているように視認できる。それはコーグが知りうる人物の召喚獣であった。
「紅茶に美しい君の尾びれを見れるなんて僕は幸せですね」
美しい小さな魚は尾びれを青く光らせまるでドレスのようにその液体の中を優雅に泳いでいる。そしてそれは少し怒った様子で水面を跳ねるのだった。
『御託はいい。ワタシが来たことはわかっているだろう』
「まぁ・・・・・わかっておりますよ」
『なぜ止めなかった、主人はそうとう感情を高ぶらせている』
「そう言われましても。最善は尽くしているつもりでしだが」
コーグがそう言うとティーカップからに水しぶきが飛ぶ。
『口を慎め、主人に貴様のその反抗的な発言を言ってもいいのだぞ』
「それは困りましたね。でも、貴方様がこうやって密かに私に会いに来たという事は何かしら思うことがあったのでしょう」
カップには小さな波紋が広がるだけで、こちらに言葉をかけられることはない。その事に少しだけ笑ってしまうのは“あちら側”で想像を絶する混乱になっているのは想像できる。
『貴様の息子共は中央にいるのだろう。それに鼠の貴様には得意分野だろうから楽しみにしている』
「また唐突に。えぇ鼠はもう張り巡らせましたのでご安心を」
『・・・姑息なところは昔からだな』
「はてなんのことでしょうか」
『まぁよい、よりよい報告を待っているぞ』
「えぇ」
そうして水面を高く飛んでカップの中に戻ると波紋だけが広がり、紅茶の中に美しい魚影は見られなかった。その波紋が緩やかにおさまっていくのを見ているとコーグの肩に自分の召喚獣が乗ってきた。
チチッ
召喚獣の鼻先を指でくすぐると嬉しい層に体をこすりつけてくる。
「さて、どうしたものかなぁ」