ランタとデシコ
ズドドドドドドッ!!
地面を蹴散らし砂埃を舞わせ、大きな物体が移動する。
行く手を阻む植物を軒並みなぎ倒し、一つの目標に突撃する。
カイルとアーネが自己紹介をしあっていると、バロンが凄い勢いで鳴き始めた。
視線の先には激しい砂埃
そしてだんだん音もデカくなってきて、その輪郭をとらえられるような距離になった。
それを見た瞬間、カイルが悲鳴を上げる。
「マイスリア・ボア!?」
「ダメだ!逃げなきゃ!あんなのに突撃されたら死んじゃうよ!ねぇ~バロン何とかしてー!」
カイルの懇願もむなしく、小さな子犬は小さい身体を生かして、朽ちた木の幹の中に身を隠した。
幹の中でバロンが手を合わせる。
君はいいご主人様だったよありがとう
少なくともカイルにはそう言っているように見えた。
「バロン~!」
「どどどど、どうしよ。アーネ~!僕たちつぶされちゃうよ!」
「だだだだ、大丈夫。カイルにはさっき助けてもらった。俺が守る」
抱き着いてくるカイルが安心するように言葉をかけ、短剣を構えた。
マイスリア・ボアとの距離はどんどんなくなっていく、
果たしてこんな短剣であの魔物を倒すことはできるのか?
勢いに負けてふっ飛ばされる未来しか見えない。
考える暇なんてないほど、ボアは接近し、あわや、ぶつかる一メートル前まで近づいていた。
「ブキィイイイイイ!?」
結果的に言うと、僕たち二人が吹っ飛ぶことはなかった。
マイスリア・ボアの横っ腹に槍が突き刺さり、バランスを崩したボアが僕たちの横にあった木に激突したのだ。
二人で顔を見合わせて、呆けていると
向こうの林から背の高い青年が降りてきた。
「カイル!怪我はないかっ!」
青年がカイルの顔や体を触りながら、けがの有無を確認する。
一通り見て怪我がないのを確認すると、青年はキッとカイルの方を見た。
「まったく!何度言ったらわかるんだっ!あれだけ村の外には我々の護衛なしにでてはならないと言ったじゃないかっ!」
「さっきだって俺が来なきゃ、死んでたぞっ、確実にっ!ほんと何やってるん
だっ。お前がが死んだら俺は村長に合わせる顔がねぇんだからなっ!」
カイルの肩をブンブンと揺さぶる青年
「ランタ・・・僕は大丈夫だよ・・・それよりもこの子が・・・」
ランタと呼ばれた青年は大声でまくしたてながら、それでもなお、カイルの肩を掴み、ブンブン揺らす。
「うぅ、ラ、ランタぁそれよりも、その子・・・・アーネを・・・」
クルクル目を回した、カイルがドサッと崩れ落ち、カイルに指をさされたアーネの方向にランタは視線を移した。
「アーネ?誰だ?それは・・・」
ランタの視線がアーネと交わる。
「誰だ!てめぇっ!」
「うわっ!」
ランタのいきなりの大声にびっくりして声を上げてしまう。
髪は短く目つきはキリッと鋭い、
「誰なんだっ!おまえはっ!」
ランタが顔を近づけ、アーネに詰問する。
「えっ、えっと・・・」
誰と言われても・・・わからないと、答えるしかない。
俺がどぎまぎしているとランタの後ろの林からもう一人のかき人物が歩いてきた
「にいちゃんーまってぇー」
「デシコっ!遅いぞ。今まで何をやっていたんだ?」
デシコと呼ばれた背の低い少年は危なげながら林をかき分けランタに謝罪した。
「ごめんよ、にいちゃんを追いかけて走ってたら見失っちゃっててー」
頭の後ろをかきながら照れたように目を細める。
「それよりもにいちゃん、この人、怪我してるよ?」
デシコはアーネの身体を指さし、ランタに伝える。
ランタは傷を見るなり正面に向き直った
「君っどうして早く言わないんだっ!早く、私の背中に乗りたまえ」
そういって、背中を向けたランタは、ほら早くっ!とせかしてくる
俺はありがとう、と言って背中に身を預けた。
意外とやさしい人なのだろうか?
「カイル、今回はどうして村の外に出たんだ?言い訳にしか聞こえんが、一応聞こう」
「なんでもないよ・・・ただ森の木の子を取りに行っただけ、ほんとに何でもないんだから」
ランタの身体が、ぐらっと傾き、カイルに近づく。
「ほんとうか?」
「ほっほんとだよっ!」
「そうか、ならば・・・・デシコ。そこの草むらとか木の幹とか調べてみろ」
了解ーと伸びきった声でデシコが言うと、木の幹の方から子犬をひっつかんできた。
「バロン!」
「やだよ、はなせよデシコ!バロンにひどいことするなぁ!」
デシコをポカポカ叩きながら、必死になってバロンを助けようとするカイル。
それを子犬を持っている手を上げてデシコは悲しそうな顔をした。
それを見てランタがたしなめる。
「そうはいってもなカイル、その犬と一緒に居られると、村長の体調が悪くなるんだ。お前も見ただろう?村長の具合が悪くなって、手がものすごい勢いで赤くなったんだぞ?どう考えてもその犬が原因だし、この村では飼えないよ。もうすぐ来る商人にでも、もらってもらおう」
鋭い顔つきのランタは目を伏せ、諭すようにカイルの手を引いた。
「離れるなんて嫌だ!絶対一緒にいるー!バロンは頭がいいから大丈夫だってー!」
駄々をこねるカイルを引きずりながら、4人は村の方に向かった。
森を抜けると大きな段々畑が広がっており、そこに2、3人の村人らしき人たちが、農作物を育てていた。
畑の中に作られたあぜ道を、4人で進む。
「デシコ。その子犬を村の端にある、イカリの家にその子犬を繋いできてくれないか?あと村長にそこには近づかないように、言っておいてくれ」
「わかったー」
「あと、カイルもつれて行ってやってくれ、いきなりわかれさせるのはかわいそうだからな」
「君の名前を間だ聞いていなかったね。何て名前なんだい?」
顔をこちらに向けながら、ランタが聞く、
「アーネ・・・と言います。」
「そうか、アーネ、これから村に薬に詳しいやつの所に案内する。そこでお前の身体を診てもらおう。体が痛いとか、ないか?」
「大丈夫・・・です」
「よし、じゃあ後で話も聞くからそのつもりでいてくれ」
「はい」
ランタが話し終えると、村の入り口まで来ていた。
あ竹の先には人が通れるくらい簡素な門があり、その門をくぐると小さな家が点々と並んでいた。
「ここが俺たちの村、サーハ村だ。」
ユピテルがその後どうなったのかは、次回明らかにします。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
よろしければ次回もお付き合いください