カイルとの出会い
走り抜ける小さな足音
地面を蹴り、足を延ばしてはまた蹴る
畑の中にあるちいさな小道を一人の少年が駆けていく。
畑の中で作業していた女性が、畑の中から立ち上がる少年に声をかけた。
「カイルちゃんー?あんまり遠くに行っちゃだめよー」
少年が振り向き、走りながら答える
「わかってるよ、アマリさんー。夕飯までには帰るからー、クスハ姉ちゃんにも言っといてー」
そう言って森の奥へ入っていく少年
「ほんとに大丈夫かしら?この辺りは魔物も少ないけど・・・ランタ達に知らせた方がいいかしらね?」
少年の後姿を見送りながら、畑作業を再開するアマリ。
すると土の中から小さな球がコロコロと転がった。
「あら?何かしらコレ?まぁーすっごく綺麗ねっー」
アマリは太陽にその球をかざしてみる。
赤い球は光を浴びて、鮮やかに煌めいた。
「またコレクションが増えたわっ!早速家に飾らなくっちゃ」
アマリは畑から出ると、鼻歌を歌いながら村の方に歩いて行った。
カイルと呼ばれた少年は、どんどん森の中へ入っていく。
足元には短い芝生が生えており、踏みしめるたびにサクッ、サクッと小気味よい音を奏でる。
落ちている小枝を踏みつけ、カイルは速度を上げていった。
群生する背の高い木の間をすり抜け、藪を抜けていく。
するとカイルは立ち止まり、周囲を見回した。
カイルが森の中で、立ち止まっていると、
向こうの藪が激しく蠢く、
藪の中に何かがいるのは間違いなかった。
何かはカイルの姿をとらえると、素早い速度で接近し始める。
低い木や高い草が生えている場所を縫って、何かが接近する。
「っーーーー!?」
カイルが気づいたときには手遅れだった。
何かがカイルに飛び掛かる。
「ははっ、やめてよ、バロン。くすぐったい・・・くすぐったいってばー」
カイルに飛びついた白い子犬は、カイルの顔を舐めまわした。
「あははっやめろってば、あはははっ、こーらっ怒るよ?」
白い子犬を抱き上げ、顔から離す。
「もーっバロンってばまた、ここで僕を待ち伏せしてたね?ほんっと君って悪戯好きな子犬なんだから」
バロンの頭をなでながら笑いながら言うと、
バロンと呼ばれた子犬は、ワンッとひと鳴きしてから笑って舌を出した。
「そうそう、今日は何をしようか?かけっこ?それとも、かくれんぼ?どれももうやったしなーどうしようか?・・・ん?どうしたのバロン?」
バロンはカイルの言葉に反応しながらも、向こうの林が気になるようで、
その方向から目を話さない。
「どうしたっていうんだよ・・・」
バロンは黙って歩き出し、ついてくるようカイルに促した。
バロンは鼻を引きつかせながら森の奥へと入っていく。
立ち止まった時には、バロンは小さな藪の中を前足で指していた。
「その中から覗けってことか?」
小さな体を地面につけ、バロンと同じ視線になって藪の中を覗いてみた。
「なんだ?あれ・・・子供?僕とおんなじくらいかな?なんであんなところに・・・」
覗いてみると林の向こうに小さな子供が短剣を抜いて立っていた。
「っ・・・ゴブリン!?」
目を凝らしてよく見ると、その奥にゴブリンが3体、武器の棍棒を持って立っている。
「危ないっ・・・!」
立ち上がって助けに向かおうとするも、服の袖を引っ張るものがいた。
バロンがカイルの服の袖を引っ張る。
主人が危険にならないよう、必死で止めているようだ。
「バロンっ離してくれっいま行かなきゃあの子が危ないんだ!」
バロンの口を丁寧に離させ、カイルは少年の方へと走っていく。
林の奥では、ゴブリンが棍棒を振り上げ、少年を攻撃していた。
棍棒は少年の身体をとらえ、少年の身体に直撃する。
少年は低い声を漏らして、膝をついた。
「ギギッギギッ」
まわりのゴブリンたちがはやし立てる、どうやら、相手が格下だと認識し、一対一でいたぶるのを楽しんでいるようだ。
二度目の攻撃が振りかぶられる、相手をなぶることに夢中のゴブリンは走ってくる少年に気づかない。
「やめろおおおお!!」
少年の拳はゴブリンの顔面をとらえ、ゴブリンの体制を崩した。
いきなりの痛みと衝撃に、信じられないといった声を上げるゴブリン、そのまま、仲間を置いて、逃げて行ってしまった。
「ギャウ、ギャウ、ギギッギ」
残った二匹が顔を見合わせる。
どうするか、相談しているようだ。
膝をつく少年に手を貸してあげる。
「大丈夫かい?まずはここから逃げないと・・・」
ゴブリンたちは、合点がいったように、同時に頷くと武器を取って、二人の前に立ちはだかった。
どうやら戦うことに決めたようだ。
すると、突然、林の中から、小さな白い塊が、飛び出した。
白い塊はゴブリンの手首に噛み付くと、思いっきり歯を立てる。
「ギイイィ!?」
ゴブリンがあまりの痛さに声を上げる。
バロンは手首から手をはなすと、シュタッと地面に四本の足をつけた。
グルルルルッ
バロンが威嚇する。
小さな子犬に恐れをなしたのか、手首を噛まれた一匹は林の奥に消えてしまった。
もう一匹も続くように林の奥に入っていく。
「バロンっー。かっこよかったぞーありがとなー」
カイルがバロンの身体をワシワシとなでる。
誇らしげにワンッと鳴いて、カイルの頬をペロっと舐めた。
「ねぇ、さっきは危なかったね!君はどこから来たの?その服はここら辺の人じゃないみたいだけど・・・」
カイルは少年の着ている、白い布の服を見て、その服に赤い血がついているのを見つけた。
「そんなにけがをしてるじゃないか!早く僕の村まで行かないと!」
カイルが手を出すと少年もおずおずと手を出した。
「僕はカイル、君の名前は?」
「僕の名前は・・・アーネ」
「アーネっていうのかーよろしくね?」
屈託のない笑みを浮かべ、アーネの手を取る。
手を取る二人の少年に、けたたましい蹄の音が近づいていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回は村に入ります。