ユピテル
全てを破壊しつくす破滅の神。
彼は神のいなくなった世界で突如として現れ、世界を絶望の淵へと突き落とした。
彼が降臨した場所には地面すら残らず、代わりに黒く沈んだ淀みだけが残った。
近くの村も、国も、人もすべてが滅ぼされた。
人間たちもかつての暮らしを取り戻そうと、決死の覚悟で討伐に向かったが、敵に向かって飛び込む者から消滅させられた。
希望なんてなかった。
人間たちはかつて愛していたはずの神ですら、この場にいないことをののしり罵倒した。
恐怖と混乱だけが世界を回していた。
神を殺すことができるのは、同じ神かそれに近しいものでなくてはならない。
世界を救う勇者はまだ、現れない。
ゆっくりと近づき、モネの背中に短剣を突き刺した。
モネは短剣が深く突き刺さる前に体を翻し、刺された方向に向き直った。
「・・・っ何をするの・・・・アーネ」
先ほどの彼女とは打って変わり、ゴブリンたちと戦っていた時のような表情に変わる。
「あぁなるほど、この小僧はアーネというのか、安心せい。貴様を壊そうとしたのはこやつではない。我が名はユピテル。世界を壊しに来た破壊の神だ。」
不敵な笑みを浮かべるユピテルは、手の平を見せながら名乗って見せた。
「ユピテル・・・知らないわね。そんな神、聞いたこともない。」
肩を押さえながら、剣を抜き放つ。
彼女の顔には怒りの感情が浮き出ていた。
「フフッ、クククッ、ワハハハッ、ハッハッ」
不意に、不敵に笑って見せる。
「知らぬか、知らぬと申すか・・・百年前、貴様ら二人の手によって、天界へと送還され、地獄の責め苦を負ったというに、その間一度たりとも貴様らへの恨みを忘れたことはなかったというに・・・」
「あなた、まさか・・・天界から戻ってきたというの!?」
モネの顔が焦燥に歪む、ユピテルが何者か、気づいたようだ。
「いかにも。私は戻ってきた、奇しくも、貴様に最も近しい男の手によって・・・な」
ユピテルがそう打ち明けるとモネはうつむき、小さく零した。
「・・・シェムハザ」
「ふふ、わかっているではないか。そう、貴様の父親は我を助けるために己の魔法を使った」
「魂操作・・・奴の魔力は、肉体に宿る魂を操作する。その力を使って、貴様の弟アーネの身体を乗っ取っている」
「我を打ち倒した忌々しいこの身体だが、今の我はこやつなしには、存在できない」
不便な体になったものだと、ユピテルはぼやいた。
モネは何も答えず、ただ地面を見つめていた。
「それにしても、100年ぶりの再会であるのに、変わらぬな、貴様ら二人は」
「腐っても神の子というわけか・・・シェムハザもずいぶんと惨い事をする。自らの息子に、息子を殺した張本人の魂を入れるとはな・・・」
「モネ、貴様が忘れているのならば、いまいちど聞かせてやろうアーネがどうやって死んだのかを。
百年前、我は世界を破壊するため舞い降りた。近くの国はすべて滅ぼし、一人残らず人間は殺した。世界中の人間どもは向かってくる者たちから順に殺していった。だがこの世に一人だけ、我に対抗することができる人間がいた。
神を殺すことができるのは、同じ神かそれに近しいものでなくてはならなぬ
それが貴様ら二人だ。神と人間から生まれた二人は協力し、我を天界に還した。
だが、我もただでは滅びん、最後の瞬間私がアーネに反撃を喰らわせた。
息を引き取るのを見たわけではないが、先ほどのお前の話だと、100年もの間、ずっと眠っていたようだな?」
「ア・・・は・・・れろ」
「ん?、今なんと?はっきり言わないと分からないぞ?・・・ねーちゃ?」
「アーネからっ!!離れろおおおおおぉぉぉ!!!!」
モネが突貫する、鋭く光る剣を両手で持ち、袈裟に切り込む。
モネの放った剣撃は一撃のもとに、ユピテルもろともアーネの身体を切り刻んだ
切り刻む・・・はずだった。
モネの剣はユピテルの・・・アーネの眼前で止まっていた。
「どうした?早く弟の身体を切り刻んで、私の魂を消滅させなければ、再び私は世界を破壊するぞ?」
「・・・っくぅ・・・」
ユピテルが挑発するがモネは動かない。
ユピテルはにんまりと唇をゆがませた。
「やはり貴様も人の子というわけだ、それにしてもさっきの表情はよかったぞ?100年前に戻ったようだ。」
「せいッ」
ユピテルの放った足蹴りによって、モネは崩れ落ち、地に伏せる。
「何が、アーネから離れろぉ、だ。絶対に離すものか、この体は我のものだ」
ユピテルがアーネの身体を踏みつぶし、足蹴にする。
「終わりだ」
モネの身体に向かって短剣を突き刺す。今度は体ではなく、頭に向かって。
モネはポケットから、数個の球を取り出し、地面にばらまいた。
途端に球から煙が噴き出てくる。あっという間に辺りを覆ってしまった。
「くっ・・・。煙幕かっ!」
モネはユピテルの足を払いのけ、走り出す。
「我が、みすみす貴様を逃すと思うなぁ!!」
「【破滅魔法】死神の一撃!!!」
たちまちユピテルの短剣に漆黒の魔法陣が浮かび上がり、短剣を黒い炎が覆う。
グサッ
黒い短剣は、モネの身体に深々と突き刺さった。
「安心しろ、我が再び体を取り戻した時、弟も同じ場所に送ってやろう」
短剣が刺さると、傷口から体が塵のように砕けていき、最後には風に吹かれて、飛んでいってしまった。
「ふん、あやつも、食えない娘に成り下がったな、昔のお前ならば、我をごと弟を殺し、何も思わず、世界を救ってみせたというに」
「ん?あれはゴブリンの死体か?はて、モネが殺したのは二匹だったはずだが・・・」
視線の先には、すでにこと切れた、ゴブリンの死体が1匹横たわっている。
「ふっ、まさかな。・・・うっ・・・いかん・・・もう意識が保てな・・・い。・・・とりあえず今のところは、奴を殺しただけ、良しとする・・・か」
ユピテルはそのまま、広場に倒れ、眠ってしまった。
辺りも十分暗くなったころ、アーネはゆっくりと起き上がった。
「・・・モネ?」
答える者は誰もいなかった。
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