モネと散歩
彼女が嘘をついている?
心に浮かび上がる、もう一つの強いイメージ。
何故か否定することができない、モネという存在を許容できな自分がいる。
彼女の言葉は正しいのだろうか?
果たして、このまま彼女に質問して、真実が返ってくるのだろうか?
イメージのせいで疑心暗鬼になってしまっている。
考え込んでいると、前から視線を感じた。
モネはこちらを不思議そうに見つめている。
「スープ・・・おいしくなかったかな?」
「へっ?あ、いや・・・・おいしいです。」
問いかけられて我に返る。どうやらスープを食べる手を止めて、考え込んでいたようだ。
改めて、木の器に入ったスープを口に含む、
野菜を煮詰めてつくったスープで塩気のある風味が漂っている。
口に入れた瞬間に野菜の甘みとスープの塩気が舌を刺激する。
起きたばかりでお腹がすいていたのもあるが、
あまりのおいしさに声が漏れた。
「おいしい?よかったわ、最近は一人分の食事しか用意していなかったから。味が落ちているんじゃないかって心配だったのよ」
「家の裏に畑もあるのよ。この野菜もそこで育ているの」
「そうなのか、」
口数の少ない俺を心配してか、会話はモネが中心となった。
「洗面所は脱衣所の奥にあるわ、着替えも昔のものだけれどそれを着てみて?合わないようなら、私が縫ってあげるから」
「あ、そうそう、あなたが記憶を無くす前にもあった。大きな大木ね、まだ、あそこにあるのよ。昔はよく二人で遊びにいったっけ・・・」
「記憶が戻る手掛かりになるかもしれないから、あとで回りましょう」
食事を進めながら、モネの会話は続く、
こちらは相槌を打つだけなのに、どんどん話を振ってくる。
俺が心配しないように気丈にふるまっているのだろうか?
そう思うと胸の奥が苦しくなった。
朝の食事が終わり、食器を片付ける。木のボウルを重ねキッチンへと運ぶ。
「ありがとう」
モネに手渡すと、お礼を言って、流し台の方に食器を置いた。
「じゃあ、ちょっとこの辺りを散策に行きましょうか。」
「さっそく、準備をしないとね。」
と、モネはキッチンのあった部屋を出て、向かい側の扉を開けた。
そこには赤い模様の大きな絨毯が敷かれ、その上に背の低いテーブルとソファの置かれたリビングがあった。
「ここが、リビング。私はちょっとした休憩に使ってる」
そういって、リビングの隅に置かれている。棚を開ける。
「そうそう、最近ここら辺にも、魔物が住み着くようになってね」
「魔物が出るのか?」
「ええ、魔力の影響を受けた、小さい魔草や魔昆虫なら昔から、いたんだけど、最近はもろに魔力の影響を受けた。魔物もあわらわれてね」
「だから、必要最低限の用意はしておかないとね。っと」
モネが棚から取り出したのは、一本のアーミングソード
刃渡りは60ミリほどあるだろうか、モネはベルトに剣を装着した。
「あなたには・・・これね」
モネはもう一つの刃物を取り出した。
「以前あなたが使っていたものよ。あなたが持っていた方が、この剣のためになると思うわ」
モネは剣を手渡し、手を添えて、言い残した。
「大丈夫、あなたが抜くような事態にはならないわ」
「私が必ず、あなたを守るわ」
振り向いてモネが笑う。
こちらもつられて笑い返し、モネは満足そうにリビングを出た。
玄関の大きな扉を開け、外に出る。
まだ日は高く、太陽の光が、まぶしい。
玄関を出ると、辺りは木で囲まれ、家の前には広い空間が広がっていた。
新鮮な空気のが風に乗って、モネの髪を揺らす。
「さて、じゃあ行きましょうか」
モネが素早く俺の手を取る。
いきなりの行動に俺はなされるがまま後ろをついていった。
森を抜けると、そこには大きな巨木が鎮座していた。
幹はずっしり太く、自分の何十倍もの太さがある。
ほぼ全体が苔むしているが、幹の皺ひとつひとつから、生命力を感じた。
モネの方を見ると、目を瞑って、静かに上を見上げている。
「なぁ・・・モネ?」
「静かに・・・木の精霊は静寂が好きなの、静かに呼吸をしてみて、ほらこうやって」
モネの言う通り、目を瞑り心を落ち着かせてみる。
静かな静寂の中で、自分の心の鼓動だけが聞こえてきた。
十数分そうしていただろうか、目ねが目を開けて、声をかける。
「どう?落ち着いた?」
「あぁ、なんだか頭の中がすっきりしたような気がする」
「そう、よかったわ」
ふいに、彼女が俺の手を取った。
「なっ・・・」
突然のことに心拍数が上がる。
「よかった、震えも止まっているみたいだね」
「震え?」
「そうよ。あなた、私と話している途中、ずっと震えてた。まるで何かにおびえるかのように・・・記憶が無くなって、不安になる気持ちはわかるわ。何も信用できないのもわかる。けれど、私があなたのことを助けたいって気持ちは本当。」
「だから無理に信じろとは言わない。でも私と一緒に居るときは、あなたを安心させてあげたい、私はそう思ってる」
彼女の真摯な姿勢に、涙が出そうになった。
かろうじて、絞り出せたのは、一言だけだった。
「・・・ありがとう」
彼女は満足げに頷き、来た道を戻っていく。
彼女の後ろについていきながら、少しだけ袖を濡らした。
元の広場に戻る。
さっ、モネの顔が険しくなった。
「この気配は・・・」
モネが近くの木に隠れ、俺も続く、モネは終始、家の前の広場の方を見ていた。
広場の中央に陣取る複数の影、モネは剣に手をかけながら、左手で俺に静止を促す。
木の影から、広場の方をじっくりと見ると影の正体が鮮明に見えてきた。
身長は人間の子供くらいだが、異常に腹が出ている。
薄い布切れのような着物を着て、手には石の武器を持っている。
肌は薄緑色をしていて鼻は高い、血走ったような目をぎょろつかせ、まるで何かを探しているようだ。
「やっぱり出てきちゃったわね・・・魔物よ」
ここで、初回の投稿を止めます。
次回以降は明日から投稿します。
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