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世界はクロッカスを待ち望む  作者: カモミール
第一章サーハ村
3/26

モネという少女

部屋から出ると、小さな廊下に出た。


廊下を挟んだ正面と左奥に扉がみえる。


扉を開ける前に少女が階段を降りる音がしたのであえて調べる気はせずに通り過ぎ、右奥に見えた階段を降りた。


階段を降りるとすぐ横の壁から、カチャカチャと食器がぶつかり合う音が聞こえる。


「ここは彼女の家なのだろうか?それにしては一人で住むには狭すぎるような・・・」


階段を降りると、脱衣所のような、部屋の扉が開いていた。


覗いてみると、石造りの浴槽があって、風呂場だと分かる。


階段下の廊下を進んでいくと、奥に玄関と、両端の壁に扉がついていた。


カチャカチャと音がしているのは左の扉である。


扉を開き、音のなる部屋の中に入る。


入ってみると、腰の高さまでの大きなテーブルが置いてあり、周りには四人分の椅子が置かれていた。


テーブルには白いテーブルクロスがかかっており、中央には小鉢に入った花が置かれていた。


左奥にはキッチンがあり、その奥に桃色の髪を見つけることができた。


扉の開閉音で、少女がこちらに気づく、まだ先ほどの涙が残っているのか彼女の瞳は潤んだままだ。


彼女が食器を置きこちらに向き直る。


どうして泣き出したのか聞こうと口を開こうとすると、彼女は俺の方に向かってきた。


素早い動きで俺との間合いをつめた彼女は、両手を広げ・・・


俺の身体をやさしく包んだ。


「やっと会えた・・・よかった・・・本当に良かった・・・」


彼女は俺の頭を抱え小さく嗚咽を漏らす。


「あなたは、いったい誰なんですか?」


彼女のいきなりの抱擁に動揺したが、欺罔への好奇心の方が上回った。


「私はモネ、ずっとこの瞬間を待っていました。あなたが返ってくるのをずっと・・・」


モネと名乗った少女のの抱擁が解け、面と向かって顔を合わせる。


モネが笑いかけると、こらえきれなくなった羞恥心から、目線をそらした。


彼女の抱擁の手を解く、モネは少し寂しそうだったが、手を俺の身体から放した。


さっきの感触が頭に残る。柔らかな肌と吹き抜けるような風の香りにおかしくなりそうだった。


「顔が赤いままよ?大丈夫?」


「だっ大丈夫。大丈夫だからっ!ちょっと離れてくれないか・・・」


彼女の顔が直視できない、自分でも赤面しているのがわかるほど、火照っているのがわかる。


離れてと、言っているのに彼女はさらに距離を詰めてきた。


「照れなくてもいいのに、昔はよくやってあげたでしょう?あなたも抱きしめられるの好きだったじゃない。」


「昔はよくやってあげた・・・?」


反射的に言葉が出た。


「そうよ、あなたはこの家で生まれ、この家で育ったの」


「俺が・・・この家で育った・・・?」


俺が聞き返すとモネは、笑顔で頷いた。


部屋全体を見渡してみる、


ヒノキの香ばしい匂いと、部屋のいたるところに置かれた花の匂いがする。


かなり年季の入った家のようで、いたるところに傷の痕らしきものがある。


記憶の中で何かが繋がるのを感じた。


断片的で、一部ではあるがこの家での記憶がよみがえる。


大自然の中で走り回り、木の実や動物たちと遊んだ日々。


柔らかな新芽の感触が、素足に心地よく、吹き抜ける風とやさしい匂いに大きく深呼吸をする。


新しくできた木の小屋で、毎日泥だらけになって帰ってきた。


家の中には3人の影が見える。


しっかり者の姉と、穏やかな父。そしていつでも受け止めてくれるやさしい母姿だった。


穏やかな日常。それは誰もがうらやむような、()()の日常だ。


「俺は・・・」


言葉に詰まる。記憶が正しければ、彼女は・・・目の前に佇む少女は・・・


「ねぇーちゃ・・・」


「そうよ、私はあなたの・・・」


目の前の少女が手を広げる。


いつものように、繰り返すように彼女の胸に飛び込めばそれでいい。


いつも自分に安心感を与えてくれる抱擁。


自分がけがをして泣いたときも、うれしくて笑ったときも、そこに存在していた温もり。


でも・・・その温もりに甘えようとする自分をもう一歩のところで踏みとどまった。


歩みかけていた足を止め、目を伏せる。


「わからない、俺はまだ全部、思い出していない。会ってまもないあんたのこと、をすぐに信用できない。」


「・・・そう。・・・いいのよ。あなたはゆっくり思い出せばいい」


「私について・・・私たち家族について」


「少し、話が長くなったわね。朝ごはんにしましょうか?」


モネが少し姿勢を直して、そう提案する。


「そう・・・だな」


モネがキッチンの方へ歩いていく、


今の俺は不思議な感覚に困惑していた。


俺はなぜ、あそこでモネの胸に飛び込んでいかなかったのか。


自分が何者かもしれない状態で、謎の男に飛ばされ、自分の知る者が誰もいない世界で、一人ぼっちになった。


常人なら壊れてもおかしくない状況。


そんな中で自分の肉親かもしれない人間を見つけたのだ。


だが、俺はモネが明かした事実に向き合えないでいる。


ココロの中で違う感情が叫び声を上げている。


まるで違う誰かが自分のなかで叫んでいるようだ。


彼女に従ってはいけない。


彼女は嘘をついている。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

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