子ども部屋
辺りを見回すと、本棚や机などの家具が一通り並び、子ども部屋のような印象を受ける。
さらさらとした雪のようなシーツを広げ、床に足を付ける。
体に少し違和感を感じ、一瞬ふらついたが何とか立ち上がることができた。
木の板を重ねて作った床のようで、少し体を揺らすとぎしぎしと音がした。
目についた机に手を置き、少し滑らせてみる。
埃がついている感触はなく、掃除が行き届いているようだ。
窓を見ると二階のようで、背の高い木に小鳥たちがのり、枝を揺らしているのが見えた。
「ここは・・・誰かの部屋なのか?」
机の隣には小さな姿見がある。
目の前に立つとそこには、白く簡素な服を着た、小さな少年が立っていた
髪と瞳は黒く、子どもらしく腕が細い。
触ってみると、さらさらした柔らかい感触がした。
自分の外見にも少し違和感を覚える。
記憶がないためかはっきりしたことはわからないが、こんな見た目をしていた気もするし、違っていたような気もする。
「記憶を取り戻さないことには、何もわからないよな・・・」
さっきまでの決意が揺らぎそうになる。
少し伸びをして、顔をバシバシと叩きほぐした。
姿見を前にして無理やりにも笑顔を作る。
体も動く、自分はここで生きてる。大丈夫だ
姿見から視線を外し、あたりを見回すが、見慣れないものばかり
本棚には本がぎっしりと置かれており、どれも古い童話のようだ。
「記憶がないってこと考えると、俺の部屋って考えるのが自然なのか?」
ベットは部屋の隅に置かれており、その隣には、小さなクロステーブルが置いてある。
その上には可愛らしい小さなクマのぬいぐるみが置かれていた。
「意外と、可愛いものが好きだったのかもな」
クマのぬいぐるみを小さくなでると、小さな違和感に気づいた。
「なんでクマのぬいぐるみだってわかったんだ?」
俺は記憶を奪われている。本来ならばここにあるモノ全てわからないもののはずなのだ。
それどころか、今はクマに関して、一般的な知識も思い出すことができる。
だが自分の記憶となると、相変わらず靄がかかったままだ。
また、クマに関す一般的な知識を思い出しても、それをどこで知ったのか、誰から教わったのかは覚えていない。
もしかすると奪われたのは俺に関しての記憶だけなのだろうか?
奪った記憶を自分で探させるシェムハザの目的とはいったい・・・
「とにかくここから出ないと・・・ここがどこか知っている人がいるかもしれない」
いや待てよ、シェムハザに光に分解されて、目が覚めたのがここってことは、この家の人間もシェムハザの関係者の可能性があるんじゃないか?
シェムハザはゲームと言っていた。
もうすでにゲームは始まっているのではないだろうか。
そう思うと扉の奥から、いきなり誰かが飛び掛かってくる想像をして、いっそう心配になった。
すると、見計らってように急に扉が開き、外から自分と同じくらいの少女が現れた。
少女の瞳が自分の瞳と交差する。
吸い込まれるような金色の瞳に、腰まで伸びたうすい桃色の髪
瞳の奥が光るのを感じる、ずっと見つめたくなるような感覚に襲われ、見つめあっている瞬間だけでも時間が過ぎ去るのを忘れるほどの輝きを感じた。
彼女の瞳は潤いに満ちていた。あふれ出る湧き水からできる。美しい泉のように・・・
「っ・・・涙?」
少女は泣いていた。
顔をこすり、声にならないような声で、ぐずり始める。
しまいには大きな声で泣き始めてしまった。
「うっ・・うわぁ・・あわぁぁ!!ぐすっ・・・ああああぁ」
「おい!どうしっ・・・!」
少女に近寄ろうとすると、彼女は踵を返し、部屋を出て行ってしまった。
階段をすごい勢いで降りる音が聞こえる。
「いったい、なんなんだよ・・・」
彼女を追いかけ、俺も部屋の外に出た。
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