ガーベの秘密
水場で出会った小さな女の子を手伝って、並んで彼女の家へと向かう。
彼女をいじめていた女性はマリーというそうで、彼女の母らしい。
イクラ母親でもあまりにひどい、言い返さないのかと聞いたが、
「にぃのため」の一言だけで、そのほかのことは教えてくれない。
赤毛の短い髪に、自分よりも小さな体、
ただ瞳だけは、真っ直ぐと前を見つめていた。
自分より小さいのに、しっかりした子だな、
そういえば、この面影、今日どこかで見たような?
彼女の分の水桶も持ちながら並んで歩く。
すると、少女がいきなり走り出す。
行き先を目で追うと、一人の同い年位の少年が、馬小屋の方で掃除をしていた。
「にぃー!」
走った勢いを利用して、飛び上がったガーベを軽々と少年は抱きかかえた。
「ガーベ、おかえり・・・ん?あんたは・・・」
俺の方に視線を向けたキレアは少しいぶかしんだ表情をした。
「こんにちわ、名前はキレアだったっけ。僕はアーネ。さっき水場でガーベちゃんに会って・・・」
「気安く、妹の名前を呼ぶな・・・居候」
「うっ・・・耳の痛い言葉・・・」
出会って早々、印象は最悪のようだ。
「うう・・・なんでそんなに、攻撃的なの・・・?」
「ふんっ・・・ガーベに近づくよそ者はみんな敵だ。カイルさんの友達だか知らないが、俺にとっては同じことだ。ガーベは俺が守る」
極度の妹思いのお兄ちゃん・・・なのかな?
「もー、にぃ初対面の人にそんな態度とっちゃだめなんだよ?」
「ごめんなガーベ、にいちゃんが間違ってたよ、それにしてもそんな気遣いができるガーベは偉いなぁ」
キレアがガーベの頭をなでる。
なでられたガーベは「えへへー」と言いながら頬を赤らめた。
「ふんっ・・・ガーベの頼みだ。居候からよそ者に格上げしてやる」
「あはは・・・よろしくね」
「そういえばガーベ水を汲んできてくれたんだな、ありがとう。何も言わなくてもやってくれるガーベに、兄ちゃん助かってるぞー」
キレアの発言に、ガーベと逢った時のことを思い出した。
彼女のお母さんのこと、キレアに言っておいた方がいいのではないだろうか。
「あのっキレア、さっき水場であったことなんだけど・・・」
すると言葉を言い始める前に、ガーベがすぐにこちらに走ってきて
その小さな手で、俺の口元を覆ってきた。
「言ったら・・・ダメ」
鋭く目線をぶつける少女に、何か大切なものを守ろうとしているような必死さを感じた。
俺が少しうなづくと、少女は口元の手をどけた。
「おい、よそ者何か言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「なんでもないよ」
「はぁー?変な奴、ガーベ?そんな奴ほっといて、さっさと食堂に行こう」
「あっ待って、にぃ洗濯終わらせないと」
「洗濯物?俺が食堂から帰ったらやっておくからいいよ」
「だーめ、残したら臭くなっちゃうから今のうちにやっておこう?」
ガーベが小さく首をかしげながら、提案するとキレアは頭の後ろを掻きながら承諾した。
二人が家の中に入っていく。
「で、なんでよそ者もやってるんだ?」
目の前には大きな洗い物桶、それを囲むように三人で洗濯物を洗っている。
「え?いや手伝った方がいいかなって思ったから・・・?」
「いやいや、よその家の仕事に勝手に割り込んでくるなよ」
「でも、三人でやった方が早く終わるよ?にぃ」
ガーベが手を動かしながら、兄の言葉に返す。
「こーゆうの初めてだから、やってみたかったていうのもあるけど、迷惑・・・かな?」
「はっ、どーせ苦労もしない生暖かい家庭に生まれ育ったんだな、気楽なもんだ。ってお前!何手に持ってるんだ!」
キレアにいきなり大声を出されて、自分の左手で持っているものを見てみる。
何かの木の実ようでサイズは手のひらに収まるくらい。
とげとげした素材でたわしのような見た目をしている。
「どっから持ってきやがった!?」
「え?家の中の洗面台からだけど、これで洗うんじゃないの?」
「ちげぇよ馬鹿っ!そんなもんで洗ったら服がびりびりに破けるだろうがっ」
「そう、なのかぁ」
キレアの反論はもっともだと思って、たわしを桶の横に置いておく、
たわしというものがどんなことに使うのかは記憶にあったが、お皿も洗えるなら服を洗うのにも使えるのではと思ったんだが・・・
すると、キレアの横で、クスクスと笑う小さな声が聞こえてきた。
ガーベが笑いをこらえているようで、洗濯物を洗う手が止まっていた。
それを見てはずかしくなったのか、キレアそのあとは無言で選択をつづけた。
三人でやったおかげか、思ったより早く終わった。まだ、日は落ちていない。
デシコたちはもう食堂についている頃だろうか、俺も急がなくては。
他の二人も食堂に向かうようで、三人で食堂に向かった。
その途中でガーベから、キレアに聞こえないように耳打ちされた。
「私がマリーさんにいじめられていることは、秘密にしてくれませんか?」
「いいけど、なんで?」
「にぃ、には心配をかけたくない・・・から」
「・・・わかった」
このことをカイルに、ひいては村長に伝えた方がいいかと、思案しながら食堂に向かった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
今回は早くできました。毎回このくらいのペースだったらいいんですけど・・・