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世界はクロッカスを待ち望む  作者: カモミール
第一章サーハ村
18/26

ガーベの秘密

 水場で出会った小さな女の子を手伝って、並んで彼女の家へと向かう。


 彼女をいじめていた女性はマリーというそうで、彼女の母らしい。


 イクラ母親でもあまりにひどい、言い返さないのかと聞いたが、


「にぃのため」の一言だけで、そのほかのことは教えてくれない。


 赤毛の短い髪に、自分よりも小さな体、


 ただ瞳だけは、真っ直ぐと前を見つめていた。


 自分より小さいのに、しっかりした子だな、


 そういえば、この面影、今日どこかで見たような?


 彼女の分の水桶も持ちながら並んで歩く。


 すると、少女がいきなり走り出す。


 行き先を目で追うと、一人の同い年位の少年が、馬小屋の方で掃除をしていた。


「にぃー!」


 走った勢いを利用して、飛び上がったガーベを軽々と少年は抱きかかえた。


「ガーベ、おかえり・・・ん?あんたは・・・」


 俺の方に視線を向けたキレアは少しいぶかしんだ表情をした。


「こんにちわ、名前はキレアだったっけ。僕はアーネ。さっき水場でガーベちゃんに会って・・・」


「気安く、妹の名前を呼ぶな・・・居候」


「うっ・・・耳の痛い言葉・・・」


 出会って早々、印象は最悪のようだ。


「うう・・・なんでそんなに、攻撃的なの・・・?」


「ふんっ・・・ガーベに近づくよそ者はみんな敵だ。カイルさんの友達だか知らないが、俺にとっては同じことだ。ガーベは俺が守る」


 極度の妹思いのお兄ちゃん・・・なのかな?


「もー、にぃ初対面の人にそんな態度とっちゃだめなんだよ?」


「ごめんなガーベ、にいちゃんが間違ってたよ、それにしてもそんな気遣いができるガーベは偉いなぁ」


 キレアがガーベの頭をなでる。


 なでられたガーベは「えへへー」と言いながら頬を赤らめた。


「ふんっ・・・ガーベの頼みだ。居候からよそ者に格上げしてやる」


「あはは・・・よろしくね」


「そういえばガーベ水を汲んできてくれたんだな、ありがとう。何も言わなくてもやってくれるガーベに、兄ちゃん助かってるぞー」


 キレアの発言に、ガーベと逢った時のことを思い出した。


 彼女のお母さんのこと、キレアに言っておいた方がいいのではないだろうか。


「あのっキレア、さっき水場であったことなんだけど・・・」


 すると言葉を言い始める前に、ガーベがすぐにこちらに走ってきて


 その小さな手で、俺の口元を覆ってきた。


「言ったら・・・ダメ」


 鋭く目線をぶつける少女に、何か大切なものを守ろうとしているような必死さを感じた。


 俺が少しうなづくと、少女は口元の手をどけた。


「おい、よそ者何か言いたいことがあるならさっさと言えよ」


「なんでもないよ」


「はぁー?変な奴、ガーベ?そんな奴ほっといて、さっさと食堂に行こう」


「あっ待って、にぃ洗濯終わらせないと」


「洗濯物?俺が食堂から帰ったらやっておくからいいよ」


「だーめ、残したら臭くなっちゃうから今のうちにやっておこう?」


 ガーベが小さく首をかしげながら、提案するとキレアは頭の後ろを掻きながら承諾した。


 二人が家の中に入っていく。



「で、なんでよそ者もやってるんだ?」


 目の前には大きな洗い物桶、それを囲むように三人で洗濯物を洗っている。


「え?いや手伝った方がいいかなって思ったから・・・?」


「いやいや、よその家の仕事に勝手に割り込んでくるなよ」


「でも、三人でやった方が早く終わるよ?にぃ」


 ガーベが手を動かしながら、兄の言葉に返す。


「こーゆうの初めてだから、やってみたかったていうのもあるけど、迷惑・・・かな?」


「はっ、どーせ苦労もしない生暖かい家庭に生まれ育ったんだな、気楽なもんだ。ってお前!何手に持ってるんだ!」


 キレアにいきなり大声を出されて、自分の左手で持っているものを見てみる。


 何かの木の実ようでサイズは手のひらに収まるくらい。


 とげとげした素材でたわしのような見た目をしている。


「どっから持ってきやがった!?」


「え?家の中の洗面台からだけど、これで洗うんじゃないの?」


「ちげぇよ馬鹿っ!そんなもんで洗ったら服がびりびりに破けるだろうがっ」


「そう、なのかぁ」


 キレアの反論はもっともだと思って、たわしを桶の横に置いておく、


 たわしというものがどんなことに使うのかは記憶にあったが、お皿も洗えるなら服を洗うのにも使えるのではと思ったんだが・・・


 すると、キレアの横で、クスクスと笑う小さな声が聞こえてきた。


 ガーベが笑いをこらえているようで、洗濯物を洗う手が止まっていた。


 それを見てはずかしくなったのか、キレアそのあとは無言で選択をつづけた。


 三人でやったおかげか、思ったより早く終わった。まだ、日は落ちていない。


 デシコたちはもう食堂についている頃だろうか、俺も急がなくては。


 他の二人も食堂に向かうようで、三人で食堂に向かった。


 その途中でガーベから、キレアに聞こえないように耳打ちされた。


「私がマリーさんにいじめられていることは、秘密にしてくれませんか?」


「いいけど、なんで?」


「にぃ、には心配をかけたくない・・・から」


「・・・わかった」


 このことをカイルに、ひいては村長に伝えた方がいいかと、思案しながら食堂に向かった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回は早くできました。毎回このくらいのペースだったらいいんですけど・・・

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