キレアの過去1
「昨晩、わが領主様の屋敷に盗人が入った。召使たちは盗人がこの村の方向に走っていくのを見たというておる。さらに盗人は我らが放った矢を受け負傷している。村長、これらを含めてそなたに聞く、犯人に心当たりはないか?」
「いえ、私共の村ではそのような者、見てはおりませぬ。」
「そうか、念のため村人全員を改めさせてもらうが、それでも良いか」
「はい、よろしいですよ」
村長と、領主の使いとなのる男は、家を出て村人の住む家に向かっていった。
「ですが、夜はランタ達に見回りをさせていますし、この小さな村では丸一日姿が見えないとあれば、すぐに気づくため、村人の中に犯人がいるとは思えないのですが・・・」
「貴様らが仲間をかばうこともあろう、農民風情が領主様の意向に逆らうな」
「わかりました」
領主の使いは一軒の家の前で止まる。
「ここは誰の家だ」
「はい、ズオウという名の農民が住んでいます」
「そうか、早く開けろ」
「はい」
村長が扉を開けると、がっしりとした男性が子供たちと机の上で談笑している最中だった。
「邪魔するぞ・・・ズオウお前、昨日の夜は何をしていた?」
村長が問いかけると、
「村長様、これはこれは、昨日の夜ですか?息子たちと一緒に居ましたが・・・」
後ろの子供に目線を向けると、コクコクと頷いた。
「そうか、それならよかった・・・その傷は・・・?」
村長がほっと肩をなでおろしたのもつかの間、ズオウの足元を見て青筋立った。
見れば、足の甲の所に、深い刺し傷のようなものがある。
「ズオウ・・・お前・・・」
「貴様っ!なんだその傷は!見たところ矢傷にも見える。たばかったな、村長!すぐさまこいつを捕まえろっ!」
使いの者がそう叫ぶと走ってきた騎士たちが剣を抜き、そこへ駆けつけた。
ズオウが抵抗するも、騎士たちの剣に脅され、押さえつけられ、縄で括りつけられた。
「キレア、ガーベを頼む。部屋の奥の引き出しだ。すべて、お前に託した。」
縄で縛られている父に近づいた瞬間、キレアの耳の近くで、こう囁いた。
「ええぃ、そこの子供離れろっ!」
騎士の一人がキレアを蹴り飛ばす。転がったキレアを、村長が支えた。
「大丈夫か、キレア」
「村長・・・父さんがっ・・・父さんがっ!」
縄で縛られたズオウは騎士たちに囲まれながら、村を出ていく。
「大丈夫じゃ・・・ズオウはなんもしとりゃせん・・・じき返ってくる」
安心させようと、声をかけてくる。村長の声は耳に響かず、ただ馬に乱雑にの去られて、連れていかれる父の姿を、瞳に焼き付けていた。
数日後、村に騎士の集団がやってきた。
父に会えることを心待ちにしていたキレアはガーベとともに村長の家へと向かった。
「領主の館から金品を盗んだ。これはあの村人がすべてを話してくれた。よってあの村人を罪人として、こちらで処理した」
使いの者が話した言葉を一瞬呑み込めない自分がいた。
「犯人は見つかった。しかし、盗まれた物は見つかっていない。よって奴の家の物すべて調べさせてもらう、もし、何も見つからなかった場合、その損害は連帯責任として村全体で償ってもらう。」
「そんなっ横暴な・・・」
「黙れ、村長・・・領主の命が聞けないというのか、貴様らが私を欺いたこと一つも反省していないようだなっ!」
「行け、なんとしても探し出せ」
騎士たちはキレアの家へと走っていく、
キレアはガーベを連れ、走って家に向かう、村長もそれに続いた。
「領主様の命令だ!徹底的にやれ!」
「へへへ、あぁ・・・」
隊長らしき人物がそういうと、部下の騎士たちはいっせいに家の中に入り中のものを物色し始めた。
家具も道具も家の中のものすべて壊し、家の外に積み上げていく。
「やめろっ!やめさせろよっ!」
隊長らしき騎士にキレアが詰め寄る。
騎士はキレアを一瞥すると、剣を抜き放った。
「罪人の子供が口出しをするな・・・ここでお前を殺したっていいんだぞ?」
キレアの首元まで剣の切っ先を近づける。
「やめてくださいっ、子どもの言ったこと、騎士様にたてつくようなまねは二度といたしませんっどうぞお好きになさってください」
村長が騎士とキレアの間に割って入る。
騎士はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、家の中の騎士たちに向き直った。
「村長様から好きにしたっていいってよ!家のどこに隠しているかわからん、壁も天井もぶっ壊せ!」
騎士たちは命令に従い、剣や斧で持って壁や屋根を破壊し始めた。
「やめろっ!やめろぉっ!」
村長は二人の身体を抱きしめ、家から二人を放す。
「奴らの好きにさせたらいい、命の方が大切じゃ・・・今はこらえるんじゃ」
無残な姿に変わっていく家の姿を、涙を流しながら、ガーベと見守った。
最終的に騎士たちは金品は見つからなかったと使いに話した。
すると使いは、
「これは困ったな、大事な領主様の一品、この村の責任であるよなぁ村長」
「わかりました・・・いかがすればよろしいでしょうか」
使いは、したり顔で二本の指を突き出した。
「二倍だ。来年は二倍の量の作物を納めよ。」
「っ・・・わかりました」
「ふんっこんなことは二度と起こらないようにするんだなっ!」
「あっ!あの・・・父は・・・父はどうなったんですか!?」
「あぁ、奴なら死んだよ。罪を告白した後、逃げようとしたのでな、まぁ当然の報いよな」
「そんなっ・・・・」
膝をつくキレアに、使いは高笑いして帰っていった。
まだ過去偏は続きます。キレアは前回カイルと話していた、まだ幼いけれど働いている少年ですね。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございます。