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世界はクロッカスを待ち望む  作者: カモミール
第一章サーハ村
14/26

デシコとの模擬戦

朝食はカイルが用意してくれた。


みんなで食堂に向かうのでは、と聞いたが、


朝早くから仕事をする人が多いため、食堂のクスハさんの用意が間に合わないのだそうだ。


朝食を終え、家を出るランタとデシコが家の前で待っていた。


「おはよう、カイル」


「なんで、ここにいるのさっ・・・」


「わしが呼んだのじゃよ」


後ろから村長が静かに顔を出した。


「最近のカイルの行動は目に余る。カイル、これからはランタについていって衛士の仕事を体験してきなさい」


「そんなぁ!?」


カイルが悲鳴を上げる。そういや村長さん昨日の夜あんなことがあったのに今日は静かに朝食食ってたな・・・これがあるからか。


「さっ・・・いくぞっカイル」


逃げようとする間もなく、カイルがランタに連れていかれる。


残った俺に村長が話しかけてきた。


「アーネ君、君もカイルについって行ってくれないか、カイルは君には心を許しているようだし、君がいてくれた方が心強い」


「わかりました・・・」


柔らかく笑って言う村長の言葉に従ってランタ達を追いかける。


心強いってどういうことだろ?そんなに俺は強そうには見えないと思うんだけど・・・




カイルを追いかけるアーネの後姿を見て、村長がため息をつく


「カイルにあんな気持ちがあるとは知らなかったのう・・・」


昨日の夜、自室に戻ろうとしたときに聞こえたカイルの思い。


魔法が使えるようになりたい。そして中央に行って勉強がしたい。


それは立派な志なのだろう、喜ぶべきことなのだろう、


だが村長の顔は暗いままだ。


「この村で、魔法が使えることを悟られてはならない。もしカイルに魔法が使えたとしても、中央に行くことはない」


そのためにランタとデシコを付けさせたのだ。


二人を見張るために・・・





嫌がるカイルをランタが軽々と持ち上げながら、村を一周した。


ここは村の北にある少し開けた広場だ。


「村の巡回おわったよねっ?いまから自由でいいよねっ!?」


「バーカ、これから毎日の訓練を始めるんだよ」


「魔物なんてここ数年でたの、昨日だけじゃんっ!」


「昨日、魔物が出たから訓練してるんだよ!」


カイルとランタの問答が続く、


カイルはどうにかして、森の中のバロンに会いたいんだろうなぁ


巡回中ずっとい合っていた二人を見て、そんなことを思った。


「四の五の言わず始めるぞ、訓練用の剣を持ってくれ」


カイルが渋々といった形で剣を構える。


「カイル?俺に一回でも攻撃を当てられたら少しだけ自由時間を作ってやってもいいぞ?」


「ほんとにっ!?よしっ、やってやる!」


ランタが焚きつけたおかげでカイルのやる気も上がったようだ。


カイルが剣を振り回し、ランタが受けたり躱したりしながら、弱点を突いていく。


その様子をデシコと一緒に外から眺める。


デシコの方を見るが、ランタがカイルと戦っているところをじっと見ているだけで、こちらを見ない。


「デシコさんは、いつもランタさんと一緒ですよね。仲いいんですか?」


少し話したくなって、デシコに終えをかけてみる。


すると凄い速さでこちらを向き、無言でこちらを見つめた。


その目はぼんやりしているようで、真っ直ぐと俺を捉えて離さない。


「僕らも・・・やる?」


視線を離さずに、首を傾ける。


カイルの持っているような訓練用の木剣を渡してくる。


訓練しろというのだろうか、なされるがままに訓練場に立つ。


十分間合いを開けてから、デシコと向き合った。


デシコが小石を拾い俺と自分の中間に投げ込む、あの小石が落ちたら始めということだろうか、


相変わらず無口なので何考えてるかわからない。


石が落ちるのに合わせて木剣を構える。


それに対してデシコは脱力してぶらぶらと剣を構えすらしない。


小石が落ち、試合が開始された。




何も見えなかった。




気づいたときにはデシコは俺の懐まで走ってきていて、剣でガードするのがやっとだった。




身体が宙に浮く感覚がして、数メートル先の地面に転がった。




動揺したが、体を奮い立たせる。


デシコってこんなに強かったのかよ・・・知らなかった。


死ぬ気でやらないと殺される・・・



そう思わせるほどデシコの一撃は強かった。



呼吸を落ち着かせて、剣を構える。



デシコもこちらがまだやる気なのにきづいたのか無言で対峙する。



今度は明確に剣の軌道をイメージする。さっきみたいに地面に突っ立てないでこちらから、仕掛けに行く。


地面を蹴り、今度はこちらからデシコに突撃した。




デシコが素早く反応しカウンターを振り下ろす、それに反応して木剣を避け、もう一度剣を振り払った。




何故か集中すればするほど体が軽い。記憶はないが、昔は剣をよく使っていたのかもしれないな



そう思わなければ説明がつかないほど、デシコとの戦闘は互角に戦えていた。





このままでは勝負がつかないとも思った瞬間。






初めてデシコが表情らしい表情を出す。





デシコの唇が薄くゆがみ大きな笑いを作った。





デシコの速さがさらに上がる。





互角だった剣技はついに俺の方が劣勢となった。





突きをメインにした攻撃を次々繰り出してくるデシコに対応できなくなり、防戦一方になってしまう。



デシコの一撃によろめいた俺に構わず、デシコが止めの一撃を加えようと疾駆した。


戦闘の中で感じた恐怖から、もう終わりだと感じ取っていた。



止めの一閃が俺の身体を貫いた。





貫くはずだった。





デシコの木剣は少し前で止まり、ランタが俺とデシコの間に入っていた。


「こらっ、素人相手に本気でやったらダメだろ」


手刀でデシコの頭をぼふぼふ叩く。


「すまん、カイル言っておいた方が良かったなデシコはこの村一番の剣術遣いなんだよ・・・」


「それを先に言ってほしかったよ・・・」


叩かれたデシコは申し訳なさそうに、下を向いていたが、俺の方を見ると一言だけつぶやいた。


「剣の型・・・僕と・・・同じ・・・?」


さっきの表情とは別にデシコは驚いた顔をしていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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