カイルと魔法
「アーネって魔法が使えるの?」
夜のとばりが降りたころ、二人きりになった部屋でカイルが言う。
その真剣なまなざしに少し動揺した。
「・・・なっなんで知ってるの?」
「バロンが助かった時、バロンをつないでた首輪が一瞬で消えたのを見たんだ。そして後に残った黒い糸を辿ってみると、アーネの手に魔法陣が浮かび上がってて・・・」
「・・・カイル・・・」
「それでアーネっ!僕に魔法を教えてくれないかっ!」
「・・・へ?」
この世界に魔法があることは記憶にある。だが誰しもが使えるものではなかったはずだ。
多くの人は魔法の存在を忌避する。
だから、カイルも俺を嫌っているのかと思った、だがカイルから出た発言に再び驚かされた。
「だからっ!僕に魔法を教えてほしいんだ!」
「そのっ・・・なんで?」
つい先ほどと同じ反応をしてしまう。この村の農民、村長の息子ということを考えても、魔法を覚えたがる理由にはならないはずだ。
「この国では、魔法を使える者は特別とされているんだ。大体は貴族から出ることが多いんだけど、僕たち農民の中からも出ることがあるんだ」
「魔法の発現が確認されれば、中央都市の魔法学院に集められる。そこでは貴族も農民も、奴隷ですら関係ない、貴族と同程度・・・それよりも高度な教育が受けられるようになるんだ」
「中には元農民の地位でありながら騎士団の団長になってる人もいる」
「僕はこの村を出て、中央へ行きたい。勉強して偉くなって、みんなの暮らしを楽にさせてあげたい。そのために魔法が必要なんだ。お願い・・・アーネ・・・お願い、します」
カイルの真剣な表情に押されながら、本当のことを話した、
「ごめんカイル、僕は魔法を自在に使えるわけではないんだ。僕についてる・・・魂?みたいなものが僕の身体を使って発動させてくれるんだよ」
「だから俺には、君に魔法の出し方を教えることはできないんだ」
「そうか・・・ごめんね、変なこと言っちゃって・・・そうだっ!その魂?みたいなのと話すことはできるんだよね!?」
「うん・・・聞いてみる」
ユピテル?起きてる?
「わからない・・・何故、人間が魔法を使うことができる」
どういうこと?
自分のことを意に介さないつぶやきを繰り返すユピテル。
「我が知っている人間は魔法など、使えない・・・はずだ」
ユピテルっユピエルってば、聞いてるの?
「すまん、何だ?」
もうっユピテルが魔法を使ってる時どんな感じなの?
「魔法・・・か、異世界の扉を開く、というのが正しいな」
異世界の扉・・・?
「我らの魔力は異世界から取り出された魔力だ。我らはそれを魔法と呼んでいる。異世界との扉を開くのは容易ではない、力を失っている今の我では、魔力を取り出すだけでも相当の力を使う。人間ができるものではない」
じゃあ、カイルには魔法は使えないの?
「その・・・はずだ。だがこの小僧の話からすれば人間も魔法を使えるという、何らかの方法でなら可能なのだろうが、我らと同じとは限らんだろうな」
どうやってカイルに伝えよう・・・
「できないものはできない、真実を伝えるのがいいだろう」
きっぱり言った方がいいのかもしれないけど・・・
「カイル?魔法が、違うから教えることはできないって・・・ごめんね力になれそうにない・・・」
「そう・・・なのか・・・うんん大丈夫っ!変なこと聞いてごめんね。さっ早く寝よう!」
そうっていつもの元気に戻り、布団を頭からかぶった。
となりで寝ているカイルが、起きるまで顔をこちら見向けることはなかった。
夜が明けて、日が昇る。
なんとなく寝つきが悪くて、早くに起きた。
まだ朝日が昇っていないが他の村人はすでに活動を始めているようでちらほらと歩いているのが見えた。。
そこに昨日見た顔を見つける。
ランタの弟デシコだ。朝だからか元々なのか眠そうな顔をして、どこかに向かっている。
チラリと、こちらを見たが興味なさそうに視線を戻した。
昨日話したうちの一番苦手な人かもしれない・・・
いつも無口で何も話してくれないんだよね・・・・仲良くできる日は来るのかな?
ポリポリと頭を掻いた。
「朝からのんきな顔をしているようだな、アーネ」
あっユピテル。おはよう。
「あぁ、・・・お前は我が何者か聞かないんだな」
え・・・?
「我の正体について聞いたことがないとふと思ってな」
あぁそうだったけ?
「そうだ、だから何故かと思って・・・」
ユピテルが話す前に遮って感情が出てしまった。
隠してることを無理やり聞くのは・・・友達じゃない。
俺はユピテルがどんな奴だってかまわない、
でも君といた今までの記憶は、君が俺の友達だって言ってる。
だから、君が何者かなんて、聞いたって意味なんて無いと思ってね?
ごめん、いきなり友達扱いしちゃってた気に障ったかな?
「あぁ、・・・・・大丈夫だ、すまない」
その後、カイルが起きるまでの数十分ユピテルと会話することはなかった。
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