村の食堂
「フム、大体の事情は分かった。しばらくはこの村に滞在するといい。生き別れたという姉上のことは気の毒だが、先ほどのようにこの村にも魔物が出没するようになっているようじゃ。気を付けておくれ」
「はい・・・ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をして、村長の家を出る。
これまでの経緯を村長に聞かれたが、そこはユピテルが変わって説明してくれた。
「あんなもの、適当に答えれば納得するだろう。記憶が無くなっているなど、荒唐無稽なこと人間が信じるわけがないからな」
「それでどんなふうに言い訳したの?ユピテルが代わりに話してる時、意識がないんだけど」
「なに、エキザの言っていたことを少し借りたまでだ。盗賊に襲われ、両親とは死別したが、姉とは生き別れた。奴らにはわかりやすいだろう?」
「なんだか悪い事をした気分だよ」
「気にすることはない、どうせこの村には長くはいまい」
「そう・・・だね。僕たちは記憶を集めないとだもんね」
モネのいた家を出る前、ユピテルが言っていた、僕たち二人の記憶がこの世界のどこかに眠っている。
それらを集めてシェムハザの思惑を知るのが僕たちの目的だ。
「我が感じるに、この村のどこかに求めているものはある。」
「わかった。そういえば記憶ってそもそもどんな形してるの?」
「直接見ないことには、我もわからぬ、我もどうやって記憶を取られたかわからぬからな」
「そっか・・・」
村長の前でユピテルと会話をしていると、後ろから抱き着かれた。
「っ・・・!?」
「アーネっ!」
振り返ると、満面の笑みを浮かべたカイルの姿があった。
「いやー、ホントにバロンが自由になってよかったよー、目を話した途端に、脱出するなんて、バロンはやっぱり天才だね」
バロンア自由になってすごくゴキゲンのようだ。
「ねぇ、アーネ、お腹すいてるでしょ?そろそろお昼の時間なんだけど、一緒に食べない?」
カイルの提案にエキザさんに食事に誘われていることを思い出した。
「ごめんカイル、さっきエキザさんに一緒に食べないかって言われてて・・・」
「そうなの?だったらちょうどいいじゃん」
「えっ?どういうこと?」
「この村ではね、村のみんなが一斉に食事をする食堂があるんだよ。」
カイルに説明されながら、村の奥に進んでいく。
大きな縦長の建物で、壁はレンガで覆われた食堂らしき建物が見えてきた。
煙突が一本立っており、黙々と煙が出ている。
食堂の中に入ると、大きな空間が広がっていて壁いっぱいの長テーブルが4つ
とそのテーブルに椅子がずらっと並べられている。
奥には炊事場らしきカウンターもあり、そこで料理を作っているようだ。
各々、集団に分かれて座っているようで、中にはランタやデシコの姿も見て取れた。
「アーネ、こっちだよ」
カイルの呼ぶ方に視線を向けると、エキザさんとイカリさんが向かい合って座っていた。
招かれるまま、カイルの隣に座る。
「アーネも来たわね、ここの食堂の料理はいつもおいしいのよ?やっぱり調理師の腕がいいからかしらね・・・・ねぇ、クスハ?」
エキザさんが視線を上げる、それを追うと一人の女性が料理を持って、立っていた。
「もぉーお世辞話はやめてよエキザ、私なんてまだまだよ」
「あら?そういえばさっきこの村に来た子よね?名前は何て言うの?」
クスハと呼ばれた女性が名前をきいてくる。
「アーネ・・・です」
「そうか、アーネ君か、私はクスハ、この村で料理の仕事をしているの」
「・・・ところで、アーネ君」
クスハが顔と顔の距離をグイッと近づけてくる。
俺が少しでも動けば、顔と顔がぶつかってしまいそうな距離だった。
「クスハさんとあんな至近距離にっ!?うらやましいっ!」
後ろのテーブルで誰かが悔しそうな声が聞こえたが、クスハは気にせず続けた。
「好き嫌いは・・・許さないからね?」
口元は笑ってても、目がマジだった。
喉元にナイフを突き立てられた感覚がして、背筋がぞわっとしながらコクコクと頭を縦に振る。
「よろしいっ!村の人たちが一生懸命に作った野菜だからね、外から来た人だろうと容赦はしないよ?」
片目を閉じてウィンクをしながら、職場に戻っていくクスハ。
あの人には逆らっちゃいけない、そう心に刻んだ
「ふふふ、大丈夫だよ、アーネ、クスハねぇの料理はおいしいから、好き嫌いするやつはいねぇよ」
「そうよ、好き嫌いする人はこの村にはいないんだから」
「大体は好き嫌いをした時点で後頭部に木のオタマが飛んでくるから、どんどんと粛清されていったからだけどね・・・・」
カイル、エキザと続いてイカリがげんなりと最後にこぼした。
イカリの発言に後頭部をさすりながら、料理をみんなで食べ始めた。
カイルの行った通り、料理はなかなかのもので、朝から何も食べてない俺にとっては最高の料理だった。
食器を受け取ったクスハは、残さず完食した俺の器を見て、満足げに頷いた。
エキザとイカリは午後も仕事があるようで、それぞれ自分の家に戻った。
残ったカイルが俺に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、ちょっと話があるんだけど、こっちに来て」
カイルに手を引かれながら、食堂を出ると、
今度はカイルを、カイルとは違う手がつかんだ。
「カイル、どこに行くんだ?」
カイルを掴んだのはさっきまで食堂で食事をしていたランタだ。
後ろに眠そうなデシコもついてきている。
「村長からの命令でな、村の警護と並行して、お前がどこぞに行かないよう見張る役を仰せつかった」
「先ほど、犬が逃げたとも、報告が入っている。まさか・・・森にまた行こうなんて思ってないよな?」
「うっ・・・」
ぐうの音も出ないカイルを差し置いて、ランタが俺に向き直る。
「初めの状況が、状況なだけに挨拶する暇もなかったな、俺の名前はランタ、この村で警備をしている。こっちは弟のデシコだ」
「よろしくな」
「はっはい、よろしくお願いします」
「うむ、それでこの村に来てどこがどこだか、わからないだろうから、これから村の案内をしょうと思うが構わないか?」
「はい、大丈夫です」
「よし、カイルも、アーネと一緒なら文句はないな?」
「んー、アーネと一緒なら・・・わかったよ」
あきらめたようにカイルが返事をすると、ランタは握っていた手を離した。
ランタに連れられながら、食堂を後にして、4人で歩き始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
キャラクターを考えるのって楽しくて、ついつい細かいところまでこだわってしまいます。
あと、村人は4人出すつもりですが、ほかにも個性豊かなキャラが生活しているので
全部出せたらいいなぁと思っています。
次回もよろしくお願いします