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世界はクロッカスを待ち望む  作者: カモミール
第一章サーハ村
10/26

薬屋 エキザ

 カイルとデシコと村の入り口から別れてからランタは走って一つのこじんまりとした建物の中に入っていった。


「エキザさん!エキザさんはいますか!」


 建物の中は小さな店内のようになっており、


 カウンターの奥に見える棚には薬の匂いのする壺がずらりと並べてあった。


「あら、ランタ。薬草取りに行くのは明日じゃなかったかしら?」


 棚の間から、顔を出し、一人の女性が返事をした。


「薬草取りのことで来たんじゃない、患者です。森でカイルと一緒にゴブリンに襲われていたんです」


「何ですって!それは大変ね。早速診させてもらうわ。ランタ、あなたは村長にこのことを伝えるつもり?」


「そうです。村の近くでゴブリンが出たのも久々ですからね、君、名前は・・・確かアーネ君だったか、いろいろ 聞きたいこともある。一段落したら村長の家に来てくれ。じゃあエキザさんあとを頼みます」


 説明を終えるとランタは足早に出て行った。


「あなたアーネっていうのね。私はエキザよ、よろしくね」


 さて、と言ってエキザが俺の服をめくってくる。


「ちょっ、何をっするんですか」


「傷を見ないことには何もわからないじゃない、あら?こんなに服が血で濡れてるのに、傷跡らしきものがないわね・・・」


「・・・この血、あなたの者ではないわね?」


 エキザが俺の目をじっと見つめ、無言で問いただしてくるようだ。


 彼女の黄色い瞳に真っ直ぐ見つめられ、息をのんだ。


「まぁいいわ。あなた、外から来たんでしょう?その道中で何かがあったって考えるのが自然だもの。魔物か、盗賊か、何があったかは聞かないけれど、あなたが生きてここまでたどり着いていることは奇跡だわ」


 やさしく肩に手を置くと、エキザは俺の身体をしっかり抱きしめた。


「ここまでいっぱい寂しい思いをしたのでしょう。ただ生きているだけでいいわ。生きていれば何もかもやり直せるもの」


「エキザさん・・・ありがとうございます」


「えぇお安い御用よ、その服も、あとで洗わないといけないわね・・・少し待って、今着るものを用意するから」


 そう言って店の奥に歩いて行ったエキザはカイルがさっき来ていたような服を持ってきて、


「大きさが合うか、わからないけれど、とにかく着ておきなさい」


 カウンターに入り、小さな部屋に通される。


「ここで着替えて頂戴。着替えくらいは・・・自分でできるわよね?」


 小馬鹿にしたように、笑ったので少しむっとした態度を取ってしまう


「でっできますよっ!」


「ふふっ照れちゃって、可愛いわね」


 カーテンを閉め、笑いながら去っていく


 部屋の中は大きな壺が保管されており、中には乾燥した薬草らしきものや、つやつやした枝などが入っていた。


「さっき薬草取りって言ってたけど、薬屋さんでもしてるのかな?」


 少しだけ、彼女にモネの面影を覚えたのは、たぶん自分の記憶の中でモネとの記憶が大部分を占めているからだろう。


「モネにまた、会いたいな・・・」


「そんな顔をするでない」


 ユピテルが頭の中から慰める。


「我は人間がそんな風にめそめそしているのが一番嫌いだ」


「だからそんな顔をするでない」


 無骨な慰め方は、少しだけ勇気をくれた。


「ありがとう、ユピテル」


「べつに貴様のためではないっ勘違いするな」


「ふふっ、照れちゃって可愛いわね」


 俺がここぞとばかりに先ほどのエキザの真似をしてみると、


「なっ・・・もう貴様なんぞ知らん」


 僕一人じゃ寂しさで死んじゃうとこだった。


 本当にユピテルがいてよかった。


 服を着替え、カーテンを開けると、エキザがカウンターの方で待っていた。


「着替え終わったのね、村長の家はわかるかしら?」


 俺が首を横に振ると、そう、と言ってカウンターに広がった天秤や紙を片付け始めた。


「じゃあ、一緒に村長の所に行きましょうか」


「・・・わかった」


「あら?少しだけだけど、元気が出てきたわね?村長に会ったら時間もちょうどいいしお昼を一緒に食べましょう?ごはんを食べることは生きることよ、その調子でいけばすぐに元気になりそうね」


 エキザが扉を開け、店から出る。


「カイリゅううううううううううううう!!!無事かぁぁぁぁぁぁ!?じいちゃんが今行くぞぉぉぉぉぉ!!」


 ゴゴゴゴッと砂埃を巻き上げながら、先ほどのマイスリア・ボアにも劣らない速度で白髭を生やした、老人が走っていく。


 そのあとを遅れて、ランタが走って追いかける。


「村長!待ってください!・・・カイルは無事です!ですからっ!ですから落ち着いてくださいっ!」


 ランタが行ったあと、エキザが頭を抱えて小さく零した。


「ごめんなさいねびっくりさせて、・・・アレが私たちの村長よ」


 二人で村長が突進していった方向へと歩いていく。


 しばらくすると、村長らしき人物がカイルを捕まえていた。


「おおーカイルっカイルっ無事で、じいちゃんうれしいぞいっ!カイルに何かあったら、父ちゃん、母ちゃんに申し訳が立たない、もう二度とあんな危険なとこ行っちゃダメっ!じいちゃんの家にずっといなさいっ!一日中わしがかわいがってやるからの!わふふふふっ」


「きもい、きもい、きもいっ!じいちゃん離れてって!離れろーーっ」


「村長、カイルが嫌がっています、そこまでにしておいてください」


 ランタがそうたしなめても、村長は放す様子はない。


「・・・デシコ、手伝ってくれ。」


「あいあいさー」


 ひょっこり現れたデシコとともに、村長をカイルから引きはがし連行する。


「カイルっー後でわしの所に来るんじゃぞー」


 二人に引きずられながら村長の声が遠くに響いた。


 とうのカイルは下を出して、あっかんべーをしている。


「まったく、過保護すぎるんだよじいちゃんは、俺だってもう10歳になったんだから大人として扱ってもいいのに」


 ぷんすか怒るカイルは俺たちの姿を見つけると、走ってやってきた。


「アーネ、もう怪我はいいの?」


「うん・・・大丈夫みたい」


「そうか、よかった」


 カイルは自分と同い年くらいということもあって少しだけ親近感を覚える。


「そういえば、バロンは?」


 先ほどデシコに捕まっていた、賢い子犬のことを聞いてみる。


 あの時あの子犬がいなければ、助からなかったかもしれないのだ。


「あぁそれなら・・・」


「もう、村長は行ったかい?」


 家の中から一人のほっそりとした男性がバロンを抱えて出てきた。


「もうじいちゃんなら行ったよ、それより、イカリさんっバロンを開放してやってくれよ。ほんとに賢い犬なんだ。きっとこれからもうまくやるよっ」


「そうはいってもね・・・少し過保護だが、あれでもこの村の村長なんだ。あの人に何かあったら私たちは困ってしまう。仕方のない事なんだよ」


 イカリと呼ばれた男性はバロンを杭に繋ぎながら、申し訳なさそうな顔をした。


 カイルの頭をやさしくなでると、エキザに声をかけた。


「やぁ、エキザ、お昼の時間にはまだ少し早いようだけど、薬屋の方はいいのかい?」


 すると俺の存在に気付いたようで、


「ん・・・その子は?それにその服・・・」


「アーネっていうの、カイルと一緒にいた子よ。可愛いでしょう?」


「そうだね。そうか・・・アーネ君、私はイカリ、よろしくね?」


 物腰の柔らかそうな顔で握手を求めてくる。


 イカリは俺の手をやさしく握ってると、ぎこちない笑顔を見せた。


「それよりもイカリさんーバロンをー」


 カイルが会話に割り込んでくる。


「エキザさんも何とか言ってくださいよー」


 二人が困ったような顔をする。


 どうにかしてカイルを助けてあげたい、そんな気持ちでいっぱいだった。



 どうすればいいかな?



 心の中でユピテルに聞く。


 億劫そうな声を上げてユピテルが返す、


「貴様のことなんざ、我は知らん」


 冷たく突き放す、さっきからかったことまだ根に持ってるのかな?



 そんなこと言わないで、ユピテルも考えてよ。



「はぁ、・・・我の言う通りにしてみろ」


 少しの沈黙の後、ユピテルが折れて、ある方法を提案した。


 ユピテルの指示が頭の中に伝わってくる。


 イカリはバロンを逃がさないように、バロンが繋がれた杭の前に立っている。


【破滅魔法】消滅の糸(デストロイ・トレッド)


 俺の手に小さな魔法陣ができ、魔法陣から漆黒の糸が飛び出した。


 エキザとイカリの後ろを通って漆黒の糸が伸びていく。


 そしてバロンが繋がれているロープに触れると、バロンを縛っていロープが跡形もなく消えた。


 バロンが二人に気づかれることなく森の方へと走っていく。



 凄いやユピテルっ!



「まぁ我の力を駆使すればこんなものだな」


 ユピテルも自慢げだ。


 とにかく、よかったバロンが無事に逃げられて、


 カイルが悲しむことが無くなると考えると、うれしくなった。


 でもその様子を、カイルが見ているのに俺は気づかなかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回は少しだけ、文字数を多くしてみました。

あと、登場人物が多くそろそろわからなくなってくる頃だと思います。

一応、村の主要人物が出揃ったところで、登場人物紹介は挟もうと思っています。

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