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世界はクロッカスを待ち望む  作者: カモミール
第一章サーハ村
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はじまり

初回は続けて投稿するつもりです。

 神様は、土塊から人間を創造されました。


 人間たちは、とても純粋で、正しい心を持っていました。


 神様は人間たちに世界を与え、そこに住まわせました。


 人間たちはそれぞれの国を作り、秩序ある法のもと、争うことなく暮らしました。


 人間たちはやさしく見守る神様のことが好きでした。


 神様もそんな人間たちを見ているのが好きでした。




 だけど、神様は・・・・世界を・・・・人々を、




 すべてを破壊(こわ)しました。





 まどろみの中で目を開けるような、


 そう表現するしかないほど、俺が存在した空間は曖昧だった。


 俺の足元には、靄のような得体のしれない物体がいて、足に絡みつくように揺蕩っている。


 見上げると空には、どす黒い天蓋が広がっており、見ているだけで吸い込まれそうだ。


 まわりを見渡しても、何もないし、誰もいない。


 ただ、一人を除いては、


 飄々とした笑みを張り付けながら、こちらへと歩き出した男は俺の目を見て口を開いた。


「とりあえず成功、と言っておこう。ユピテル君」


「・・・?」


「困惑しているようだね。では、まずは僕の名前から名乗らせてもらうとしようか」


「僕の名前はシェムハザ、気軽にシェムくんと呼んでくれても構わないよ?」


 シェムハザと名乗る男が、うやうやしく一礼しながら、俺に向かってウィンクをする。


 状況が読めない、ここがどこか、自分が何者だったかさえも思い出せない。


 そもそも、ユピテルって誰だ?俺のことなのか?


 意識ははっきりしてきたが、記憶に靄がかかったみたいだ。


 意識が戻る前、俺が何をしていたかわからない。


 ここはどこで、あいつは誰なんだ?実験成功とはいったいなんだ?


 第一に、俺は誰なんだ?


 いったい・・・どうなってる。


 シェムハザと名乗った男をいぶかしんだ目で睨みつけると、男は少し笑って答えた。


「そう睨まないでよ。そうだ、少し当ててみようか、君の身に何が起こっているのか」


「記憶に靄がかかったようではっきりしないんだろ?」


 シェムハザの言う通りだ。確かに記憶がはっきりしない。


「俺の記憶について・・・なにか知っているのか?」


「あぁ、知っているとも、その記憶を奪ったのはまぎれもない僕なんだからね」


「・・・・!!」


 今、あいつは何て言った?


 俺の記憶を奪った?そんなことが・・・実際に可能なのか?


「ところでユピテル君、僕とゲームをしないかい?」


 俺が戦慄を隠せていない状況で、シェムハザは人差し指を立て、唐突に提案を投げかける。


「ゲーム・・・?」


「そう、僕と君の記憶をかけてゲームをしないか?これから君を人間世界に送る。その世界で、君は、君の記憶を求めて旅をするんだ」


「なぜそんなことをする?」


「そうだな・・・僕はね、見てみたいんだよ。あの光景を、もう一度ね・・・」


 シェムハザの表情から、さっきまでの笑みが消え、静かに虚空を見つめた。


 シェムの顔には絶対に曲げられないという意志のようなものが伝わってきた。


「何を、わけわかんねぇこと・・・言ってる?」


 俺が声をかけると、シェムは表情を作り直し、さっきのような、軽い笑みを張り付けた。


「今はわけがわからなくてもいいよ、そもそも君に拒否権なんてものはないんだ。君は君のために記憶のカケラを集めればいい」


 シェムハザはゆっくりと歩み寄り、俺の胸に手をかざす。


 途端に、胸に触れている手から光があふれだし、魔法陣が浮き上がった。


 気づくと自分の身体が光の粒に分解されていく。


「・・・・・・・!!」


 足先、指先と体の感覚が消えていく、


 自分の身体の感覚が失われていく感覚に恐怖しか覚えない。


 恐怖に染まる俺をよそに、シェムハザは顔を近づけ、俺の耳のそばでこうつぶやく


「いずれは僕たち()()のために・・・」


 身体が分解され視界が消えると同時に、意識がまどろみに落ちていく。


 自分が何者かも知れないまま、誰かもわからない男に記憶を奪われゲームに参加させられる。


 あまりの衝撃に固まっていた俺は、状況が上手く呑み込めないまま、なすすべなく光の粒子に分解された。





 自分の身体が分解される恐怖におののき、俺は勢いよくベットから起き上がった。


 気が付くと、柔らかなベットの上に俺は寝ていた。


 体の感触は・・・ある。


 手を軽く握ると、真っ白なシーツの柔らかい感触が実感でき、安堵の声を漏らした。


 こんどは足先でシーツを持ち上げ、足の感覚を確かめる。


 五体満足、分解されたと思った俺の身体は、全てもとに戻っていた。

 

 さっきのが悪い夢だったかのような感覚に襲われる。


 だが、依然として、記憶には靄がかかっている。


 思い出そうとしても、思い出せないもどかしさはまだ解消されていない。


 シェムハザが言っていた、記憶を奪ったと、


 だがいったい何のために?


 奴が最後に残した一言が気にかかる、「いずれは僕たち()()のために」


 一体全体、なんのことだかわからない。


 アイツの家族と、俺に何の関係があるというのだろうか?


 ただ、俺のできることは一つだ。


「自分の記憶を探す・・・」


 シェムハザの正体はわからない。


 それどころか、自分が何者なのかすらわからない。


 でも、進むしか道はないし。それしか俺にはできない。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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