第6話 二日目、偵察開始
一睡もできなかった。
美少女と同じ部屋で同じ空気を吸って、そして、美少女が吐いた空気を吸っていると思うと、緊張して眠れなかった……
日の光が部屋に差し込み、朝になった。
そして、俺は、眠れなかった。
原因である美少女が俺の部屋で、スヤスヤと寝息を立てて眠っている。
「まさか、女だったなんてな……」
キャスカの可愛い寝顔を見ていると、風呂場で見た光景がフラッシュバック。
なんか、恥ずかしくて顔を背けた。
……女だって知らなかったんだから、仕方ないだろう!
博人は、キャスカの寝顔に顔を戻す。
やっぱり、……可愛い。
「うん、もう起きよう」
俺は、キャスカを起こさないように静かにベッドから降りると、部屋を出て、下のリビングに向かった。
薄暗い階段を下りていくが、まだ、みんな寝てるようだ。
・
・
・
「なんか、やってるかな?」
リビングに着いた俺は、ソファーに腰かけてテレビを点けたが、放送を開始していたチャンネルは、全てテレビショッピングだったので、消した。
「ああ~、なんだよ、つまんね」
ソファーに横になる。
昨日は、いろいろあったな……
睡魔に襲われた俺は、そのまま……寝てしまった……
・
・
・
7月14日 7:40
「……ちゃん」
ん?
「…いちゃん」
んん?
「お兄ちゃん、起きて」
誰かが、俺の体をゆすっている……
「……ぅん…んん……」
いつの間にか寝ていた俺は、ゆっくりと目を開け
「!」
バッ!
目の前にキャスカの顔があったので、飛び起きた。
あれ?
「博人、そんなとこで寝ていたら、風邪ひくぞ」
食卓の方から父さんの声が聞こえた。
「……あれ? 父さん、会社は?」
母さんから、エレベーターに乗れば日本に帰れるの聞いただろ? そう思ったので聞いた。
「あのな、博人、家がこんなとこに来ちゃって、周りもどんな状況か解んない状況で、仕事になんか行けると思うか?」
呆れたように父さんが言ったが、確かにそうだ。
色んな事があって感覚がマヒしてたのか、俺?
「いいから、さっさと着替えて、朝ごはん食べちゃって」
片付かないから、早くしろと母さんから言われた。
「お兄ちゃん、あのね、今日のご飯も美味しかったから早く食べた方が良いよ!」
キャスカが嬉しそうに言ったが、食卓を見ると、何時もと同じような簡単な朝ごはんだった。
「……」
キャスカにとっては、ご馳走なのだろう……
「う、うん、キャスカ、美味しそうだね! 母さん! すぐ着替えてくるから、残しておいてよ!」
そう言った俺は、部屋へと走る。
、
「何かしら? 変な子ね」
母親の朱美は、走って行った博人の様子がおかしいなと思った。
「朱美、それじゃ、俺も用意するわ」
俊夫が言って、立ち上がると、キャスカの頭をポンと叩いて、部屋を出て行く。
キャスカは、笑顔で部屋を出て行った俊夫の後ろ姿を見ていたが……
「あの、朱美さん、僕は、何してたらいいですか?」
みんなが、行動している中、一人何もしていない自分が不安になって朱美に聞いた。
「キャスカちゃんは、テレビでも見て、休憩してて。 用意が出来たら、皆で出発するからね」
洗い物をしながら、朱美がキャスカに笑った。
「う、うん……すいません」
美味しい、ご飯を食べさせてもらって、良くしてもらっているのに、何も出来ない事に不安になるキャスカは、博人が戻ってくるのを食卓の椅子に座って待つことにしたのだが、
だだだだだっ!
「お待たせっ!」
直ぐに着替えた博人が戻ってきた。
俺は、急いで着替えを済ませて、食卓へ戻った!
キャスカに会いたかったからだ。
考え方を変えたのだ。
父さんも母さんも、キャスカの事を男の子と思っているだろう?
だから、安心して俺の部屋に、キャスカを寝泊まりさせてるんだ。
良いじゃない。
美少女と同じ部屋で寝泊まり出来るなんて最高じゃないか!
近くにいて、その声、その顔を見れる……そう、特権!
キャスカも男のフリをしてるし……
それが、みんな幸せなんじゃないだろうか!
「お兄ちゃん、何で、ニヤニヤしてるの?」
キャスカが聞いてきたが、うう、可愛い……照れて、顔を凝視出来ない。
まあ、いいさ……慣れて行こう。
「キャスカ、お兄ちゃんは、変人だからねー」
母さんが、失礼な事を言ったが、幸せ絶頂の俺であるから、許してやろう。
「いやぁー、漬物とご飯とみそ汁のみの朝食、旨いですなー!」
俺は、上機嫌で朝ごはんをいただく。
ドンッ!
「ちょと、それ、嫌み? すいませんね、こんな朝食で」
母さんが俺の前に、麦茶を入れたコップを置いて言った。
「……いえ、すいません」
俺は、素直なので謝罪と食事を手早くすました。
美少女と会話したり、ふれあいを楽しみたいからな!
異世界……最高じゃないのさ!
「キャスカ、部屋で遊ぼうぜ!」
俺が言った時、父さんが、防弾チョッキのようなものを着用し、自動小銃を手にして戻ってきた。
凄く嫌な予感しかしない。
「朱美、それじゃ、博人とキャスカ連れて、周辺の偵察に行ってくるから」
父さんが、母さんを朱美と言った。
普段は、母さんと言っているのに……顔つきも、普段の力が抜けた感じじゃない……
「って、えぇ?! 俺も行くの?!」
俺は、父さんを見ると…… にっこり笑ってくれた。
・
・
・
ブロロローー……
我が家の父上の愛車、国産軽自動車のオフロード四輪駆動車が自宅を出発した。
俺とキャスカを乗せて……
「凄い、走ってる! 俊夫さん、凄いです! お兄ちゃん、凄いよね!」
満面の笑みで言ってくるキャスカは、可愛いが……
なんで、俺とキャスカまで行かなきゃなんないんだよ!
「博人、ダッシュボード開けて」
父さんに言われて、俺は……
「と、父さん? コレって……」
ダッシュボードの中に入っていた拳銃を手にして聞いた。
「グロック 19、自動拳銃だけど?」
「そうか!グロック 19ねっ! じゃないよ、なんで、拳銃なんて……」
「博人、自分の命と、キャスカを守る時にだけ使えよ! おもちゃじゃないからな!」
厳しい口調で、父さんが……
だよな、日本じゃないんだ、使わないに越した事は無いけど、ここが、どんな場所かわからないもんな!
俺は、キャスカを見る。
キャスカは、嬉しそうに外の風景を見ていた。
俺は、拳銃に目を移し……覚悟を決めた。
いや、実際その時がきたら、ちゃんと出来るか解んないけど…… 少なくとも、頑張ろうって気持ちになったのだ。
・
・
・
自宅に残った朱美は、日本の実家へ戻り、食材などの買い出しに行くため、階段下物置内のエレベーターに乗り込み、日本へと向かった。
現金は、自宅の金庫だけで、数億円が入っているし、国内外の銀行にも数億円づつ預けてある。
俊夫と朱美が命がけで貯めた金。
ゴウゥゥゥンンンンンン……
朱美の実家 富山県 A市ーー
到着した先は、昨日と同じ、仏壇のある座敷だった。
「母さん、いるーー?」
朱美が部屋をでて、廊下を歩きながら母親を呼ぶと、母親が、奥の茶の間から出てきた。
買い物に行くのに、軽トラを借りようと朱美が口を開こうとした時、
「あんた、また来たがけ? どうせ、軽トラ貸して欲しいがやろ?」
「え? うん、そうだけど、よく解ったわね?」
自分が言い出す前に母親が軽トラの事を言ったので戸惑う朱美。
「毎回の事やからね、鍵なら、玄関の何時ものとこにあるから、好きに使われ」
「何時ものとこ?」
「……あんた、大丈夫け? 玄関の下駄箱の上やろ? 終わったら、同じとこに戻しといてくれたら良いから、後ね、ガソリン入れといて」
母親が、呆れたように言いつつ、ガソリンを入れるように言ったが、車を借りるので、元々そのつもりだ。 でも……
「う、うん、解ったけど……私、来たの昨日よね?」
「一昨日来とったねけ、なん言うとんが?」
一昨日? 一体どうなっている?
・
・
・
ショッピングセンターを目指して走る、軽トラックを運転する朱美
ここの今日は、一年後の 7月18日…… そして、私は、今日まで、実家に何度も来ている?
どういう事?
自宅の階段下のエレベーターを出発した時間と、座敷の到着の時間は、同じでは無い。
そして、今回私が来る前に私が何度か来てるって事は、座敷への到着時間の流れも一定ではなく、前後する……
昨日から、訳の解らない事ばかり……
なんで、突然、こんな事になったのが……
……誰かの意思で、私達の家が、あの世界に飛ばされた?
いや、そんな事があり得る訳が……でも、あり得ない事が昨日から……
もしも仮に、そうだとして、何の為に?
「……兎に角、買い物よ!」
考えても、答えが出ないので、俊夫に相談する事にして、私は、今回のミッション「買い物」をこなす事に集中する。
・
・
・
俊夫の運転する、オフロード四輪駆動軽自動車が、自宅を出発して森の中を走っていた。
狭くはあるが、この車が走る事が出来る……道? がある。
人の往来があるのだろうか?
「キャスカ、ここって、どこだ? 名前とかあるのか?」
運転する俊夫が、後部座席に座るキャスカに聞いた。
「ごめんなさい、僕、解らないです……」
「いや、いいんだ。 それより、キャスカが来たのこっちの方で良いんだよな?」
「は、はい。 こっちの方だと思います……あの、森を彷徨っていたので、合ってるのか……でも、太陽の方角から、この方角をずっと行けば、僕と父さんが泊まった村があるハズです」
俊夫は、村と言う言葉に反応したが、行かなくていいじゃん、引きこもろうよって思った。
「危険な生物とかは?」
そうだよ父さん、そう言う事を聞かなくちゃ。
俺は、キャスカの言葉に耳を傾ける……
「熊とか狼かな? あと、ゴブリンを見たって人が村にいましたが……」
父さんと、キャスカの会話が続くが、キャスカの言葉で昨日のがやっぱりゴブリンだったと、証明されたな!
二人だけで、会話してずるい!
俺も、キャスカと会話したい。
それに、キャスカの事も知りたいしな。
「キャスカは、今までどうしてたの?」
キャスカの方を向いて聞いてみた。
「父さんが旅の商人だったから、馬車にのって、一緒に各地を周ってたんだよ……でも」
キャスカが口ごもった。
そうだ、悪い事を聞いて、お父さんの事を思い出させてしまったようだ。
「キャスカ、お父さんの事、残念だったけど、これからは、ずっと一緒だ! 昨日言ったみたいに、俺と朱美を父親母親と思ってくれ」
黙ってるキャスカに父さんが言ったが、俺もそう思う。
よし、ここで……
「そうだよ! 俺も、弟が出来て嬉しいし! ずっと一緒に居たい」
うん。
俺は、キャスカと一緒にいたいから、「弟」 と強調して言った。
「……ありがとう、俊夫さん、博人お兄ちゃん」
キャスカが、俺の名前を始めて読んでくれたのが……嬉しい!
そんな、絆を感じた俺達一家の前に、喧嘩? いや違うだろ!
「父さん、あれって!」
俺達の目の前に、襲撃を受けている馬車が見えたのだ。
キャスカともっと、楽しいドライブだと良いのだが、何があるのか、何がいるのかわからない俺は、結構ビクビクして父さんの運転する車に乗っていた。
そんな状態で、楽しめるハズもないのだが、更に、目の前に嫌な予感しかしない状況が……
って事で、次回も、乞うご期待!