第5話 ジュリアス・キャスカ
凄い美少年が弟になった。
本人は、一体どう思っているんだろうか?
まぁ、キャスカが良かったって思えるように頑張ってみよう
荒野の向こうから迫りくる軍勢……
「お兄ちゃん……」
キャスカが心配そうに俺に声をかける……
「大丈夫だ! 兄ちゃんに任せとけ!」
俺は、怖がるキャスカに微笑むと、迫りくる軍勢を睨む!
負けないさ……
俺は、手にした剣を構える!
「キャスカ! 兄ちゃんから離れるなよ!」
「うん!」
キャスカが、俺を信頼している、俺は、この可愛い弟を……守る!
「うおおおおおーー!」
敵陣に果敢に斬りこんだ俺は、迫る敵を斬っては捨て、斬りまくった!
敵は、俺にダメージを与える事無く無残に倒されていった!
「お、お兄ちゃん! ぼ、僕も!」
キャスカが、走ってきて……ジャンプした。
そして、ジャンプして、ジャンプした!
「キャスカ! キャスカ、攻撃は、Bボタンだ!」
懸命に攻撃しようとAボタンを連打してジャンプを繰り返しているキャスカに教えてあげた。
弟とゲームをしている、俺。
晩御飯の用意が出来るまで、キャスカの相手をしろとの指令を父上から受けたからな!
キャスカは、子供だけあって、順応性が凄いね。
初めてのテレビで驚いていたのに、ゲームを開始して30分もしたら慣れたもんですよ。
俺がゲームしてるのを見て、僕もしたいって言うから、一緒に遊んでいる。
暴力で敵を倒す単純なシステムのゲームなら、解りやすいだろうと思って、一緒に協力プレイをしていた。
「うーん、難しいなぁ!」
キャスカがテレビ画面の自分が操作しているキャラクターを真剣な顔をしてみている。
まぁ、コントローラーを持つのも初めてだろうからな……
「兄ちゃんのが敵を弱らせるから、倒してごらん」
俺は、雑魚をボコって瀕死の状態にして、キャスカに託す。
「ほら、キャスカ、そこでBボタンね」
バキッ!
キャスカが無茶苦茶にBボタンを連打して、キャラクターが狂ったように攻撃モーションを繰り出していると、うまい具合に敵にヒットして、倒すことが出来た!
「やったよ! 僕、倒したよ」
キャスカが俺の方を見て笑った。
か…可愛い……いや、弟として! うん、そうだろ、俺ぇ!
「おっ、おう」
ガチャッ!
部屋のドアが開いた。
貴様……部屋に入る時は、ノックをして許可を得てからと何度言えば……
俺は、デリカシーの無い父さんを見て思ったが、言っても無駄なので、目で抗議した。
「博人、飯の前に、キャスカを風呂に入れてやってくれ」
それだけ言って、父さんがドアを閉めた。
勝手な!
「そんじゃ、キャスカ、飯の前にさっさと入っちゃおうぜ」
コントローラーを床に置いて俺が言ったが、キャスカは、ゲームに夢中。
フフフ、お子様め。
バチンッ!
「ああーーっ!」
キャスカが声を上げる。
電源を落として、強制終了させてやったのだ。
兄に勝てると思うなよ。
「ほらぁ、キャスカ、行くぞ」
「お兄ちゃん、どこに行くの?」
「だから、風呂、お風呂だよ」
キャスカが、驚いてる……
風呂って知らないのか?
「家にお風呂があるの?」
ん? 何言ってんだ? 普通だろ?
すまんが、言ってる意味が……
「この家って、お金持ちなの?」
その質問は……俺にも解らない。
昨日までの俺なら、そんな事ねぇ! って即答していただろうな。
でも、謎の多い両親や、地下の存在を知ってから、良く解らない。
「風呂ぐらい、家にあるだろ?」
「僕の家に無かったよ! 桶に水入れて、布を濡らして、体を拭いたり、川で水浴びしたりしてた」
キャスカの家って……
うん、苦労したんだね。
……いや、この世界だと、キャスカの方の感覚が正しいのだろか? いや、きっとそうだろう。
さてと……一緒に風呂に入れば、俺の変な妄想も消えよう。
箪笥から着替えを用意する。
キャスカのも俺の服だよな?
しかし、俺は、小柄と言ってもキャスカより大きいし……まっ、俺のジャージで良いか。
「おう、行くぞ」
用意の済んだ、俺が言ったが、キャスカが立とうとしない。
そんなに、ゲームしたかったのかよ……
「晩ご飯が終わったら、また、一緒に遊んでやるから、早く行くぞ!」
俺は、そう言ってキャスカを引っ張って部屋を出た。
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7月13日 16:56
風呂に到着した。
「何してんだ? ……一人で、着替えらんないのか? 小学生くらいだろうに」
素っ裸の俺が、全然脱がないキャスカに言った。
赤ちゃんじゃあるまいし手伝い無しでぬげるだろうと思うのだが……
お兄ちゃんになって数時間だし……キャスカの事なんて、まだ良く解ってないんだからな……
うん、ホントに出来ないのかもしれない。
……ここは一つ、俺の優しさで、早く打ち解けて兄弟として生活してける関係を築いていこうかい!
そんな訳で、俺は、キャスカが服を脱ぐのを手伝ってやる事にした。
「キャッ! ちょ、ちょっと止めて!」
キャスカが言って、ビクッとした。
……なんだよ? 一人で着替えられんの? せっかく優しいとこを見せてやろうと思ったのに!
「さっさと脱いで、入れよ!」
俺は、そう言って先に風呂場に入った。
頭を洗って……体を洗っても、まだ入らない……
うーーん、もう知るか。
俺は、湯船に浸かる……ふいぃぃぃ、気持ちええ。
「キャスカー、早くな」
俺は、湯船にもたれて言った。
「お兄ちゃん、……入るよ」
ったく、遅いぞ。
湯気の向こうでキャスカが、タオルで前を隠して入ってきた。
何してんだ?
ちょこんと椅子に座ったキャスカ。
桶を手に、風呂からお湯を掬って、体にかけてる。
「そうか……キャスカ、右のレバーを上に回したら、シャワーで、下に回したら蛇口からお湯が出るからな」
キャスカが恐る恐るレバーを上げると……
シャアアアアアアア……
「キャッ!」
上からお湯がキャスカにかかり、ビックリして声が出たようだ。
見てて、可愛いと思った。
初めてだろうし、ビックリしただろうな…… でも、一緒に生活するなら、慣れてかないとな。
「そんで、そいつが、シャンプー、その隣の赤いポンプに入ってるのがコンディショナーな! そっちのシャンプー少し手にとって、泡立てて髪を洗って御覧」
俺の言う通りに、キャスカがシャンプーで髪を洗った。
「目に泡が入らないようにな」
「うん」
キャスカが目をつぶって、カシャカシャ洗っている。
流す為に、シャワーを出そうとするが、うまくいかないみたいだね。
体が温まった俺が湯船からでて、シャワーを出してやった。
「そんじゃ、背中流してやるからな」
ボディーソープをボディタオルにつけて、泡立て、華奢なキャスカの背中を洗ってやる。
体のラインが……
いやいや、男だぞ!
角ばってなくて丸いね。
いやいや……綺麗にしてやるからな!
「痛くないか?」
俺が聞くが、キャスカが黙って頭を振った。
「よーし、終わり! 前は自分で出来るだろう? 俺、のぼせちゃうから、出るぞ」
「あ、ありがとう」
俺は、キャスカにタオルを渡して、手についた泡を洗い流して、風呂を出た。
キャスカは、博人が脱衣所に行ったのを確認した。
「……もう、恥ずかしくって死にそう……」
真っ赤な顔でキャスカが言って、( 微妙に、ほんの僅かに、目を凝らして言われて見てみれば、そんな気がするくらいの )膨らみかけの胸を見られるなくて良かったと思った。
「凄いなぁ、このレバーを動かすだけで、お湯が出るんだから……不思議な家」
笑顔で、レバーを動かし、シャワーで体に着いた泡を洗い流すと、キャスカは、湯船へと……
ガララ……
「キャスカ、ちゃんと肩までつかるんだぞ」
「キャアア」
いきなりドアを開けて言った博人に驚いて、湯船に飛び込むキャスカ!
「……何やってんの、お前? ちゃんと、100まで数えてから出ろよ」
そう言って、博人は、ドアを閉めた。
「……ばか」
ブクブクと湯船に口元まで浸かってキャスカが言った。
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風呂を上がった俺は、心臓がバクバクしている。
平静を装ったが……
美少年と思っていたが……まさかの……
「おう、博人、風呂あがったの? そんじゃ、俺も入ろっかな」
父さんが、言っ
「うわあああ、ちょちょちょ、ダメだよぉ、お父様! まだ、キャスカが入ってるから!」
慌てて、阻止する俺!
「んん? 別にいいじゃん、男同士だし」
「ダメだよ! 色々あったキャスカなんだから、風呂くらいゆっくり入らせてやろうよ!」
俺は、もう、あれだ、必死に言った!
「……」
父さんが、俺をジッと見ている。
「キャスカー! 終わったら、次、俺入るから知らせてくれー!」
そう言って、引き返していった……
助かった。
廊下に座り込む俺。
しかし……キャスカが、女だったなんて……
しかも、美少女。
「……不味いんじゃないか?」
ただでさえ、両親に薄い本の件で疑いの目があるのに、美少女と風呂に入ったってバレたら……
何もしてないのに、何かしたと思われたら!
「どうしたら、いいんだぁ!」
「あ、あの、何が?」
キャスカが俺に言った。
「うおわっ!」
目の前にキャスカの顔があって、ビビった……
なんだよ、風呂上りで可愛いじゃんかよ!
「い、……いや、何でもない! そうだ、父さん。 父さんに、風呂空いたって、ハハ… 言ってくる!」
俺は、ダッシュでリビングへ逃げた。
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ジュリアス・キャスカ 14歳
小柄で、ショートカットの為、男の子に見えるが、女の子である。
盗賊によって殺された父親が、キャスカの身を男から守るため、男の子のような姿をさせて旅をしていたのだ。
貧しく、皆が生きるのに必死なこの世界の価値観。
自分の身は自分で守らなければならない。
奪う者が悪いわけではない。
奪われる弱い者が悪いのだ。
キャスカの父親は、理不尽な暴力によって、殺された。
悲しかった。
悔しかった。
そして、生きたかった。
キャスカに、逃げろと言った父親。
弱者は、生きている事が勝利。
奪われない事が、弱者が残酷な世界に贖う唯一の事……
父親を見捨てて逃げたキャスカに罪悪感は無い。
自分が生きる事こそが、奪われなかった父の勝利なのだから……
キャスカは、森を彷徨った。
生きなければ、父の死が無駄になる……
「……家?」
キャスカが倒れそうになりながら、見上げた先に見えたのが、養父母になってくれると言ってくれた町田の家だった。
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「何、コレ? 美味しいぃぃぃーー! 朱美さん凄いです!」
キャスカが、母さんの作ってくれた晩御飯のハンバーグを頬張って言った。
「ウフフ、ありがとね、キャスカ。 いっぱい食べてね」
料理を褒められた母さんが上機嫌になって……
俺は、砂を噛んでるように味が……
ヤバい。
可愛い。
好きに……
いやいや!
なんで、家族に……くそっ!
「博人、どうしたの? 美味しくなかった?」
「ん? いや、旨いよ! 母さんの料理は、最高さ! ねぇ、父さん!」
「ゲフッ」
ビールを飲む父さんがゲップで答えてくれた。
うん! この野郎!
こうして、楽しい晩御飯が終わった!
そして!
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キャスカが、俺の部屋に布団をひいて隣で寝てる。
ベッドと床で高低差があるが……
すぐそこに……
緊張して、眠れぬ!
そして、キャスカが女だって言うタイミングを逸した。
完全に逸した。
今、両親に言ってみろ、キャスカを襲ったから解ったんだな! って言われるか、寝る時まで……黙ってたんだぁ? って言われるに決まってる!
男同士だと思ってた時は、自制できましたが……って、しないよ!
俺は、何を考えて!
そうだ! 考えるからダメなんだよ!
俺は、今、一人で、部屋にいます!
ほら、平気! 大丈夫!
出来るか!
気になるよ!
結局、博人は朝まで起きている事となるのだった……
風呂場で、キャスカが湯船に入ろうとした時に見てしまった。
一瞬だけど……確かにキャスカは、……女だった。
風呂の後、直ぐに言えば良かった!
……時間と共に、言いにくく……
って事で、次回も、乞うご期待!