第4話 家庭の事情
異世界にいたのに、日本に着きました。
……なんで?
そして、ここって……
蝉の音、風鈴が揺れ、俺の前髪を揺らす。
母さんの実家、富山のばあちゃんの家。
縁台に座り、遠くに見える田んぼの向こうの山をボケっと見ている。
さっきまでが、嘘のようにゆっくりした時間が流れる……
「博人」
俺を呼ぶ声に振り向くと、ばあちゃんと母さんがいた。
スイカを切って持ってきてくれたようだ。
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異世界の町田宅ーー
博人の父、俊夫の前に、金髪の柔らかそうな髪の少年? 子供が食卓の椅子に座ってジュースを飲んでいた。
「どうだ、落ち着いたか?」
ジュースを与えた俊夫が聞いた。
最初に比べて、見た感じ幾分落ち着いて見える……
「おじさん、これ、凄く甘くて美味しいよ!」
眩しい笑顔で言った少年? に、質問と答えが違うと思いつつ、尋問を開始する。
「それじゃ、質問だ。
おじさんの名前は、町田 俊夫。 君の名前を、教えてくれるかな?」
俊夫は、子供の目線に腰を落として聞いた。
子供が、ゴクゴクとジュースを飲んで……よっぽど、喉が渇いたてたんだな……
「……僕は、ジュリアス・キャスカ」
キャスカと言うこの子が小さな声で言った……
小学生くらいかな?
「キャスカ、どうして、一人でいたの?」
「ううん、父さんと一緒にいたの」
父親といた?
「お父さんは?」
俊夫が聞くと……
「お父さん……うっ!」
どうした?
キャスカが嘔吐した……
「おいっ! 大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……汚しちゃった……」
「いや、良いから……どうしたんだ?」
「お、お父さんが、刺されて……早く逃げろって……」
キャスカが混乱しながら話すが……
呼吸が荒く……
「……ヒッ…ヒッ……」
過呼吸気味に……
バッ!
「キャスカッ! 安心しろ、ここは、安全だ!」
俊夫が、吐瀉物で汚れているキャスカを抱きしめる。
俊夫には、キャスカの詳細は分からない。
だけど、子供が精いっぱい頑張って伝えようとした事、それが俊夫には、伝わった。
辛い記憶なのだろう。
どんなに不安だったか、どんなに心細かったか……
「キャスカ、お父さんが……刺されたのって何時だ?」
「……き、昨日」
「そうか……」
この子は、それから、一人で……
「キャスカ、お母さんとか、他に家族は?」
この子を家族の元へ連れて行ってやろうと俊夫は思った。
「ううん、居ないよ、僕には、父さんだけ……」
「うん……そうか」
俊夫は、キャスカを強く抱きしめた。
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朱美の実家ーー
「やっぱり、夏は、スイカにかぎりますな!」
俺は、ばあちゃんの畑で取れた新鮮なスイカに舌鼓をうつ。
「あんたら、今まで、何処に行っとたがけ? 警察やら、役場の人が来て、町田の家が爆発して一家が行方不明や言うて来とったがやよ」
訛りが酷いばあちゃんの言葉……やっぱ、富山だな。
「なん言うとんがけ、母さん、私も、博人も生きとるやろ? それに旦那も無事やちゃ」
ばあちゃんと会話する母さんは、富山弁になる……
ちゃんとした日本語で会話してほしいものだ、
「……ん?」
俺達が、異世界に行ったのってさっきだよね?
警察や役場の人がばあちゃんちに連絡してきたって……早すぎない?
「ばあちゃん、今日って何日?」
「今日? えっと、何日やったかね? ちょっと、まっとられ、新聞持ってくるから」
ばあちゃんが新聞を取りに行った。
「お父さん、大丈夫かしら……」
母さんが言ったが、確かに……
「お、俺、電話してみるよ」
ポケットからスマホを取り出して、電話をかけた。
向こうで、テレビも映ったんだ。
電波とおってんだろ?
呼び出し音が流れる。
ホントに、繋がるのか?
不安になる……
『おう、博人、どうした?』
父さんの声……って!
「どうした? じゃないよ! 父さん、無事なの?」
『おう、大丈夫だった。 インターフォン押したのキャスカだった。 適当にいじってる内に押しちゃったみたいだな……そんな事より、お前のゲーム機電源入れるのどうするんだ?』
キャスカ? てか、ゲーム機?!
「父さん、俺の部屋に入ってるの!」
『うん、そうだよ。 それで、これどうやるんだ?』
なんで、俺の部屋にいるんだよ! 思春期の子供の部屋は、秘密が一杯なのに!
俺は、電話を切った。
「母さん、俺、ちょっと戻るから!」
「は? えっ、ちょっと、博人!」
博人は、ダッシュで仏壇のある部屋に戻ると、押し入れの襖を開けるとエレベーターになっていた。
「どうなって……いや、今は、急ぐ!」
博人は、異世界の自宅を戻る為に1Fを押した。
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「あれ、博人は?」
ばあちゃんが縁台にもどると、朱美が一人でいた。
「なんか知らんけど、飛んでったわ」
「そうなが? せっかく新聞持ってきたがやけどね」
ばあちゃんが手にしていた新聞の日付は、8月13日。
「母さん、私もいくわ。 スイカありがとね、美味しかった」
「ええぇ、もう行くが? あんたら、何しに来たが? ……あんたが、死ぬわけない思とったけど……無事で、良かったわ」
母親の言葉に、笑顔で返した朱美は、仏壇のある座敷へと入って行った。
「はぁ? あんた、どこ行くがけ? 玄関そっちじゃないよ」
ばあちゃんが朱美を追って仏壇のある座敷に行くが……そこに、朱美の姿は無かった。
「子供じゃないがやから、隠れとらんと」
ガラッ!
ばあちゃんが、押し入れを開けるが、普通に、座布団や布団が収納されている、押し入れだった……
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「父さん! 勝手に部屋に入るなよっ!」
激しくドアを開けて、俺は、自分の部屋に入ると、ビクッとした子供がいた。
「え? あ……、なに?」
子供が、俺に言ったけど、俺が、なに? だよ……てか、父さんは?
「えっと、父さんは?」
俺の部屋にいた子供に聞いた。
「あ、あの、掃除してくるって……」
子供が、申し訳なさそうに俯いて答えた……着てるの、俺の服だよね?
「そ、そう。 君、だれ?」
「僕は、ジュリアス・キャスカ……お、お兄ちゃんは?」
うっ、可愛い……
上目遣いで聞いてきた、この子にドキッとし……いやいやいや! 男の子でしょ?!
「お、俺は、町田 博人……」
思わず目を反らして答える。
いや、可笑しい! 俺は、美少女が好きであって、美少年が好きな訳じゃない!
よし……
博人は、キャスカを見た。
「天使か!」
思った事が声に出ていた。
「はぁ?」
キャスカが、首をかしげて可愛いが、変な奴と思われてしまう!
「天真爛漫か? と言ったのだ!」
俺は、言い直した。
うん。
俺は、正常だ。
いや、初対面の子供に天真爛漫か? と聞くのもどうかと思うが……
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リビングーー
俊夫は、キャスカを着替えさせてから、吐瀉物の掃除の間、遊ばせる為に息子のゲーム機の電源を入れようと思ったが……
結局、電源の入れ方が解らないので、キャスカを博人の部屋に置いて、自分は、吐瀉物の掃除をしに下に降りていた。
「お父さん、何してるの?」
一所懸命、掃除する俊夫に朱美が聞いた。
「お、母さん、掃除が終わったら呼びに行こうと思ってたんだけど」
俊夫が立ち上がり、キャスカの事を説明した。
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「でも、どうするの?」
見ず知らずの子供を保護して……呆れたように朱美が言った。
「……一緒に住もうと思うけど」
ごにょごにょと言った俊夫。
「一緒にって……」
日本に帰る事が出来るのを知った朱美である。
当然の困惑。
ドスドスドス……
その時、二階から階段を降りてくる足音がした。
「父さん! 部屋に勝手に入らないでって言ってるでしょう!」
博人が抗議の声を上げた。
その後ろに隠れるようにキャスカがいる。
俊夫は、キャスカの傍に行き、肩に手を置いて、朱美を見る……
「朱美……、キャスカは、お父さんが殺されちゃったんだよ」
「もう、アフガンでも、孤児をいっぱい見た……で……しょう……」
朱美がキャスカを、ジッと見……
「いやーーん、可愛いーー!」
朱美が、俊夫を突き飛ばして、キャスカに抱き着く!
キャスカは、何事か戸惑っているようだ。
「キャスカちゃん! 私の事、ママだと思ってね!」
キャスカを抱きしめる母さん!
その変わり身にも驚くが……アフガンの孤児って、言ったよね?
ホントに、何者なの?!
「母さん! いろいろと何を言って……」
「だろう! 天使みたいに可愛いだろう!」
俺の声に被せるように父さんが、言っ……貴様も、何を言い出す!
……天使みたいに、可愛いのは、否定しないがな!
でも……
「二人とも、何を言って……」
そうだよ、いくら可愛いからと言って犬猫を飼う訳じゃないんだよ! 俺は、毅然と言ってや
「お兄ちゃん、苦しいよ」
母さんに抱きしめられて、俺のキャスカが苦しそうじゃないか!
「ちょっと、母さん! キャスカが苦しそうだよ!」
俺は、母さんに注意した!
……それだけ、単にそれだけだよな……なのに!
「フフフ、博人ったら、さっそくお兄ちゃんぶって」
「良かったな博人、弟が出来て!」
夫婦そろって……
まぁ、……正直、悪い気がしないでもないって気持ちも……あるな。
フフフ、俺も、お兄ちゃんか……
「お兄ちゃん、この子たち、なんで裸なの?」
キャスカが手にした俺の薄い本を俺に向けて聞いてきた。
「……」
うん。
勝手に人の部屋の物を持ち出さないで欲しいと思った。
そして、両親の不安そうな視線!
……
キャアアアアアアアアアアアアーーーー!!!
やめて! なんの罰ゲームなの?!
「ハハハ……」
俺は、乾いた笑いをして、キャスカから、コレクションをひったくると、部屋に走って行ったのだった。
……そんな訳で、俺は、ダメージを受け、異世界で弟が出来た。
弟? が出来た。
一人っ子だったので、嬉しい!
嬉しいのだが、良いのか? いや、異世界だから、良いのか?
でも……日本に帰ったらどうするんだろう……
って事で、次回も、乞うご期待!