第31話 二人の想い
もうすぐ到着のハズ……
まだか? まだなのか?
俺の尻が限界に近い!
まだならまだで、休憩を!
エスタディス国 カウル地方 町田家跡ーー
瓦礫の中から、使えそうな物が無いかを探す朱美とキャスカ。
ブロロローー……
遠くにエンジン音が聞こえた。
その音は、外で瓦礫の整理をしていたキャスカと朱美の耳にも聞こえた。
「朱美さん!」
顔を上げたキャスカが言うと、朱美も顔をあげていた。
「うん、あの音は…… きた!」
音のする方を見ていた朱美が指を指したその先に、小さく白い軽トラックの姿が!
博人達が帰ってきたのだ。
「キャスカちゃん、行こう!」
手にした瓦礫を放り投げて朱美とキャスカが駆けだした!
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軽トラックの荷台に座る博人ーー
車の振動で、俺の尻は限界だ。
2時間交代と言ってもキツイ。
ウィズの奴、良く昨日一日こんなとこで頑張ったもんだな?
次の交代まで、あとどれくらいなんだろう?
「くそーー、もう、2時間過ぎてんじゃない?」
俺が、疲労と苦痛を感じながら時間を確認しようとスマホを取り出そうとした時、車が停車した。
予期してなかった俺は、バランスを崩しそうになったが、とっさに置いてある荷物に掴まる事で転倒を免れた。
「どうしたんだろ? ……もしかして、到着したのか?」
俺が、そう思うと同時に、ドアが開く音が聞こえた。
って事は、もう、立ち上がって良いのか?
軽トラの荷台は、幌に覆われているので外の様子がうかがえない。
下手に立ち上がって車が動き出したら転倒などの危険があるし……
でも、先程ドアが開く音が聞こえたって事は、立ち上がって良いよな?
ゆっくりと立ち上がろうとした時、
「わっ! 眩しいっ!」
突然暗い荷台に日の光が差し込んだので、俺は、驚いて手を顔の前にもってくる。
荷台の後ろの幌を誰かがあけたのだが、あの逆光のシルエットは!
「お兄ちゃん!」
やっぱり!
キャスカの声がした!
俺の目の前に、キャスカがいる…… ホントにお前なのか?
幌がとじて暗くなった。
荷台に乗り込んできたキャスカが俺の前に座る。
俺の、キャスカが……すぐ傍にいて、生きてて……
言葉が出ない。
手を伸ばせば届くのに、手を握る事すらも出来ない。
体が硬直している。
「……キャスカ、……ただいま」
必死に絞り出した俺の口から出たのは、なんて事ない挨拶の言葉。
言いたい事、伝えたい事、想いが溢れているのに何してるんだ、俺!
キャスカに伝えるんだ俺の想いを、だけど、キャスカが無事で、目の前に居て、それだけで、俺は……
「お兄ちゃん?」
キャスカの言葉が聞こえたと思ったら、俺の頭を暖かい手で抱きしめられた。
「どうしたの? なぜ? 何処か怪我して痛いの?」
キャスカに言われて気づいた。
俺は、泣いていたのだ。
一年前、キャスカが死んだと思って絶望して、誰かを恨む事でやってこれて、辛くて、忘れられなくて、色んな思いや感情が入り乱れて……でも、今は、守りたい女性に抱かれてて……
いや、どうだって良いんだ……
ただ、良かった。
キャスカが生きていてくれたのが、嬉しい。
「……ううん、どこも、怪我してない ……会いたかった」
キャスカの手が俺の頭を撫でてくれる。
何か、全て報われた気がした。
時間が止まって、このままずっとこうしていたい。
「……博人、お帰りなさい」
キャスカの優しい声が、俺の鼓膜を通り全身に染み渡る。
幸せだ。
今の俺は、泣いてて、情けなくて、カッコ悪いのだろう。
だけど、良いんだ、キャスカが生きていてくれているのだから。
博人は、キャスカの胸の中で泣いた。
自分でもわからないが、涙が後から後から出てくるのだ。
そして、キャスカもそんな博人を愛おしく思った。
トクン……
キャスカの奥底から感情が意識を奪う。
「また、一緒だね」
キャスカ? あ、ああ、そうだ、一緒だよ。
ずっと一緒に居よう。
俺は、顔を上げてキャスカの顔を見たが、焦点があってないような……?
ズキン……
あっ……頭が……
一瞬頭を押さえた博人だったが、笑顔でキャスカに向き合った。
「うん、今回も一緒だね。 僕は、カネ子ちゃんとの約束を守る為にきたよ」
……は? 俺は、何を言って?
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
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燃え盛る街に、俺はいた。
手には、軍刀が握られている……
そうだ、今は、戦いの最中だった!
俺は、何を……
「憲兵さん!」
声がした方を見ると、腹を押さえて倒れている米兵の隣に、カネ子ちゃんが俺の方を心配そうに見ていた。
「大丈夫! カネ子ちゃんを、お嫁にもらうまでは、死なないからね!」
俺は、言って軍刀を握る手に力を込めた!
目の前の敵を倒して、日本に戻る!
世界がどうなろうと知るか! カネ子ちゃんと所帯をもって、幸せに暮らすんだ!
憲兵姿の男の前に立つのは、異形の戦士。
彼もまた、自分の元居た世界を守る為、そして、その地へ帰還する為に戦う者である。
戦いは、熾烈を極めた。
俺は腕を失い、傷つきながらも敵に損傷を与えた。
敵は、俺なんかより遥かに強かった。
だけど、俺には、守るべき者がいたから実力以上の戦いが出来たのだろう。
互いに満身創痍。
だが、俺は、もう駄目だった。
目がかすむ。
最後に……
「……カネ子ちゃん」
戦いの最中に俺は、敵に背を向けた。
もう、動けない……最後は、愛する女の顔をみて死のう。
ドスッ!
敵の槍が俺の腹を突き破った。
「ガハッ!」
真っ赤な血が俺の腹と口から吐き出される。
「憲兵さん!」
カネ子ちゃんの声が……
ガッ!
俺は、軍刀を捨てて腹から出ている槍を掴んだ!
「こ、この、死にぞこないが! 放せ!」
後ろから、敵の声が聞こえたが……離すかよ……
カネ子ちゃん……
「今だ! 殺れっ! カネ子!!」
俺は、最後の力を振り絞って叫んだ!
「うわあああああぁぁぁぁ!!」
叫ぶカネ子に気づいた敵が、槍から手を離した時には、竹槍が喉へと突き立てられていた!
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「憲兵さん! やったよ、勝ったよ!」
カネ子ちゃんの声が聞こえた。
敵が倒れている。
竹槍……
カネ子ちゃん、頑張ったね。
「カ……カネ子ちゃん…… か、帰ったら……一緒に……」
カネ子ちゃんの涙が俺の顔に当たった。
抱きしめてくれてるんだね?
ごめん、もう、顔も良く見えないんだ……
「徳次郎さん、徳次郎さん、私をお嫁さんにもらってくれるんでしょ? 死なないで! 死なないで! やだ、やだ、やだよ!」
ごめんね、カネ子ちゃん……泣かない……で……
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俺の目の前には、キャスカが泣いていた。
姿形は違うが、カネ子ちゃんがだぶって見えた。
……そうか、お前……
「……徳次郎さん」
キャスカが俺に抱き着いて、俺も、キャスカを抱きしめていた。
「待たせて、ごめん……」
「……もう、先に逝かないでね」
ズキン……
「うっ!」
頭痛がして、俺は、俺の意識を取り戻す。
いや、正確には俺の意識はずっとあったのだが、俯瞰で映像を見ているような状態だった。
前世の記憶か何か知らないが……
俺達は、その時、確かにカネ子ちゃんと徳次郎さんだった。
二人の想いが、俺達の体を使って……
そうだよな。
カネ子ちゃんの想いも、徳次郎さんの想いも全部俺とキャスカは引き継いで、絶対に幸せにならないといけないんだ。
キャスカを見ると、キャスカも同じ思いでいるのだろうと感じた。
俺の勘違いじゃなければな。
どうであろうと、俺は、キャスカの事が……
「キャスカ……」
「博人……」
俺達は、見つめ合う、そして口づけを……
「博人にキャスカ、何してんだ、早く降りろーー」
「わっ!」
「きゃっ!」
父さんの声に、ビクッとして、俺とキャスカが思わず離れた!
日の光に俺とキャスカが照らされ、開いた幌の方を見ると、父さんが幌を開けてこっちを見て呆れたような顔をしている。
俺とキャスカは、顔を見合わせて……笑った。
「何、笑ってるんだよ、さっさと降りて母さんに顔を見せてやれ」
「うん、行こう、キャスカ」
俺は、キャスカに手を差し出す。
「うん!」
キャスカが俺の手を握ってくれた。
俺は、帰ってきたのだ。
家族の元へ、そして、愛する人の元へ。
俺とキャスカは、前世からの因縁があった。
だから、強く惹かれたのか?
……どうでも良い。
俺は、キャスカが好きだ。 これまでも、これからも!
それだけの話だ。
って事で、次回も、乞うご期待!




