第3話 来客と実家
両親が漫画みたいな事を言い出した。
俺も、漫画みたいな事を言ったけど……
電気も水も使えるし……これが、チートって奴ですか?
……しかし、ホントにここは、どこですか?
父さんと母さんが、政府のエージェントとしてスパイを始末している事、そして、普通の建売物件と思っていた、この家が、地下15階もある特殊な家である事、そして、ここは異世界だろうと言う事……
もう色んな事がありすぎて、処理しきれないよ!
「父さん、母さん……正直、俺は、頭が混乱してるし、不安でいっぱいだけど……
でも、非常事態の今、二人が居てくれて、とても心強いよ!」
博人は顔を上げて言った。
確かに、混乱したと言ったが……実のところ、電気も水もなぜか使用可能である事もあり、そこまでの不安は、正直……ない。
……しかも、地下15階? シェルターって事は、食糧や水の備蓄もバッチリって事だろ?
仮に電気水道がつながって無くても、最初から心配が無かったって事じゃないか!
「どうしたの博人? 笑って、気持ち悪いわよ」
母さんに言われて気づいたが、俺は、笑っていたようだ。
危ない、危ない……
そりゃ、笑えるってもんですよ。
だって、最強の用心棒(両親)に守られながら、家でダラダラと過ごせるんだからな!
素晴らしい! もう、勉強しなくて良いいじゃないか! ……夢のニート生活の始まりだね!
博人は、楽な事が好きだった。
「……どうせ、碌な事考えて無いんでしょ?」
「いや、母さん……エヘヘ」
俺の考えが読まれた?! 少し焦って、愛想笑いをしてみた。
「母さん、ヒロシの奴、また、小さな女の子の事を……」
父さんが、心底心配した感じで、母さんに耳打ちしている。
うん、そう言うの傷つくから、ホントに!
「何度も言うけど、父さん、あの作品の登場人物は、成人だから! てか、忘れてよ!」
俺は、父親からの精神攻撃によって、ダメージをおったが、これ以上傷口を広げない為にも、報告事項を両親に伝えよう。
「父さん、母さん、電気も水道も使えるんだよ!」
親を安心させるために、笑顔で教えてあげた。
テレビと水道で実証済み!
うん。
「なんじゃ、その顔!」
両親が、キョトンとしていたので、思わず口にしてしまった。
「ハハハ、博人、大丈夫か?」
父さん?
「もう、博人ったら! フフフ」
母さん?
もう! 何なの、この人達!
「博人、ちゃんと、電気も水道も滞納せずに支払っています。 フフフ、今まで、そんな事心配した事無かったのに、変な子ね」
「そうだぞ、博人、ちゃんと引き落としになってるからな!」
頼もしい両親。
うん、それなら、止められる事もない、安心だ!
「違うだろっ!」
博人が、地団太を踏んだ!
「……どうしちゃったのかしら、この子?」
「思春期だから、情緒不安定なのか? 博人?」
朱美も俊夫も心配した。
心配した。 じゃねぇぇぇぇーー!
「外見てよ! 電線も無いし、繋がってないのに使えるの可笑しいでしょ?!」
俺は、外を指さして言った!
「博人、電気や、水道が使えたら、困るのか?」
は?
父さんが聞いてきたけど……
「え? そんなの、困らないよ、むしろ、ありがたいけど……」
「じゃぁ、良いんじゃないの? ねぇ、お父さん」
「ああ、まったくだ、母さん」
朱美も俊夫も呆れたように言った。
そっかー、母さん、僕ったら、てへっ!
……とでも?
「そんな事言ってんじゃねぇーーよ!」
「ん? 博人、発狂か?」
俊夫が冷静に言って、博人がキレそうになった、その時!
ピンポーーン!!
家のチャイムが鳴った……
俺達家族に緊張が走る……
ここは、森の中のハズ、誰だ?
「お父さん、博人をからかってる場合じゃないわよ!」
「ああ、母さんは、博人と一緒に、ここにいて! 俺が出る」
父さんと母さんの顔つきが先程と別人のように変わっ……って、こんな時に、俺をからかっていたのか!
フンガー!
「からかって、酷いよ!」
憤慨した俺が言った!
「だって、博人が、漫画みたいな事を言うから、お父さんが調子に乗って」
母さんが少し笑った。
なんだよ、今までの話冗談か!
……ん? じゃぁなぜ、銃もってんの?
いや! 今は、そんな事より……今は、父さんが心配だ!
俺は、父さんの様子を見た。
テーブルに置いていた拳銃を握ると、父さんは、ゆっくり玄関の方へと向かって歩いて行こうとしてた……
「父さん、大丈夫?!」
父さんの背中に言うと、父さんは、俺の方を見て、安心しろと笑ってくれた。
日本にいた時は、ずぼらで、ダラシ無くて、どうしようもないって正直思ってたの
に……今は、凄く頼もしいよ、父さん!
「博人、ここが異世界なのか未来の地球なのか知らないけど、なんとかして日本に戻るからね! だから、戻るまで私達は、死ぬ訳にはいかないの! 来なさい!」
そう言って、母さんが、俺の手を引いて走った。
……父さん、無事でいて!
リビングから見えるニ階への階段の下にある物置の奥に、地下へのエレベーターがあった。
「……知らなかった、こんなのがあったなんて」
今まで、家に、こんなのがあるなんて、知らなかった……
俺は、驚い……ん?
「さっき父さんが、指差したとこにあったのは?」
「単なる床下収納よ、アンタをからかっただけ! 急ぐわよ!」
夫婦そろって……二人の言葉がどこまで本当なのか疑わしくなる……
疑問を持ちつつも、母さんについてエレベーターに乗り込んだ!
「お父さんに任せれば、大丈夫だから……」
母さんが、自分に言い聞かせるように呟きながらボタンを操作すると、俺達を乗せたエレベーターが動き出す……
ゴウゥゥゥンンンンンン……
「母さん、どこまで行くの?」
扉の横にある操作パネルの上に表示された数字を見ながら言った。
どんどん数字が増えて行く……
「一番下の地下4階よ」
母さんが言っ……15階って嘘か!
地下4階まであるってのも確かにすごいんですけど!
父さんと母さんの話ってどこまでホントなの?
全部?
全部じゃないよね?
なんか、だんだん、どうでも良くなってきた……
ん?
「母さん、B5ってボタンが光ってるけど? 4階じゃなくて、5階に向かってんじゃない?」
母さんが驚いたように俺の方を見た。
「そんなハズ無いわよ、地下4階までしかないんだから!」
博人に言った、朱美が操作パネルを確認すると、確かに「B5」が選択されていた。
「……なんで? どういう事!」
「いや、解んないよ、そもそもエレベーターの存在を知ったの今だし……」
母さんが驚いている内に、地下5階へと到達した。
チンッ
扉が、ゆっくりと開く……
・
・
・
俊夫は、父親として、夫として、家族である、妻を息子を守る為、一人、玄関へと向かっていた。
チャイムを鳴らしたのは誰だ?
敵か?
朝から、訳の解らない事ばかり……
何が起こるか解らないこの状況、朱美と博人の避難は、完了しただろうか?
……まぁ、朱美に任せておけば安心か!
俊夫が玄関の前に立った……
唾を飲む。
呼吸を整える。
このドアは、防弾扉になっているので、少々の攻撃には耐えれるが……
俊夫は扉に向け、両手で銃を構えた。
「……誰だ? 何か、家にようか?」
ゆっくりと、聞き取りやすいよう意識して喋る俊夫。
何時でも発砲出来る状態。
「ひゃうっ! ……あっ、あの、ボク、道に迷って、家があったから」
子供の声?
こんな森の中に?
インターホンを押したと言うことは、その存在を知っているって思っていいのか?
解らない……
声の感じから、敵意は感じないが……
……考えても仕方ない……行くか?
「こちらは、武器を所持している! 今から、扉を開けるから、扉から離れて立て! 何かしたら、躊躇なく攻撃する!」
そう言いつつドアについているレンズから外の様子を伺う俊夫……
……子供?
まさか?
罠か?
「……」
ドンッ!
ドアをけり開けて銃を突き出した俊夫!
「わわわわ!」
目の前にいた子供は、突然、ドアが開いた事に驚いて、尻もちをついた。
「他に人は?」
目を左右に動かしながら聞いた!
「い、いません、僕だけです」
子供が言ったが、答えを聞く前に素早く周囲を確認した俊夫は、銃を降ろすことなく、子供を見る。
金髪、目が青い。
会話が出来ている……言語が同じ?
シャツに短パン……
そんな、軽装で森の中で迷った?
怯えた感じ……
「中に入れ!」
俊夫は、目の前のこの子を家の中に入るように言った。
尋問するにしても、罠の可能性を考え、家の中の方が安全と判断したのだ。
「あ、ありがとう! おじさん」
子供が、嬉しそうに家に入ると、俊夫は、玄関の扉の鍵をかけた。
「ああ、靴脱いで、中に入ってね」
子供が靴のままでいたので、注意した。
どうやら、自分は、突然の周囲の環境の変化があった事で、知らず知らずの内に慌てていたようだ。
なぜなら……
カメラ付きインターホンを使用すれば、安全に確認と尋問が出来たんじゃないか……
俊夫は、何処か抜けている人物である。
・
・
・
エレベーターの俊夫達ーー
扉が開いた。
俺の目の前には……
「……ここって?」
言った俺の目の前に大きな仏壇があった。
……見覚えがある。
「ここって、私の……」
母さんが言った。
そうだよ、ここって、ばあちゃん家だ。
仏壇に近寄ると、じいちゃんの写真があった!
座敷を出て廊下に出てみたが、外の風景も……ばあちゃん家で間違いないよ!
やっぱり、ここは、日本だ!
「か、帰れた……」
へなへなと体の力が抜け座り込む。
夢のニート生活は、なくなったけどな……
「朱美! 博人! あんたら……生きとったがやね!」
声がした方を見ると、ばあちゃんが立っていた。
家のエレベーターに乗ったら、母さんの実家に着いた。
日本に戻れた。
やったー!
……って、どう言う事?!
そして、町田家に訪れた子供は一体?
って事で、次回も、乞うご期待!