第26話 理不尽は残酷で唐突だ
ウィズの家で父さんが……
いや、俺まで巻き込まないで!
どうなっちゃうんだよ、これから?!
我が家の家宝が粉々に……
割れた壺を、見ている儂の表情はどうなっているのじゃろう……
カバルは、何とも言えない表情でいた。
「息子の博人も雇ってもらおうか!」
孫のウィズが大魔導士だと言うから、眉唾もので家に呼んだ男が言った。
こいつは、たった今、詠唱無くして魔法によって家宝のツボを躊躇なく割った……
確かに……魔導士としては一流と言えるのだろう。
……だけど、もっと他の物を破壊してくれたら良かったのに。
確かに、お前らの失礼な態度に怒った息子のシャルザがナイフを取り出したけどさぁ……
家宝の壺をぶっ壊されて、泣きそうな気持ちでいたが、……儂は顔に出さない。
舐められたら、ダメですから!
……貴様の思うようにさせてたまりますかってんだ!
「息子を雇う……それは、お前次第じゃ」
儂、カバルが魔導士である俊夫とか言う不審者に毅然と言い放つ……何で、こやつの息子まで雇わねばならぬ?
……確かに儂は、孫のウィズに魔導士の息子も連れてくるように言ったけど……それは、本当にこの男が大魔導士だった場合、反抗出来ないようにに人質として活用しようと思ったからであって、雇う為などではないから! でも、魔導士に逆らって殺されたりしたら……
……息子達も、空想の産物と思われていた魔法を現実に目にして驚き慄いているのが伝わってくるし、儂も怖い。
適当に、お前次第じゃなどと言ったが……どうしよう? 確かに……この男、有能である事に間違いは無いから提案を飲むか? いや、しかし……
カバルは、ごちゃごちゃと考えたが……結局、俊夫の提案を飲み、雇う事を決めた……息子の博人ってガキの方は、孫の遊び相手として雇うことに決めた。
父さんが、ウィズの爺さんに雇われた。
そして、なぜか俺までが雇われる事に……しかし……
ふざけんなよ! キャスカと離れて単身赴任なんて出来ますかってんだ!
「父さん、働くのは良いよ。
でもね、住み込みは、ごめんだ! 事情がある……」
俺は父さんに言った。
「だよね、遊びに来るの全然かまわないから、お父さんに会いに来なさい」
ウィズの爺さんが俺の言葉に食いついてきて言ってくれた。
なんか、俺の為にって訳じゃなさそうだけど……助かる!
「なんだよ、俺ばっか、損じゃん! じゃぁさ、朱美がこっちに来て、お前がキャスカと自宅に居ればいいじゃん」
父さんが、凄く本音を吐いて俺に言ってきた……
何なの? 父親の威厳とか……気にしないんだ?
……だが、
「うん! それが良いよ! 夫婦は一緒に居る方が良いからね!」
俺は、すかさずに言った! 言質とっったぁ!!
キャスカと二人きり……新婚気分で、うひょーー!
それから、父さんとカバル達が細かい打合せをしたりしている間、俺は、ウィズと久々に遊んだ。
打合せが終わった後、父さんは俺とウィズを車に乗せて、エティゴーヤの店に行ってくれた。 キャスカへのお土産を買いたいからと俺が頼んだのだが、そん時、ウィズも一緒に行きたいって言うから連れてきてやった。
エティゴーヤも父さんも、ウィズとカリナさんが付き合っている事など知らない……
本人達の事なので、俺の口から言う事じゃないし、その内、自分らで言うのだろう。
人の心配より……俺も、キャスカとの事を、ちゃんと……
エティゴーヤの店で、俺がキャスカに似合うと思うお土産を購入出来たし、久しぶりにカリナさんとも色々話が出来た。
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎるもので、この場所に少し長居してしまったようだ……外は、だいぶ日がしずんでいた。
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父さんの運転するオフロード軽自動車がライトをつける。
辺りが、すこし薄暗くなり始めている。
ブロロローー……
今日、俺と父さんは、カバルに雇われた。
俺は、通いで、ウィズの子守だ。
……友達と遊んで金がもらえる。
最高じゃないか! 素晴らしい! ウィズも喜ぶ、俺も喜ぶ!
自動車を運転する父さんは……納得いってない様子だが、自分の発言に責任をもっていただきたいもんだ。
俺は、町で買ったキャスカへのお土産、花の飾りがついた髪飾りを摘まんで眺めていた。
喜んでくれるかな?
これからは、二人で一緒に過ごすんだ。
帰ったら何をしよう?
明日は、何をしてあげよう?
楽しみが、希望が溢れて、喜びが俺の胸にこみ上げてくる。
世界は。こんなに輝いて、美しいものだったのだろうか?
「嬉しそうだな、おい」
父さんが言ったが……当たり前じゃないか!
「うん、父さんも母さんと二人きり、夫婦水入らずで、楽しみなよ!」
俺の口から、こんな言葉が出る日がくるなんて思いもしなかったけど、自然と口にしていた。
「生意気言うんじゃないよ。 ……博人、キャスカを泣かせるような事をするんじゃないぞ」
運転する父さんが言ったが、解ってるし、当然だ!
俺は、キャスカが大好きだし、愛してるからね。
そうだ、帰ったら、キャスカに伝えよう。
好きだって。
愛してるって。
大好きなキャスカの傍に、ずっと居たいって。
何回も、何十回も、何百回も、何万回だって伝えるんだ!
キャスカは、全ての世界でただ一人、特別だって事を!
俊夫は、そんな博人の様子を嬉しそうに見ると、前を向いた。
家までは、もう少しあるが……妻である朱美が愛おしく……抱きしめたいと思った。
久しく言って無かったが、愛してると……ちゃんと言葉にして伝えようと思った。
「……え?」
辺りが昼間のように明るくなって……
……俺が、そう思った次の瞬間、轟音と共に発生した爆風が俺達を!
この時、エスタディス国の東、カウル地方に巨大な火球が出現し、辺りを明るく照らしだす……
そして、凄まじい衝撃波と轟音が四方数十kmにわたって響いて……大爆発を起こした!
博人達の乗る軽自動車は、木の葉が吹き飛ばされるように転がり、辺りの木々も衝撃波によって薙ぎ倒れていった!
……隕石が落ちたのだ。
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「ぅう……なにが?」
激しい痛み……
何があった?
目を開けるとボヤけて見えていたが、段々と視界が戻ってくる……
「……?」
空が見えた……
どうやら、俺は、地面に寝かされているようだ。
「良かった! 気が付いたか!」
傍で、父さんの声が聞こえた。
父さんを見ると、怪我をしている……
「父さん…… イっ! 怪我してるじゃないか?!」
痛みを我慢して体を起こすと、向こうの方で、軽自動車が横転しているのが見えた。
……父さん
怪我をしているのに、俺を車外に運んでくれたんだ。
「俺は、大丈夫だ、止血もしたしな……しかし……」
父さんが、立ち上がって辺りを見渡している。
「何があったんだろう?」
俺が立ち上がうとした時、父さんが肩を貸してくれた。
そこらに倒れた木が散乱している……
「空に巨大な火球が見えた……あれは、隕石だろうな」
隕石? 言った父さんの顔を見ると……不安そうな顔をしていた。
キャスカ……
「と、父さん! 家、家大丈夫なのかな?」
不安になった俺が言うと、父さんは、頷いて、
「そうだな、早く帰ろう……歩けるか?」
俺に言った。
勿論だ!
「うん、大丈夫だから…… キャスカと母さんが心配だ、急ごう」
俺と父さんは、横転した自動車を起こして中に乗り込む。
フロントガラスが粉々になっているが……エンジンがかかった。
キャスカ……無事でいてくれ!
助手席の俺は、それだけを願った。
神様に祈った。
管理者と言う奴が、神様なら……俺の願いを聞いて欲しいと思った。
世界がどうなったっていい。
キャスカが無事でいるなら、敵が勝ってもいい。
自分勝手な考えだと言う事は解ってる、でも、それでも……
どこまで飛ばされたのか……俺と父さんは、月の位置を確認しながら、家のある方角を目指した。
進めば、進むほど辺りは荒廃していく。
それと共に俺の不安が大きくなって……
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車が停車した。
家に到着した。
「お兄ちゃん!」
キャスカが玄関から、飛び出して……
俺は、家があった場所を、ただ突っ立って見ていた。
基礎部分と、あと少しを残した姿の、俺達の家。
家屋が吹き飛んでいた。
「朱美ーー!」
父さんが叫んで、階段のあった所の瓦礫をどかしていた。
俺は、その様子を、ただ見ていた……
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パチパチ……パチ……
爆ぜる音、焚火の炎の明かりが辺りを照らしている……
帰宅して、どれくらいの時間がたったのだろう?
分からないし、どうでも良い……
そうだ、全てが、どうでも良くなった。
母さんとキャスカが死んだ……
瓦礫の中から見つけた毛布を体に巻いて俺は、ジッと焚火をみていた。
父さんは毛布を巻いて横になっている。
「……なぁ、母さんは、誰に殺されたんだ?」
……父さん?
俺が見ると、父さんは、横になって向こうを向いたままだった。
……起きてたんだ。
「天災だろ? 誰が悪いって訳じゃない……」
俺だって、誰かのせいにしたい。
理不尽な死への怒りの矛先を向けるべき相手が居ないのは不幸だ。
「……そうか」
父さんが、小さく呟いた。
「……」
俺は、悔しくって、……涙が出た。
キャスカ……
もう、あの声も、あの笑顔も、二度と見る事が出来ないのだ。
なんで、ちゃんとキャスカに好きだって伝えなかったのか?
俺が、早くに帰っていれば、一緒に死ぬことだって、……最後の瞬間を二人で過ごす事だって出来たのに……
後悔が、後から後からとめどなく溢れた。
その癖、キャスカの後を追って死ぬって選択もとれないズルい俺は、……俺に嫌悪する。
「……管理者のせいだ、俺達が、この世界に来なけりゃ、朱美は死ぬ事がなかった」
……父さん?
「……敵の転移者を殺せば、また、会えるよな? 管理者に……」
父さんの呟くような、か細い声が聞こえた。
「……」
俺に解るわけがない。
……だけど、目標が出来たようなきがした。
それが、キャスカへの贖罪になどならないのかもしれないし、きっと……そうなのだろうけど……
これは、完全なる俺と父さんの自己満足…… だけど……
「殺ろう…… 父さん」
俺は、毛布を頭からかぶって、横になった。
……母さんと、キャスカが死んだ。
残酷なこの世界は、母さんとキャスカを弔う事さえ拒むように、亡骸さえ俺と父さんにくれなかった。
理不尽な事は、往々にして突然で、納得いかなくて……だから、理不尽なのだろう……
どうでも良い……
管理者を殺す為に、俺と父さんは、前を向く。
って事で、次回も、乞うご期待!




