第16話 キャスカが女の子で悪いか
ウィズが俺のキャスカを女だと言い出した。
弟として対外的に言ってるのに……こんな事だけ鋭い奴だ。
……いや、可愛いもんな、キャスカって。
いきなりウィズがキャスカの事を女の子だと言い出した。
ウィズ……お前って……抜けてる癖に、こう言う余計な事だけ鋭い奴なんだな。
俺だってキャスカが女の子だって知ってるけど……キャスカが自分から言わないのに、俺が言えるか?
少なくとも俺は、キャスカの意思を尊重したいので自分から言う事はしない……つもりだったのに!
ポテトチップスを持ってきてくれたキャスカが、ウィズの発言を聞いて固まっている……
俺達の会話を聞いていたのだろう……自分が女の子だとバレたと……
「キャスカ君、どうしたの? 座りなよ」
「あっ、う、うん」
カリナさんが、ポテチを持って呆然と立っているキャスカに声をかけてくれ、俺の横にキャスカが座った。
「お、お兄ちゃん、ハイ!」
「おっ、おう!」
俺は、キャスカからポテトチップスの袋を受け取ると、封を開け、広げた。
油とジャガイモの香りが漂う。
「ほらっ! 旨そうだろ? ポテトチップス! みんな食べてみて! うん? 俺から食べちゃうぞ!」
俺は、ポテチを数枚手に取り、口に放り込む! うん、味がしない…… ウィズが余計な事を言うから!
「美味しそうね! ウィズもいただきましょッ! 大体、あんた、いくらキャスカ君が可愛いからって、男の子を女の子って、モテなさ過ぎて見境無くなってるんじゃない?」
カリナさんが、ポテチをつまみながらウィズに言ってくれた。
「ハハハ、だよねーー、こらっ、ウィズ! 弟を変な目で見ないでくれよ」
俺は、言いながらも。変な汗が出る……
「そ、そうですよ、ウィズさん、怖いなぁー」
ぎこちないがキャスカも続けた。
「うるせーよ! 誰がモテないって? 彼女が出来ないんじゃない……今は、女に興味が無いから、彼女をつくらないんだ」
ウィズが言いながらポテチをつまむ。
「えっ?!」
「なっ!」
ウィズとカリナさんの表情が変わる。
何?! 何なの?
「ちょっと、博人君! なによ……これっ!」
カリナさんが俺に、凄い剣幕で……座った時にパンツを見ていたのがバレたのかっ!
「パリッと、カリッとした食感に塩の風味……噛むほどに油と芋の甘味が口に広がり、その口内の快楽が消え去るのを本能が拒むが如く、無意識の内にコイツを口に入れている……止まらねぇ! 止まらねぇよ!」
バリバリとウィズがポテチを口に延々と運びながら解説してくれたが……そこまでか?!
カリナさんも、手が止まらないみたいだ……
と、とにかく……気に入ってもらえたようで良かった!
「二人とも、喉が詰まるよ! コーラを!」
俺は、二人のコップにコーラを注ぎ言った!
「なんじゃ、こりゃっ! ぅまぁーーい!」
ウィズ……
「甘いのと、しょっぱいので……とまんなぁーーい!」
カリナさん……
「フフフ……これが、ポテトチップスとコーラ! 最高の組み合わせだ!」
俺は、キリっとして言った! 二人とも俺の言葉など聞いてない様子だがな!
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あっと言う間に、ポテチは無くなり、コーラの残りも少なくなった。
油と炭酸で、結構腹が膨れた。
「ご馳走様。 ありがとね、博人君」
カリナさんが、指を舐めて俺に言ったが、その指を舐めたい。 だが、言ったら確実に変態認定決定なので言わない俺。
「ずるいぞ! お前だけ、こんなの食べて!」
言われても…… ウィズ、そんなに興奮するほどの事か?
「今度、また別のお菓子用意するから、いつでも遊びに来たら良いよ」
俺は、なんだが気分が良かったので、言ってあげた。
「きっとだぞ!」
ウィズ…… そのリアクション、なんか、凄く嬉しい。
「私も、来てもいい?」
カリナさんが言ったが、当たり前ですよ!
「もちろん! カリナさんは、特別です!」
むしろ、お菓子もってカリナさんに会いに行きますよっ! って勢いで俺は言った!
可愛いぜ! カリナさん!
「そんじゃ、驚きついでに、大魔導士の父さんが考案したゲームでもするか!」
俺は、トランプを取り出し言った。
テレビゲームは……まだ早い。
それに、友達が家に来る事も無かったし、一人っ子だからパーティーゲームなんて持ってないしな!
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楽しい時間は、あっと言うまだ……
あたりが暗くなり……
車に乗ったウィズとカリナさん。
「……帰りたくないが、博人! また、明日な!」
ウィズ……
「うん、楽しかったね! 博人君、また遊ぼうね!」
カリナさん……
「二人とも…… 俺、明日、また町に行くからね!」
俺は二人に言った!
「そんじゃ、二人を送ってから帰るから、先に食べててくれ」
父さんが、母さんに言ってエンジンをかけた。
「父さん、頼んだよ、二人とも今日は楽しかった! ありがとね」
俺が言って、車が走り出す。
俺は、車が見えなくなるまで見送った……
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晩御飯を終えて、風呂に入った俺は、部屋で漫画を読みながら、ベッドで横になっている。
「あー、気持ちよかった!」
キャスカが、風呂から戻ってきた。
「お疲れ。 今日は、ありがとな。 ちゃんと、髪乾かしてきたか?」
俺は、漫画を読みながら言った。
「うん、ちゃんと乾かして来たよ」
俺が見ると、キャスカが言うように、キャスカの髪が乾いていた。
「なぁ、キャスカ、……お前、男のフリすんのしんどかったら、辞めていいからな」
俺は、漫画を読みながら言ってあげた。
キャスカは、一瞬驚いたような表情をしたが、視線を下に落とし、
「……知ってたの?」
小さな声で言ったキャスカ……
「うん、まぁ……」
俺は、漫画を読みながら答えた。
「なんだ、知ってたんだ……」
キャスカが言って、部屋に沈黙が流れた。
「……父さんも、もう居ないし……」
呟くキャスカを博人が後ろから抱きしめる。
「え?」
キャスカが小さく言って、驚いているのが伝わってくる……
「大丈夫だよ…… 俺は、キャスカの味方だ」
俺は、キャスカのしたいようにさせてあげたいし、尊重したい。
わがままを言えば、どこにも行って欲しくない……傍にいて欲しくて……俺は、言った。
「僕…… 女の子になっても、俊夫さんや朱美さんに嫌われないかな?」
「当たり前だろ? 男だろうが、女だろうが、キャスカはキャスカだ。 何も変わらない……俺は、嫌ってない」
「……うん、……ありがとう……博人」
カリナさんは、綺麗なお姉さんだし、好きになろうと思ったけど……やっぱり、俺は!
「キャスカ! 俺は、初めて会った時から、お前の事が!」
俺は、キャスカを強く抱きしめてい言っ
「博人ー、明日なんだけど……」
「……」
「……」
「……」
俺、キャスカ、父さん……
部屋に沈黙が流れ、キャスカを抱きしめる俺。
「うん、よし、博人、キャスカから離れなさい」
俺は、父さんの言葉に従い、キャスカから離れた。
「キャスカ、こっちへ」
父さんに呼ばれて、キャスカが立ち上がる。
バタンッ……
父さんが、キャスカを連れて、部屋を出て行った。
「……」
……コレって?
「ぬおおぉぉぉぉーー! コレって、不味いんじゃないの?!」
一人、部屋に残された俺は、頭を抱えて、ベッドに飛び込んだ!
だから、部屋に入る時は、ノックをしろと!
いや、今は、そんな事より、誤解を!
誤解?
キャスカに抱き着いて、誤解も何もないだろ、俺!
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町田家 リビングーー
「朱美……」
真っ青な顔の俊夫が、キャスカを連れて、2階から戻ってきて言った……
朱美は、俊夫のただならぬ雰囲気を感じ取る。
キャスカは、おどおどして……
「どうしたの? 明日の打ち合わせに博人連れてくるんじゃなかったの?」
様子の可笑しい俊夫を見て朱美が聞いた。
「とうとう、博人が……やらかした」
俊夫が食卓に着き、片手で頭を抱える。
「どう言う事? 話が見えないんだけど?」
ただならぬ様子にソファーから立ち上がる朱美……
「……こんな、小さな子に抱き着いて、手を出そうとしてた」
キャスカを指さし、うなだれる俊夫。
「え? あっ、いや、男の子に?! いくらなんでも…… 博人が?」
朱美の問いに、力なく頷く俊夫…… 朱美は、息を吞んだ。
「あっ、あの、違うんです! 僕は、もう14歳です!」
キャスカが言った!
「? ……小学生くらいかと……いや……しかし、未成年だ!」
俊夫が、キャスカを見て言うと、朱美も、
「……そうね、未成年のしかも、男の子に……彼女が居ないからって……」
「あ、あのっ! ぼ、僕は、僕は、女の子なんです!」
キャスカが叫んだ。
そして、その時、博人は、部屋で布団に頭をうずめ悶絶していた。
「うん、女の子はいいんだが、博人をどうするか…… って、はぁ?!」
俊夫が驚いて、キャスカを見る!
「うっそーー! きゃぁーー! キャスカちゃん!」
朱美がキャスカに抱き着く。
「く、苦しい……」
ギュッと強く抱きしめられ、声を漏らすキャスカ。
「ごめんなさい! 可愛いもんね、キャスカちゃん! 嬉しいわ、娘が出来るのね! 男しかいないから、娘が欲しかったの私! だから、興奮しちゃった!」
朱美は、キャスカを抱きしめ、キスして言った。
キャスカは、安堵すると共に、ちょっと怖かった。
「なんでまた、そんな、男のフリなんかしてたんだ?」
俊夫が呆れた様子でキャスカに聞いた。
「あ、あの、父さんが、旅で何かあったらいけないから、男のフリをしなさいって……」
朱美に抱きしめられているキャスカが、答える。
その言葉で、キャスカの父さんの真意を感じ取った俊夫は、納得した。
「キャスカ、もしかして、博人は、その事……」
「なんで男の子のフリをしていたかは、言ってないから知らないと思うけど…… 僕が、女だと言う事は知ってたみたい」
俊夫は、腕組をして考えこみ……
「今日は、俺が俊夫の部屋で寝る。 キャスカは、朱美と俺達の寝室で寝るんだ」
そう言って、俊夫は立ち上がり2階へと向かった……
キャスカは、心配そうに俊夫の後ろ姿を見る……
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コンコンッ
「博人いいか? 入るぞ」
珍しく父さんが部屋のドアをノックして入ってきた。
タイムラグがあったので俺は、布団から頭を出す。
父さんが、神妙な面持ちだ……
「……なに?」
俺は、どうせ父さんが小煩い事を言うのだと思って答えた。
「今日は、俺が、ここで寝る。 どうしてかは、解るな?」
はぁ? なんでだよ?
「……」
あっ!
「キャスカが女だからか?」
俺は、キャスカの布団に入る父さんに言った。
「そうだよ、……ったく、お前な、ちゃんと言わないとダメじゃないか」
そんな事言ったって……
俺は、ふてくされて、布団をかぶる。
「おい、寝るなら、電気消すぞ?」
「……」
答えないでいると父さんが電気を消した。
そして、沈黙が流れる……
時計の秒針が動く音が聞こえるくらいに神経が過敏になっている……
「なぁ、キャスカの事が好きなのか?」
「……」
「……遊びでなら、やめとけ、そん時は、許さないからな」
「……」
「そうじゃないなら…… 好きにしろ…… 日本じゃないんだ…… 誰に気遣う事も無いだろうしな…… 」
「……」
「おっと、ただ、お前が18、キャスカが16になるまで、ダメだからな! って、その前に、キャスカがお前を選らばない時は、諦めろ、それだけは、約束しろ」
「……解ってる」
父さんが言うまでもない事だ。
キャスカを幸せに出来る男に……俺は……
俊夫は、博人の言葉を聞いて、少し笑うと体を横にして寝ようと思った。
父さんが部屋に来て、キャスカの事を……
俺はキャスカが大好きだし、ずっと一緒に居たいと思ってるんだ、遊びで付き合う訳がないだろう?!
それより……キャスカ、頑張って、自分で、自分が女だって言ったんだな。
俺は、お前の味方だ。
これまでも、これからも……
って事で、次回も、乞うご期待!