第12話 俺の親友。
この世界に来て数日……
平気なようで、俺の心は、疲弊していたようだ……
7月16日 7:18
朝が来た。
学校の夢を見た。
別に楽しくなかった。
普通に授業があって俺は、ボケっと窓の外を眺めているだけの夢。
そして、目が覚めて、キャスカが寝てて……どっちが現実なのか、寝ぼけた頭でいる時、俺は迷う。
いつか、慣れる日がくるのだろうか?
ん?
なんで俺、帰らない前提で考えてるんだ?
キャスカがいるから?
別に、日本に何時でも帰る事が出来るから良いいやって思っていたのだが……俺が、俺達家族が日本に帰ったら、キャスカはどうなるんだろうか……
一緒に?
そうだよ! キャスカも日本に一緒に帰れば……
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「ダメだ! そんな考えは忘れろ!」
リビングで、父さんに相談したが、怒られた。
なんでだよ? 意味が解んねぇよ!
「博人、私達が、ここに居れば、キャスカだって寂しくないでしょう?」
母さんまで……
「どうして、父さんも、母さんも…… 日本に帰ろうとか、思わないのかよ!」
叫んでた。
キャスカが、聞いていた。
「お兄ちゃん、何処かに行っちゃうの?」
「キャスカ…… 日本だよ! 日本に一緒に行こう!」
俺は、キャスカに言った。
「日本? お兄ちゃん達がいったってところ?」
「博人! ダメだと言ったろう! キャスカ、俺達は、どこにも行かない、ずっとここに居るから、博人の言った事は、忘れろ!」
父さん……
「なんだよ! 意味わかんないよ! 父さんも、それに、母さんも!」
「博人!」
「お兄ちゃん!」
母さんとキャスカが、俺の名を呼んでいたが、俺は、家を飛び出した。
自転車にまたがり、走った。
ここに居たくなかった。
父さんも、母さんも正体不明だし…… 本当の事を教えてくれない。
そんな事より……なんで、キャスカも一緒に日本に帰っちゃいけないんだよ!
「くそっ!」
博人は、モヤモヤした気持ちをぶつけるように、自転車を漕いだ。
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「俊夫……」
朱美が、ソファーに座る俊夫に声をかけた……
「解ってる……、俺に覚悟が足りなかったから……」
俊夫が呟くと、立ち上がった。
「キャスカ……理解できないと思うから、掻い摘んで言うぞ、俺達は、この世界と違う場所から来た。
……多分、その時が来たからだ。
そして、俺達の元いた世界は、崩壊する。 いや……そもそも無かった事になると言った方が良いのか……
俺達は、そうならないように……人柱として、世界に選ばれたんだ。
そして、この世界の人間である、キャスカ……お前は、俺達の世界に行く事は、出来ない……多分、俺達の世界に入った場合、お前と言う存在は、消滅する……」
理解しろと言う方が無理である、だが、キャスカは、博人達の世界が崩壊する事、そして、博人と同じ世界に行く事が出来ないと言う事だけは、理解できた。
「な、なら、みんな、向こうに戻るより、ここでずっと一緒に居ようよ! 向こうの世界が崩壊するんでしょ?」
キャスカが、良いと思う事を俊夫に言った。
「ああ……そうだ、ずっと一緒だ。 そして、俺達がここにいる事で、向こうの世界は、崩壊しない……」
俊夫は、キャスカの頭を優しく撫でた。
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7月13日
日本
東京
国連直轄機関 国際次元管理局 日本支部ーー
「黒部観測所から入電! 本日、7時13分、次元振動特別警戒区 栃木県佐倉市で次元震を観測! 今回の次元震は、現実世界に影響を及ぼす規模!」
「現在、巻き込まれた住民、18世帯 82名 重軽傷者は、県内の病院に緊急搬送!」
「震源地の家屋消滅! 次元間移転と思われる!」
国際次元局へと続々と報告が入ってくる。
警察、消防、関係各機関へは、ガス管の破損による引火によって起こった爆発として処理を指示。
国際次元管理局 日本支部長 長澤 正道は、アメリカの本部への報告を終え、自室の椅子にもたれかかった……
「とうとう、来たか…… 我々の世界の存亡の時が……」
今までの、準備が試される時が来た……今回は、日本に……
長澤は、机に置かれた資料に目を通す。
「俊夫…… 朱美さん…… 博人君…… お前達が、今回、この世界を守る役目を負う者達になるなんてな……」
長澤は、資料に目を通していく……
黒部観測所の所長である「飯島 健吾」と長澤、そして、町田 俊夫は、学生時代からの友人であった。
全世界各地に設けられた次元振動特別警戒区 その場所の住民は、同じ特性を持っている者が集められている。
特性とは、次元の振動、次元振に強い遺伝子を持つ者である、つまりは、異世界とこの世界がつながった場合に、行き来する事が出来る者……
そして、その中にあって、次元振を引き付けやすい者、そう、雷の避雷針のような者達は、次元転移しやすい為、世界各地を回り、生き残る為の厳しい訓練が課された。
どんな世界に行っても死ぬ事がない強靭な精神と肉体、そして技術を得るために……
そして、世界を守る役目を負った、選ばれし者が、タイムトラベラーと呼ばれる者達、時の漂流者となる。
町田 俊夫と、結婚前の金田 朱美も訓練を受けた者であった。
優秀な成績を修めた二人が結ばれ、その子供と共に、今回の次元振に選ばれた。
その子供が、もし、向こうに行って生きているなら……彼もまた、特性があると言う事だが……確認するすべは無い。
我々は、ただ、待つだけだ。
世界が存続するのか……終わるのかを……
歴代の時の漂流者達が行い、そして、町田一家が世界の崩壊を防ぐ、その為にする事とは……
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「うおおおーー!」
足がつりそうだ!
家を出て、2時間も自転車で走っていると……家を飛び出した事を、猛烈に後悔している俺がいた。
だが! 今更、どんな顔して戻ればいいんだよ!
大体、父さんと母さんがホントの事を俺に教えないのが悪い!
「くそぉぉーー!」
思い出したら、腹立ってきた! 怒りが俺に力をくれる!
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博人は、それから更に2時間、自転車を漕いで、ハーヴェストの町に到着した……
「ハァーー、ハァーー……着いたぁ……!」
俺は、プルプルする足で、エティゴーヤの店へと向かった。
「まぁ! 博人さん、どうしたの?!」
「カリナさん、君に会いたくて、自転車で4時間、すっ飛ばして来たんだよ」
「あの距離を? 私に会いに来てくれる為に?」
「ああ、父さん達にも愛想が尽きた…… そんな時、君の顔が浮かんだ。 そうだ、愛するカリナと一緒に生きて行こうと思ったんだ!」
「嬉しいわ! 博人、抱いて!」
「おい、おい、カリナ、お父さんにも挨拶しないといけないから、あ・と・で・な!」
「うーん、凄い男だ、博人君、店と、カリナを貰ってくれないか! 俺は、二人を邪魔しないように旅に出る!」
「ああ、エティゴーヤ! 任せろ! そして、旅に出ても、元気に頑張れよ!」
後日、エティゴーヤが、旅の途中、崖から足を踏み外して、消息不明に……
ブツブツ……
博人は、自分勝手な妄想をしながら、ブツブツと呟きフラフラとした足取りでエティゴーヤの店へと向かっていた。
「あれ? アレって、博人じゃん?」
フラフラと自転車を押して歩く博人の姿をウィズが確認した。
「おーーい! 博人ーー!」
ウィズが博人の名前を呼んで、走り出す。
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7月16日 12:00
「やっぱ、お前、良い奴だよー! 損する性格なんだろうな、お前!」
「いいから、落ち着いて食べろよ、恥ずかしい!」
ウィズが恥ずかしそうに言った。
俺は、ウィズの奢りで、食堂にて、食事をいただいている。
朝飯抜きで、ここに来たから、腹が減って、減って……
そんな俺に、この、ちびっこギャングが……良い奴だよ!
「で、どうしたんだよ? フラフラになって?」
呆れたように、聞いてきたウィズ。
「父さんと喧嘩して飛び出してきた! 父さんも、母さんも、俺を子供扱いしてんのか、大事な事を教えてくんないし、信用してないのかって話だよな!」
「ふうん、お前も、大変そうだな…… でもな、お前は、父さんと母さんだけだから、まだいいぜ! 俺なんか、兄貴に、爺さんまでいるし、みんなから信用されてないんだ、それに比べりゃマシってもんじゃないのか?」
俺の手が止まる。
「ウィズ……、そりゃ、キツかったなぁ、グレてもしょうが無い! 許せぬ! こんなに、良い奴なのに!」
俺は、叫んだ! 納得いきませんよ!
「や、ヤメロ! デカい声で、恥ずかしい……」
ウィズが恥ずかしそうにして、フフフ、可愛いもんだ。
ウィズと要ると、何か素直になれる。
これが、親友って奴か? そうなのか?
自慢じゃないが、俺は、友達がほとんど居ない。
なんか、めんどくさそうだったし……
「よーし、ウィズ! お前と俺、親友な! 今日は、これから遊ぼうぜ!」
「博人……恥ずかしい事を堂々と……ほんっとに、お前って、面白い奴だ。 良いぜ、今日は、一緒に遊んでやるよ!」
俺に、人生初の親友が出来た瞬間だった。
博人に親友が出来た。
日本にいた時は、世の中を斜に構えて、友達なんてくだらないと思っていたが、異世界にきた事をきっかけにして、自分に素直になった。
友達は、良いものだ。
そして、父さん達の秘密……
って事で、次回も、乞うご期待!