Ⅷ「宰相さんに会いました。」
魔王城滞在から2ヶ月になりました。
今日はこの国の宰相さんという方からお話がしたとのことで、魔王様に連れられ彼の執務室まで来ています。
何故に魔王様に連れられているかといえば、私に前回の私からの手紙を渡した時から私の部屋で昼食を食べる事が日課になっているから。
どうしてわざわざ私の部屋まで来るのか聞くと。
「あの部屋にいることは宰相には言っていないから」
と。今まで使っていた部屋は宰相さんが突撃をかましてくるから、落ち着いて食べれないという。
宰相さんや、ご飯くらいはゆっくり食べさせてやれ。
私の中では「仕事人間宰相さん」というイメージが出来上がっています。
ちなみに、私が召喚された時に謁見の間にて魔王様の隣に立っていたヒゲのオジ様は、宰相補佐だったらしく。その日は別件の仕事で城外に行っていたそうだ。
「ラインズ…あぁ、宰相はな。お前の召喚を最後まで反対していた一人なんだよ」
「それはまた、どうして?」
「前回のお前の頼みとはいえ、今のお前とは関係がないってな。宰相は心配性なところがあって、お前のことを気にかけてるんだよ」
だから召喚の日には城の外に行かせ、邪魔されないようにしていたそうな。
当然、帰ってきてから私の召喚がされたことを聞いた
宰相さんは怒り狂ったらしく、そのせいか最近の仕事量が半端ないと魔王様は溜息をついた。
「ところで、その宰相さんは?」
「アイツも仕事が多いからな。午前に終わらせる仕事が片付いたら来ると言っていたし、そろそろーーー」
来るだろう、という魔王様の言葉を搔き消す勢いでバァンッと開かれた執務室のドア。
ノックすらなく開いたドアにびっくりして固まる私と魔王様の視線の先には、長い銀髪を首の後ろで縛った、若葉色の瞳をした魔族の男性が一人立っていた。
魔族は一様にみんな見た目がよろしいので、乱入してきた男性もなかなかに美形さんです。美人、の方がしっくり来るかな。
その方は正面の机に座る魔王様、ついで部屋のソファの一つに座っていた私に視線を移し。
「センリちゃぁん!」
「のわぁ!」
と抱き着いてきた。魔族の方達はスキンシップが過剰ではないか。
というか、今「センリちゃん」て言った? しかも何やら裏声のような喋り方だったような?
タックル&ハグをかましてきた男性(?)は、私に抱き着きながら頭を撫でてきた。
「ごめんねぇ、アタシが居ながら、召喚を止められなくてっ」
「その日はお前、不在だったろ」
「アンタのせいでねっ! おかしいと思ったのよ、普段はあんな仕事をアタシに任せたりしないのに!」
少し私から身体を離し、キッと魔王様を睨む美人さん。あれ、失礼ながら男性だと思っていたけど、女性さんですか?
いや、密着した時に感じた、硬い胸板は間違いない。さすがに女性でアレは、うん。
あからさまに顔を背けた魔王様に、とりあえずヘルプを出した。
「魔王様、この方が?」
「ん? あぁ、そうだ。宰相のラインズ・ショルターだ」
「あら、ごめんね。今の貴女にとっては、はじめましてになるものね」
どこか恥ずかしそうに頬を染め、身体を離してくれたラインズさん。あの、本当に性別はどちらですか?
まずは落ち着こうと私の対面のソファに座ってもらった。脚を綺麗に揃えて流している姿は、私よりも余程女性らしいです。
「改めまして、デュークランゼの宰相をしているラインズよ」
「…失礼ですが、男性ですか? 女性ですか?」
「ふふっ、前回の貴女も同じことを聞いてきたわね。普通はみんな遠慮して聞いてこないものなのだけど」
「すみません、正直なもので」
「素直な証拠ね、アタシは素直な子は可愛くて好きよ。そうそう、アタシは男よ。残念ながらね」
美人さんですもんね。女性ならさぞ、モテモテになったことだろう。いや、今でもモテそうだけど。
「本当はもっと早くに会いに行こうと思っていたのよ。だけど、そのバカのせいで仕事が溜まっててね」
「おい、それは俺のことか」
「アンタ以外に誰がいるってのよ。まったく、仕事ほったらかしてセンリちゃんと魔法の練習してんじゃないわよ。羨ましいったらないわ」
「本音が出てるぞ」