Ⅴ「私は勇者で、魔導師だったようです。」
「そういえば、私って魔王様クラスの力があったんですよね?」
「あぁ。お前の主だった呼び名は『勇者』だったが、他に『魔王の宿敵』やら『魔導師』やら呼ばれていたな。とりわけ、お前は『魔導師』と呼ばれる事が嬉しそうだった」
「ほうほう…確かに『魔導師』はカッコイイですな」
勇者も良いが、ちょっと恥ずかしい気もするからね。
魔導師かぁ……? という事は?
「私って、魔法でも使えるんですか?」
「使えるという話ではないな。魔導師というのは、魔法師の上位クラスだ。人間よりも魔法に適している魔族よりも、手足のように魔法を使っていたな」
「そんな凄かったんですか」
「魔導師というのも、敵ながら才能を評価した魔族が呼び始めたものだ。俺もお前の魔法には驚かされる事が多々あったぞ」
魔王様すら驚かせる魔法かぁ。そもそも魔法がどんなものなのかもよく分からないけど。
自分の手をグーパーして眺める私を苦笑して見ていた魔王様は、さて、と立ち上がった。
「すまないが、今日もここまでだ」
「忙しいんですね、魔王様」
「これでも王だからな」
そうでした。普通に話してるけど、この人、この国で一番偉い人だった。
部屋から出て行こうとする魔王様を昨日と同じように椅子に座ったまま見送っていると。
「失礼しますっ」
ドアを開けようとした魔王様よりも早く、外側からバンッと勢いよく開かれた。
眼を丸くする私と魔王様の視線の先では、一人の男性が息を切らしながらも部屋の中を見渡し。
目の前にいる魔王様をスルーし、私へと眼を止めると何やらキラキラとした瞳で駆け寄って来た。
「魔導師殿! また会えたな!」
「ぶっ」
駆け寄った勢いそのままタックル&ハグ。顔面を思いっきり相手の胸にぶつけた。いたい!
なかなか体格の良い男性に抱き着かれ、しかもなかなか腕に力が篭っており体が軋む気がした。
「おい、センリが死にかけてるぞ」
「うわっ、申し訳ない!」
呆れた魔王様の声にようやく身体を離してくれた。打ち付けた鼻をサスサスしながら、男性の顔を見上げる。
藍色の髪に水色の瞳をした男性は、当然頭にツノがある。まぁ、魔族の国なのだがら彼も魔族なんだろう。
この態度は、前回の私の知り合いっぽいけど。
「すみません、どちら様でしょう」
「うっ…分かっていたとはいえ、こうも正面から他人行儀で話しかけられると悲しい……」
「だから、それも説明していただろう」
私の反応に胸を押さえる男性。リアクションが外国人です。外国人みたいなもんか?
男性は私の前に膝をつき、私と視線を合わせながら手を取り握り締める。
「私はデュークランゼで宮廷魔法師をしている、シュナイゼン・ランセロット。前回の魔導師殿からは魔法をご教授してもらっていたんだ」
「え? でも私は敵だったんですよね?」
「そんなものは何十年も前までの話だ。言っただろう、お前は俺の友であり、ここで最期を迎えたのだと」
魔王様へと視線を向けると、仕方がないといった笑みを浮かべシュナイゼンさんを見ている。
シュナイゼンさんはというと、変わらず私の手を握ったままキラキラした瞳で伺っていた。
なんか、犬っぽい人だな。いや、人ではないんだけど。
「…えっと、センリです。私としては、はじめまして、です」
「あぁ! またお話しできて光栄だよ!」
そういってまた抱き着かれた。ちょ、ヘルプ!
息が苦しいので彼の背をバシバシ叩くも、何を勘違いしたのか「魔導師殿ぉ!」と更に腕の力を強くされました。
違う! 離してくれ! せめて少しだけ腕を緩めて!
バンバン遠慮なくシュナイゼンさんを叩いていると、ドアの方から盛大な溜息が聞こえ、ベリッと私からシュナイゼンさんが引き剥がされた。
シュナイゼンさんは引き剥がした魔王様を不満げに振り向く。
「王よ、私と魔導師殿の感動の再会を邪魔しないでくれ」
「何が感動だ。感動しているのは貴様だけだ、馬鹿者。前回のセンリにも抱き着きが過ぎると怒られていただろうが」
「アレは魔導師殿の照れ隠しだ」
「…その調子だと、また嫌われるぞ」
「大きなお世話だ………待て、また? また、と言ったか王よ。どういう事だ⁉︎」
ボソッと呟かれた発言にシュナイゼンさんが凄い食いついてるけど、綺麗に無視する魔王様。視線は明後日の方向です。
それにしても、随分と仲が良いね。王様とその配下のはずなんだけど。魔王様も王様にしては気さくだと思うけどね。