Ⅳ「証拠とやらを貰いました。」
翌日、またお昼を食べているところへ魔王様が部屋へ訪ねてきた。
今日もちょっとした会話をしながら食事をして、私が食べ終わる頃に魔王様は話を切り出した。
「さすがに、俺の言葉だけでは信じきれないだろう。お前も言っていたからな……あぁ、前回のお前がな」
「私が?」
「自分が疑い深い事を自覚していたからな。もし、俺の言葉だけでは信じられないようだったら、コレを、と」
そう言うと、魔王様はポケットから一枚の封筒を取り出して私へと差し出した。
伺いの視線に頷かれたので受け取り、封を開ける。
中には、一枚の手紙が入っていた。
「コレは?」
「前回のお前が残したものだ。中身は俺も知らない。ただ、渡せば何とかなると言っていたな」
随分と適当な事だ。何となく私にも覚えがある言動だが。
そういった細かい言動の節々から私自身を感じるのも、彼の話を嘘だと断言できない理由だ。
とりあえず何が書いてあるのか、私は手紙を開き中身に眼を通した。
そこには、見慣れた日本語が、見慣れた私の字で書かれていた。
『私の事だから、彼の言い分だけじゃ信じられないって思うはず。そして、こんな手紙を残して、ただ「信じて!」なんて言ったって信じないでしょ?
だから、ここに私しか知らないはずの事を書く。きっと私なら、そうするはずだから。
私の本名はーーー。
どう? これなら私でも信じるでしょ』
そこに書かれていた名前に、私は確証した。
確かに、これは私が書いたのだろう。
それは、私しか知らないはずの名前だから。
「どうだ?」
「確かに、私はこの世界に来たみたいですね」
「信じるのか? それは罠かもしれないぞ」
「例え、魔王様が日本語を読み書きできるのだとしても、ここに書いてある事は私しか知らないはずの事ですから」
「…ふむ、どうやら随分と重要な事が書いてあるようだな。前回のお前も『これなら絶対に信じる』と自信満々だった」
その時の様子を思い出したのか、面白そうな表情を浮かべる魔王様。
私じゃない…いや、私ではあるんだけど、私の知らない理由で私が笑われるとは。何故私が恥ずかしい思いをしなければならないんだ、前回の私。
この手紙は貰っても良いとの事なので、とりあえず部屋にある机に仕舞って置いた。ここに来て初めての私物ですよ。
とりあえず、私がこの世界に来た事は確か。
でも、もう一つの謎があるよね。
「なんで、魔王様が私を召喚する事に?」
前回の私は魔王様の友達だった、という事はここで最期を迎えたんだろう。私が召喚されたという事は、前回の私の体が使われたはず。
ただ私の召喚の連鎖を止めるだけなら、人間側に私の体が渡らなければ良いはずなんだよ。
それに、魔王様が最初に言った「勇者を討伐せよ」という言葉。
それってつまり、私以外の勇者が現れたって事だよね。
その疑問をぶつけると、魔王様は神妙な顔で頷いた。
「前回のお前がここに来た事で、人間達はお前を召喚する為に一番重要となる媒体を失った。そうなれば、もうお前を再び召喚する事はほぼ不可能だろう。
だから人間達は、他の勇者を求め新たな存在を呼んだ。それが、今の勇者だ」
「ちなみに、その人が召喚されたのはいつ頃?」
「3年程前だ。前回のお前が死んだのは、それから1年後。今から2年前だ。そしてお前をまた召喚する事になったのはーーー他でもない、お前自身の頼みだ」
「え、私?」
まさか私自ら召喚される事を望むとは。
首を傾げる私に、何故だか魔王様も困った顔をする。
「それが、俺にも言わなかったんだ。とにかく、自分をまた召喚してくれ、と」
「うーん…何か思い当たる事はないんですか?」
「むしろ俺が聞きたいくらいなんだが」
お互い身に覚えがなく、首を傾げるのみ。
魔王様は私から聞いた事がなく、私はそもそも前回の私であって私じゃない。今の私には、またこの世界に来る理由は思いつかない。
何かしらの理由があったのだろうが、ならそれこそ手紙にでも残しておいてくれれば良かったのに。
恨みがましく机に仕舞った手紙を睨むも、現実はそんな事が変わりません。