ⅡⅩⅦ「ランクアップしました。」
討伐部位を確認してもらい、無事に依頼4つを終えた私。
「でででは、緑を3つ以上達成いたしましたので、冒険者ランクが上がりましたですっ」
「おー」
はいっ、と手渡された登録証は白から緑へとランクアップしていた。
これで私もかけだし冒険者です。初心者期間、1時間くらいだったけど。
「これで青まで受けられるんですよね」
「そそそそうでございますです!」
「じゃあーー」
「はい、これで」
「ふぇぇぇぇ……登録したその日に青ランクにまでぇぇぇ」
更に青の依頼書10枚に満了の印が押された。
いやぁ、さすがに青ランクにまでなると魔犬30体とか討伐数が多いねぇ。
「時間がかかっちゃいました」
「たったの3時間でしたぁぁぁ」
「そうですか? まぁ、数は多いですけど強くはない相手ですからねぇ」
「たたた単体ではそうですけどっ。ほ、本来なら青ランクからはパーティで受けるものなんでございますよ!」
両手を握り締めて叫ぶジェスさんの頭を撫でて落ち着かせ、改めて青になった登録証を受け取った。
そうか、パーティ向けかぁ。だから討伐数が多くなってたのか。そりゃ大変だわ。
ふむ、青ランクは冒険者として一人前として認められたようなもの。受けられる依頼も多いし、報酬もそれなり。
今日の稼ぎは銀貨30枚。ふむふむ。
「ジェスさんジェスさん」
「ふぇぇぇ、センさん頭ぁ」
「あ、すみません」
考え事しながらずっとジェスさんの頭をナデナデしてしまっていた。
ボサボサになってしまった髪を手櫛で直しながら、何やらブツブツ呟いている。
「おかしいのですこんな早く青ランクにまでなってしますなんてそんなの過去に魔導師と呼ばれた彼の方くらいででも彼の方はもういらっしゃりませんし彼の方ほどの実力者なんてそれこそ」
「おーい、ジェスさーん?」
「ふぁいっ⁉︎」
「ジェスさん、今晩とか御用あります?」
「こここ今晩でございますか?」
「はい、よろしければ夕食をご一緒にしませんかと。もちろん私が奢りますので」
「ななななんと⁉︎」
「それで、色々と教えて欲しいこととかあるので」
どうでしょう、と首を傾げる。用があるのなら無理にとは言えないですが。
口をポカンと開けて固まってしまったジェスさん。
おーい、と顔の前で手を振ると、ようやくパチパチと瞬きをして動き出した。
「こ、今晩はととと特に予定はないでございますですっ」
「じゃあ、良いんですか?」
「ははははいっ! 私でよろしければっ!」
「ありがとうございます。それなら、夜までもう少し依頼を受けようかな」
「えぇ⁉︎」
**********
「ジェスさーん、こっちですー」
ギルドの職員口から出てきた小柄の人影に、大きく手を振る。
新緑の髪をハーフアップにしたジェスさんが、私に気付いて駆け寄ってきた。
パタパタとした動きは本当に小動物だなぁ。可愛い。
「セセセセンさん! な、なんでございますかっ⁉︎」
おっと、つい頭を撫でていた。いかんいかん。
「失礼しました。それじゃあ、行きましょうか」
「はいですっ。そそそそれで、どちらに?」
「…………どこ行きましょうか」
「…………」
私、ここに来てから数時間でした。この街のことより周辺の森とかの方が、魔物退治で知っているくらいです。
魔物退治に集中し過ぎて、街について調べるの忘れてた。
「どこかおススメとかありませんか、ジェスさん」
「で、では、私がいいいいつも行く場所で、よろしいでございましょうか?」
「はい、お願いします」
こちらです、とジェスさんの案内でギルドから離れる。
時刻はもう日の沈んだ8時頃。時計なんてないから、体感だけど。懐中時計でも作ってみようかな。
昼間の喧騒とはまた違った、酒に酔った人達の騒ぎ声が大きい。
仕事終わりにお酒を飲んで騒ぐのは、どこの世界も同じだねぇ。
小柄なジェスさんを人波で見失わないよう気をつけながら、彼女の後を追う。
しばらく歩いて行くと、ジェスさんが一軒の店の前で立ち止まった。
「こ、ここでございますですっ」
ジェスさんが連れてきてくれたのは、落ち着いた雰囲気漂う、カフェのような店だった。
だけどーー。
「開いてない、ような?」
「よよよ夜はやっていないのでございます」
「なるほど……?」
つまり、案内してくれただけ?
しかし、ジェスさんは迷いなくお店の扉をノックした。店内、真っ暗ですよ?
何かあるのか、私も黙って待っていると、店内から人の気配と足音が聴こえて、内側から鍵が開かれた音が。
そして扉が開かれたところ、背の高い、やけに体格の良い女性が立っていた。
目の前に立つ私と目が合うと、面倒そうに顔を顰める。
「今はやってないよ、お嬢ちゃん」
「あ、ですよね。駄目ですよジェスさん」
「ん? ジェス?」
「こっちでございますよ!」
私よりも背の高い女性では、小柄なジェスさんは見えていなかったのか、手を挙げたジェスさんがピョンピョンと飛び跳ねて主張している。
私から更に視線を下げた女性に視線が、ジェスさんを捉えた。
すると、険しかった女性の目つきが随分と柔らかくなった。
「なんだい、ジェスの知り合いかい」
「きょ、今日ギルドに登録した、セセセセンさんですっ」
「セセセセン? 不思議な名前だね」
「センさん、ですぅぅ!」